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第1章
悠真の葛藤と蓮花の憂鬱
しおりを挟む重い足取りの中、森の中へ進みイルの村へ向かう。
途中でオークにより命を絶った子供たちの死体を見つけ吐き出しそうになるのを我慢して土へ埋める。
土に埋めることがこの世界での正しい埋葬かは分からないがとりあえずモンスターに食べられるよりも安らかに眠っていてほしい。
村へ近づくにつれ焼けるような臭いがしてくる。
どうやら燃えた家の火が燃え移り、イルの村が全焼していたようだ。
誰もいないイルの村は誰も消火活動をする者は居らず、あっという間に焼けて無くなる。
村が全焼する頃には昼が過ぎており、暑い日差しが悠真を照らす。
ところどころ白骨化した死体がゴロゴロと転がっている。
中には歪な形のものから木っ端微塵になった骨もある。
村の隅にシャベルのような道具があったため村の真ん中にある穴蔵を掘り下げ、村中の骨を埋める。
家の下にもしかしたら残った骨があるかもしれないがそこまで考慮することは出来なかった。
「皆さん、守れなくてごめんなさい……」
悠真に責任なんて全くない。
だが悠真の中では目の前で死んでいった子供たち、そしてユナの姿がフラッシュバックして止まらないのだ。
そして悠真は土で盛り上げた仮の墓の前に字を書き並べていく。
[イルの村──オークの手により全滅、そして全焼。亡くなられた方々のため、この村に立ち寄った際に黙祷を捧げてください]
最後に『悠真』と書いて文を完結させる。
墓の前に跪き手を合わせ黙祷する。
およそ1分ほど黙祷した後にゆっくりと立ち上がり歩き出す。
ユナの家に置いてた前の世界から持ってきた鞄もきっと燃え尽きているだろう。
手持ち無沙汰になった状態で悠真は東方面、迷いの森とオークを落とした森を上から見て右側方面へ歩き出した。
「どこへ行こうかな……」
再び悠真の孤独な一人旅が始まる。
何処へ向かうのか、そして目的は何か。
色々失ってしまった悠真にはそんなことを考えることは出来ず、ただひたすら真っ直ぐ進むのであった。
長く何も無い草の道を歩いていく。
先程まで周りは森だらけだったのだがもう何も無い草の少し生えた草原に出る。
周りにモンスターの姿は無く比較的平和なのだが、逆に食べられそうな食料も無い。
空腹感が悠真を襲い、足元がフラフラとふらついてしまい、倒れそうになる。
たかが半日飯を食べていないだけでこの始末。
世界には1日3食も満足に食べられない子供たちもいるのだが悠真は1食抜いただけで目眩がしてくる。
暑さと空腹、そして頭の中で広がる悪夢のような映像での不快感。
それ以外にも悠真の体を、心を蝕んでいるのだが今あげた3つが主な原因でもある。
「はぁ……はぁ……」
口の中が乾いてきてネバネバと変な味のする唾液が滲み出してきて嫌な感じがする。
辺りには川が無いので喉を潤すための飲料水を確保することが出来ない。
腰に納めている折れた包丁。
これで自害できる……と試そうとしたのだが何度も何度も頭の中で蓮花が言ってた聞こえそうで聞こえなかった声が響き阻止してくるのだ。
足元に小さなバッタのような虫が飛び跳ねている。
いざとなったらこの虫を……いやいや、さすがに虫を食べるなんて……でも空腹には勝てないから本当に最終手段として、だな。
空を見上げると小さな黒い鳥が3匹ほど飛んでいた。
普通なら「鳥が飛んでるな」程度しか考えれないのだが今の悠真には「食料、タンパク源……」としか考えられない。
鳥なんて生で食べたら食あたりをして腹を下しかねないのだが今はただ腹を満たしたいだけだった。
「くそ……なんでこんなことに……」
悠真は毒を吐きひたすら前へ進むのであった。
「クリードさん、やっぱり西園寺さんはダメでした」
「そうか、ならサイオンジさまと……何処かへ行ってしまったキサラギさまは欠席だな」
和田はクリードに訓練や講義に参加する人の名前を書いた名簿用紙を渡す。
悠真が何処かへ失踪した次の日、最初に気づいたのは庭で花の水やりをしていたエルナだった。
その事について誰か詳しく知るものはいないのかとエルナが聞き回ったのだが誰も「知らない」と言う。
だがただ1人部屋から出ず、何も答えてくれない女の子──西園寺 蓮花が悠真の行方を知っているとエルナは睨んでいる。
その事はほかの生徒も知ってるらしく、いつもの様子とは違う蓮花に気づいた友達は「もしかしたらあの如月のせいじゃない?」と当たっているが確証もないことを流してしまい、尚更閉じこもってしまったのだ。
何より胸糞が悪いのは小林だ。
蓮花と出会うと心做しか睨まれてるような気がする小林は、前日の暴動により悠真が嫌になり逃げ出したと考えてしまった。
だがそんな出来事があったからといって小林は病むことはなくむしろ生き生きとする。
邪魔だった悠真を変則的だが除外することに成功した。
これで蓮花と十分に話せる──と思ってたのは一瞬で、蓮花に声をかけて無視され睨まれたことから会話すら出来ないと自認したのだ。
どんなに蓮花の親しい友達が部屋を訪問しても帰ってくる言葉は「ごめん」の一言。
最悪小林の転移があるのだがそれをしたら殺されかねないと知っているのはみんな重々承知している。
今蓮花は自分のスマホのギャラリーを開き、写真をスクロールしていた。
強制的だが街中で会った時に撮った写真、クラスのみんなでの集合写真、こっそりと撮った半ば盗撮気味な写真。
その中の悠真を見る度に蓮花は深い溜息をつき、枕を濡らす。
あの時止めたらどうなったか、あの時付いて行ったらどうなったか。
昨日の自分の行動が憎く、そして恨めしいのだ。
何故止めなかったのか。
何故彼、悠真の意見を尊重し、説得しなかったのか。
いくら考えても分からない。
ただあの時の自分は彼の意見を否定したくない気持ちで溢れていたのだ。
「悠真くん……大丈夫かな」
スマホに悠真の画像を写し抱きしめる。
自分でもこんな気持ち悪いことをしておかしいと思うのだがこうすると落ち着くのだ。
「私って、本当に悠真くんのことが好きなんだ……」
そのまま布団の中で夢の世界へ行こうとすると部屋の扉がノックされる。
その正体は朝食を運んできた配給係の人だった。
頃合いを見て朝食を受け取り、そして早く済ませてお盆ごと帰す。
こんなことを繰り返したら友達に遅れをとってしまう。
でも気が向かないのだ。
蓮花はベッドに座り魔法を何度か展開して深いため息をついて布団に潜る。
今頃みんなは訓練してるのかな。
そんなことを考えてるうちに蓮花は眠りについてしまった。
蓮花が目覚めたのは夕方。
目を擦りながら体を起こし、しばらくウトウトしているとエルナが部屋に無断で入ってくる。
「何も言わず入室してしまい申し訳ございません。ですが少しサイオンジさんと対話するために来ました」
「対話……? 私は悠真くんのことなんて……」
このことは絶対に漏らしてはいけない。
悠真の情報を教え、仮に見つかり捕まってしまえば合わす顔が無くなってしまう。
何よりも自己決定した悠真の意見を否定することになってしまうことが嫌なのだ。
「誰もキサラギさんのことなんて言ってませんよ。つまり、分かるということですね」
こんなベタな展開なのについ漏らしてしまった。
何も考えず話した結果、自ら墓穴を掘ってしまったようだ。
「キサラギさんの足跡が迷いの森へ真っ直ぐ伸びてることを確認できました。その奥にはイルという名の小さな農村があります。そこに城の部隊を送りたいのですが……サイオンジさんはどうしますか?」
「わ、私は……」
正直なところすぐにでもそのイルという名の村へ赴きたい。
だが実際そこに悠真が居るという確証はない。
だけど蓮花は何も考えず、すぐに返答した。
「私は行かないです」
この返答を聞きエルナは「え? なんで?」と形容できる表情になる。
彼女は蓮花が悠真に対して好意を抱いてることを知っていた。
だから絶対この話に乗ると思っていたのだ。
「(私は悠真くんに会いたい……でも……)」
でも、悠真のことを信じたい。
彼は強くなると言っていた、ならそんな彼を応援したい。
ここで会いに行くのは間違ってる思ったのだ。
彼の努力を、決意を裏切る行為であるからである。
「そうですか、では失礼しますね」
今後、エルナが意味もなく城の部隊を送ることはない。
もし蓮花が話に乗ってくれた場合実行しようとしたのだが、悠真の事を1番想っている彼女が行かないなら説得なんて出来ないだろう。
蓮花がいた場合可能性は低いが説得し、戻ってくる可能性もある。
つまり蓮花がいないと悠真が戻ってくることはほぼ100%と言ってもいいほどありえないのだ。
そして、最悪の場合蓮花が悠真に付いていく可能性も考えたらこの結果の方が良かったかもしれない。
エルナは難しそうな顔をし、魔法の訓練のために闘技場へ向こうのであった。
「…………う゛っ!? ぷはぁ……」
悠真は現在広い草原で太陽に照らされながら水分補給をしている。
だがその水分補給法は普通ではない、いや異常な方法なのだが。
草原を歩き、靴が濡れていることに悠真は気づいたのだ。
薄い黄緑色をした草、この草を踏むと水分が比較的多めに滲み出てくるのだ。
それに気づき悠真はその草を大量に集め手で圧縮して水分補給をする。
味なんて飲めたもんじゃない。
渋いし、苦いし、口の中に残るし、そしてなにより臭い。
だが水分が多いため喉は潤ったので良しとしよう。
未だに吐き気がするし若干腹痛気味なのだが。
食料なんて地面に生えてるヘビイチゴ的な果物を食べた。
不味い、臭い、渋い。
この三連コンボで涙が出てくるのだが毒はないらしくなんとか飲み込むことが出来た。
「はぁ……はぁ……ぐっ!? はぁ……」
腹の足しにならない謎の果物を食べまくり少しだけ腹が膨れた気がする。
この不味い果物は無駄に自生してる為無くなることは無かった。
こんな不味い物、多分モンスターも手をつけないだろうな。
草原の中背を丸めて食べていたため腰が痛くなってしまった。
立ち上がろうとすると腕に何か登ってくるような感覚がある。
腕には5cmほどの大きなバッタがくっついていた。
おもむろにそのバッタをつまんで観察する。
手足がバラバラに動き気持ち悪い……だが何故か食べれそうな気がする。
この際仕方ない、こんなことなんてしたくないのだが実行するしかない……!
「あーん……」
口の中に放り込む。
ジタバタと動き回る虫、口の中をくすぐる触覚や足。
生臭く、牛乳に中途半端に漬けたパンのようなぐにっとした柔らかさ。
意を決して悠真はその虫を噛み潰す。
「ん゛ん゛ん゛ん゛っ!?」
広がる生臭さ、そして謎の臭く苦い液体……
喉に引っかかる触覚と足、そして固めの頭。
口の中の虫を吐き出し、口を清水で洗浄したい。
だがこれは大事な食料。
なんとか噛み砕き、虫を飲み干した。
「はぁ……はぁ……」
次からは触覚と足、そして頭と羽をもごう。
お腹の部分はなんだかんだ香ばしい味がしたような……気がする。
頭の中に『ポーン』という音が響かない。
この虫にスキルとかはさすがにないのか……
せめて[草食い]みたいなスキルがあれば良かったのに……
そんなスキルを奪えたらここら一面ご馳走だらけなのにな。
悠真はゆっくりと立ち上がり、何も草原を再び歩き始めた。
何があるかなんて分からない、ただ今の悠真には進むしかないからだ。
如月 悠真
NS→暗視眼 腕力Ⅰ 家事Ⅰ
PS→NOSKILL
US→逆上Ⅰ
SS→殺奪
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