S級ギルドから追放されたドラゴンテイマーは、竜王の娘たちと契約して最強ギルドを作る。〜後から謝られてももう遅い、俺は世界最強を目指す〜

石八

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第7話 ゼイルの提案

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「ノアくん。そのアースドラゴンの素材、わたしに預けてはもらえないだろうか?」

 再度ソファに座った俺にそう提案をしてくるのは、B級ギルド【憩いのオアシス】のギルドマスターであり、俺の酒飲み仲間であるゼイルだ。

 だが俺は、この提案の利点や、メリットというものを感じることができなかった。

「それで、そのアースドラゴンの素材はどうなるんですか?」

「心配する必要はない。それに関しては、こちらが責任をもって管理させてもらう。どんな形であれ、市場にアースドラゴンの素材が出回ってしまえば、あの若造に嗅ぎつけられるかもしれないからな」

 確かに、これに関してはゼイルの言う通りだ。

 魔物の素材をお金に換える場所は、決してギルドだけではない。

 アグニエル王国の中央区にある『ギルド協会』や、特別な資格を持って魔物の素材を取り扱う、個人経営の店だってこの国には存在する。

 しかし、ギルド協会はまだしも、個人経営の店でアースドラゴンの素材を売ってしまえば、スヴェンに金を積まれるか脅されるかして、情報を開示してしまう可能性が高い。

 そのため、俺は冒険者の情報を守る義務のあるギルドで、アースドラゴンの素材を売ろうとしたのだが。

 しかし、俺の予想以上にスヴェンの行動は早かった。

 既に今俺がいる【憩いのオアシス】どころか、アグニエル王国にあるギルド全てに、俺の名が指名手配されているように広まっている。

 そのため、俺がなにか行動を起こそうものなら、きっとすぐにスヴェンの耳に届いてしまうだろう。

 それだけは、なんとかして避けないといけないのである。

「若造はノアくんからなにも受け取るなと言っているが、決してとは言っていない。だから、ノアくんにはこれを受け取ってほしいんだ」

 そう言って、ゼイルは懐から複数枚の金貨を取り出し、俺の目の前に並べていく。

 その数はちょうど十枚であり、その価値を分かりやすく例えるのなら、成人男性が三年は満足した生活を送ることができるほどの大金であった。

「これだけあれば、ギルドを立ち上げるどころか、その他の経費等も払うことができるだろう。それをどう使うかは、ノアくんの自由だ」

「……いや。その気持ちは非常にありがたいのですが、こんな大金を無償で受け取るわけにも……」

「うむ。だから、タダとは言わない。その金貨を渡す代わりに、ノアくんにはアースドラゴンの素材をこちらに渡してほしいんだ」

 なるほど。つまり、簡単に言えばこれは一種の取引のようなものである。

 ゼイルは俺に十枚の金貨を渡してくれるが、そのためにはアースドラゴンの素材を渡す必要がある。

 だがこの取引には、少しばかり釣り合わないところが存在する。

「……ちょっと待ってほしいわ。私はアースドラゴンとかいう魔物の価値を知らないけれど、あれを売れば大金が動くというのはなんとなく分かるわ。本当に、あれは金貨十枚程度の価値なのかしら……?」

 そうだ。俺も、ちょうどステラと同じことを考えていた。

 基本的に、魔物の素材は指定危険度が上がれば上がるほど、その価値が飛躍的に上昇していく。

 俺たちが討伐したアースドラゴンは指定危険度がBであり、それでいてかなり大型の個体であるため、きっと売れば最低でも三桁を超える金貨を手に入れることができるだろう。

 だがしかし、そんな考えをする俺やステラに対し、ゼイルは少しだけ面白そうに首を横に振っていた。

「はははっ。安心してほしい。これは、あくまで保管をするだけの話だ。讓渡ではない。勝手に売り捌くようなことはしないし、占有するつもりもない」

「……だとしたら、また話がおかしくなるわ。そうなってくると、今度はそっちにメリットがないじゃない」

「メリット……か。確かに、ハッキリとしたものはないね。でも、そんな貴重な素材を持ち歩いていたら、悪い輩に狙われやすくなるのも確かだ。まぁ、あえてこちら側のメリットを告げるとしたら、ノアくんたちに恩を売ることができること、かな」

「恩を、売る……?」

「そう。わたしはノアくんに全面的に協力をする。その代わり、ノアくんが大成を成したら今度はこっちのバックアップをしてほしいんだ。つまるところ、未来への投資だよ」

 そう語るゼイルだが、やはり意味が分からないというか、理解することができない。

 今語ったゼイルの話は、あくまで俺が成功した場合の話だ。

 いくらギルドを立ち上げることができたとしても、いつ多大な借金を抱えるかは分からないし、いつスヴェンの手によって潰されるかも分からない。

 ゼイルのしようとしていることは、投資は投資でも賭けに近いものだ。正直、そこまでしてくれる価値があるのかが、俺には理解することができなかった。

「これは勘なんだけどね。ノアくんなら、あの若造すらも超えるギルドを作れると思うんだ。ノアくんほど、人の上に立つのに相応しい男をわたしは見たことがない」

 椅子から立ち上がり、俺の肩を強く叩いてくるゼイル。

 だが本当に、俺は人の上に立つのに相応しい男なのだろうか。

 人の上に立つどころか、むしろ俺は人の下で媚びへつらいながら生きてきたような男だ。

 俺はまだ、責任というものを背負う覚悟がない。人の命を、預かるという覚悟もない。

 だが、そんな風に思い詰めている俺の手を優しく握り、安心させてくれるのは隣に座るステラであった。

「大丈夫よ。だって、ノアには私がついてるんだから。なにも、一人で背負わなくていいの。私と一緒に、嬉しいことも辛いことも背負っていけばいいじゃない」

「……っ」

 そうだ。俺は、大事なことを忘れていた。

 今の俺は、一人じゃない。
 ステラという仲間がいて、全面的にバックアップをしてくれるというゼイルもいる。

 なにも、自分一人で解決しなくていいのである。

 ステラの力を借りてアースドラゴンを倒したときのように、困ったら誰かに頼り、協力し合えばいいのである。

 そう。それこそ、ゼイルの抱く思想のように。

「……分かりました。では、この金貨はありがたく受け取ります。いつか、必ず返しますので。それと、この袋の中にアースドラゴンの素材が入っています」

 俺は机の上に並べられた金貨を受け取りつつも、腰にぶら下げていた『魔法の袋』という袋をゼイルに手渡しする。

 この『魔法の袋』というアイテムは不思議な力を持つ魔道具であり、制限こそあるものの、なんと中身に好きなだけ物を入れることができる優れた袋なのである。

 まさに、冒険者界隈を震撼させた奇跡の魔道具なのだが、俺が持っている魔法の袋はそこまでいいモノではなく、精々入れられても百キロ程度である。

 しかしそれでも百キロの物を軽々と持ち運べると考えたら、いかにこの魔法の袋というアイテムの便利性というものが理解できるだろう。

「……よし、中身は確認した。これで交渉は成立だ。ノアくん。陰ながらで申し訳ないのだが、わたしはキミたちを応援しているよ」

「はい、ありがとうございます。困ったことがあったら、また頼るかもしれないのでその時はお願いします」

「もちろんだ。それで、ステラさんは隣でノアくんを支えてやってくれ。こう見えて、彼は結構無茶をしてしまうからね。ノアくんのケア、任せたよ」

「えぇ。私にかかれば、それくらい楽勝よ。でも、そうね。今日はあなたのおかげで本当に助かったわ。これからも、良好な関係を築いていけることを願ってるわ」

 ステラと二人でゼイルと握手を交わし、俺たちはゼイルの部屋をあとにして、すれ違う冒険者たちに挨拶をしながらも【憩いのオアシス】をあとにする。

 気付けば、空は綺麗な朱色に染まっており、普段から冒険者や観光客等で賑わう大通りも、今は落ち着きを取り戻していた。

「さて、今日はもう休もうか。明日は朝からギルドの物件を探すつもりだが、それでも大丈夫か?」

「えぇ、その辺りはノアに任せるわ。土地と人脈には、宛があるんでしょう?」

「あぁ、明日はとある知り合いがいる場所を訪ねようと思う。性格に難ありだが、きっと俺たちの助けになってくれるはずだ」

 俺は【強者の楽園】にて、いつも雑用や小間使いを押し付けられていた。

 しかしそのおかげで、俺はゼイルと出会うことができたし、他にも沢山の人物と知り合うことができた。

 それは、金だけの関係を築いているスヴェンにはない、非常に貴重なものである。

「明日からは、もっと忙しくなるぞ。ステラ、改めてよろしく頼むな」

「こちらこそ。あなたの契約者として、期待以上の活躍をしてみせるわ」

 可愛らしくニコッと笑うステラは、俺の人生を大きく変えてくれたかけがえのない存在だ。

 これからきっと、ステラとは色んなことで笑いあったり、時に喧嘩したりするだろう。

 しかしそれらは、きっと楽しいものになる。そう思いながら、俺はステラを連れて普段利用している宿屋を目指し、人の少ない道を歩んでいくのであった──
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