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19 バレた
しおりを挟む「ではそういうことで」
あっけに取られているいましかないと、俺はその場からそそくさと逃げようとした。
「いや、逃すか」
だが、マックスに首根っこを掴まれてしまった。
「これはどういうことだ?」
「どういうことでしょう? 僕にもなにがなんだか?」
「そんな言い訳が通じるか。なにか体の芯に魔功の雰囲気があるからおかしいと思っていたが、竜と一緒に空から落ちてくるなんて、普通の子供ができることではない」
「それは……お祖父様の孫だから?」
「そんな言い訳が通じるとでも?」
「ははは……ですよねぇ」
やれやれ、これはもう無理かな。
変に隠すより、素直になるしかないか。
「……わかったよ。マックス」
「うん?」
いきなりの口調の変化に、マックスが戸惑う。
「セブラの時みたいに逃げやしないから、いまは事後処理を頼む」
「む? むっ⁉︎」
「母様、僕たちは帰りましょう」
「え、ええ」
マックスが手を離したので、俺はさっさとソフィーを誘ってボロ屋に戻ることにした。
「アル?」
「マックスが来たら、全て話します」
「そう……」
竜と戦ったばかりのソフィーが、それとは違う不安を顔に浮かべているのには罪悪感が刺さりまくるが、こちらも説明は一度で済ませておきたい。
ボロ屋に戻り、未だ気を失っている侍女を介抱し、マックスの帰りを待つ。
その間、俺は自分の部屋にいた。
さて、マックスはあの言葉の意味を覚えているだろうか?
「セブラの時みたいに」
それは俺、ジークがまだどの国にも勇者と認められる前のことだ。
セブラというのは流れ者の賊の名前だ。
名前を売りたかった俺は、セブラにかかった賞金首だけが目当てで、他の賊を片付けた名誉やその後処理は要らなかった。
だからそれを、同じ場に居合わせたマックスに押し付け、セブラの首だけ持って逃げた。
そのことを、マックスは後々まで根に持っていた。
だが、貴族育ちのマックスはそういう上への対処法が俺たちの中で一番うまかったら、その後もその役目を押し付けることとなった。
一見賢そうな獣人の賢者も、見た目は清楚そうな聖女も、実はそういうことでは全く役に立たなかったからな。
「覚えてなければむしろびっくりだな」
その時はその時で、俺がジークであることは秘して、神の啓示を受けたとかなんとか適当なことを言うとしよう。
死者がこんな形で蘇ったなんて、いや、我が子がいつジークにすり替わってしまったのかとか、そんなことをこの体の母親であるソフィーに思わせてしまうのは、酷だ。
マックスは夜明け前には戻ってきた。
代官相手や、街に潜ませていた密偵相手に、色々と話してきたらしい。
テーブルにお茶が運ばれた後で、侍女と騎士は外で待機ということになった。
暗い中で申し訳ないが、そのまま待っていてもらう。
二人が外に出て、マックスはお茶を飲み、湯気がこもった長いため息を吐いた後で、言った。
「ジーク、ソフィーの傷を治してやってくれ」
「え?」
ソフィーの体には包帯が巻かれている。
直接の傷はなかったが、打ち身や火傷があったのだろう。
痕が残ってはかわいそうだ。
俺は頷いて、ソフィーに回復の魔法をかけた。
「ジーク? え?」
「俺が治せるのは外傷までだ。内臓に不調を感じるようなら、隠さずにちゃんと言うように」
「え? はい。……え?」
「やっぱりか」
そしてまたマックスがため息を吐く。
「セブラの話は、あの時の仲間は知っているが、領の者はほとんど知らない。ソフィーにも話したことはない。つまり、アルブレヒトが知っているはずがない」
ポツポツとマックスが言う。
それは、自分の中の推論を口に出すことでなんらかの形にするという儀式だろう。
それが現実のものであると、固めるための。
「教えてもいないのに魔功を使い、しかも他人から隠すように使うことができる。さらに翼竜を子供の姿で倒す」
そう言い、顔を上げ、俺を見た。
泣いてないか?
「本当に、ジーク……ジークフリードなんだな?」
「そうだ」
マックス相手にそれを認め、そして、ソフィーに向かい、頭を下げた。
「申し訳ない」
ソフィーからの言葉はない。
「俺が望んでこうなったわけではない。だが、気がつけば俺は、あなたの子供の中にいた。生まれた時からそうだったのか、それともある時から入れ替わったのかはわからない」
だけどもし、入れ替わっていたのだとしたら。
俺は、マックスの孫、ソフィーの子供を殺したことになるのではないか?
敵でもない、しかも仲間の娘にそんな言葉を言ってしまうことは、俺だって躊躇してしまう。
だから、言葉にできなかった。
しばらく頭を下げていると、ソフィーの手が伸びて、俺を引き寄せ、抱きしめた。
「ずっと、そのことで悩んでいたのですか?」
「……」
どう答えていいのかわからず、俺はなにも言えなかった。
「私はずっと、あなたを見ていました。あなたは確かに最初から思慮深くて大人びた子でした。ある日突然に変わったなんてことはない」
そう言い切る。
胸を締め付けられるような気分だ。
「あなたは、私の子です」
たとえそう思ってもらえたとしても、俺が、彼女をそう思えるかどうかは、別の問題なのだ。
「ありがとう」
俺からはそうとしか言えなかった。
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