12 / 51
12 堪能
しおりを挟むソフィーはボロ屋での一人暮らしを楽しんだ。
実際には一人暮らしではない。俺もいるし、侍女もいるし、騎士も一人いる。
だが、貴族として大勢に囲まれて暮らしていた彼女にとっては、一人暮らしのようなものなのだろう。
近くには森もあり、ソフィーは手製の弓矢と俺を連れて狩りに出かける。
騎士は鎧を脱いで家の修繕を行い、侍女は少しでもボロ屋が暮らしやすくなるように頭を捻っている。
生活費としてフランツからいくらか送られてくるが、少ない。
おそらく代官が着服しているのだろう。
だが、ソフィーは気にしない。
アンハルト領から定期的にやってきて援助の金貨を置いていくし、そもそも街での買い物は最低限で済ますようにしている。
マックスからの手紙を一度盗み見たのだが、そこには「しばらくそこで楽しめ」と書かれてあった。
フランツのやり方には腹を立てているようだが、ソフィーがいまの状況を楽しむこともわかっていたようだ。
ソフィーが街に頼らない生活をすると決めたのには理由がある。
「勝手に森で狩りをするな! 決まりがあるんだ!」
「勝手に森の木を伐るな! 伐る木は決まっているんだ!」
森を管理しているのだという村長が、度々怒鳴り込んでくるのだ。
村長の言い分も間違いではない。
集落の近くにある森林は、共有財産だ。
獲物を取り過ぎれば全滅してしまうし、木を倒し過ぎれば森が死ぬ。
だが、ボロ屋が森に沿って存在している以上、ここが使えないのは困る。
初日は冷静に話し、森を使わせてもらうように交渉したが、奴らが求めてきたのは使用料という名の金貨だった。
それだけを金貨を払うぐらいなら街で買った方が安いぐらいだが、村長はその強気を崩さなかった。
その態度からして、街の連中も俺たちに物を売らないように圧力がかけられていることは明らかだった。
「これは戦ね」
ソフィーはにっこりと笑ってそう言い切った。
そして村長たちを無視し、森を使いまくることにした。
何度も文句を言いに来ていた村長が村の若者を引き連れてやってきた。
そうすれば、ソフィーと騎士も剣を持ち出してくる。
俺も出ていきたいのだが、侍女に抱きかかえられているのでできない。
ソフィーも魔功が使えるし、騎士もマックスに鍛えられたアンハルト騎士だ。
たかが村人に負ける要因がない。
二人で、若者たちが持っていた斧や棒を瞬く間に切り裂いて追い払ったそうだ。
その日以来、村から文句を言いに来ることはなかった。
「森で遊んできます」
「はい、気をつけてね」
しばらくすれば、俺が一人で外に遊びに行く事も可能となった。
走り回るだけで鍛えきれない部分を鍛えるために、今度は木々の間を飛び回る。
普段は隠している魔功を全力にし、徒手での型を空中で行い、次の木に移る。
そんなことをしながら、森の探索を樹上からも行う。
森の大きさを調べ、そこで暮らす獣たちの分布を確認する。
森の獣は数が多く、そう簡単に絶滅する心配はなさそうだ。
主格の獣が二体いる。
熊と猪だ。
どちらも樹上から見下ろす俺と目が合うと、そそくさと姿を消していった。
この時点で、どちらが上かの戦いは終わったようだ。
にしても、この辺りに魔獣はいないか。
少しばかり期待していたんだけどな。
あいつらなら、いくら狩っても問題になることはないだろうから。
魔獣は天然で発生する魔力に影響を受けすぎた結果、異形化した獣のことを指す。時に人がそうなる事もあるが、そんな強力な魔力が発生するような場所に人間が住んでいることは少ない。
かの魔王は、魔族の中であえて魔獣化した存在だという話だが、真実はわからない。
呑気に話をする仲ではなかったからな。
54
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?
大好き丸
ファンタジー
天上魔界「イイルクオン」
世界は大きく分けて二つの勢力が存在する。
”人類”と”魔族”
生存圏を争って日夜争いを続けている。
しかしそんな中、戦争に背を向け、ただひたすらに宝を追い求める男がいた。
トレジャーハンターその名はラルフ。
夢とロマンを求め、日夜、洞窟や遺跡に潜る。
そこで出会った未知との遭遇はラルフの人生の大きな転換期となり世界が動く
欺瞞、裏切り、秩序の崩壊、
世界の均衡が崩れた時、終焉を迎える。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。
しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。
しかし――
彼が切り捨てた仲間こそが、
実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。
事実に気づいた時にはもう遅い。
道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。
“荷物持ちがいなくなった瞬間”から、
アレクスの日常は静かに崩壊していく。
短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。
そんな彼と再び肩を並べることになったのは――
美しいのに中二が暴走する魔法使い
ノー天気で鈍感な僧侶
そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー
かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。
自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。
これは、
“間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる”
再生の物語である。
《小説家になろうにも投稿しています》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる