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51 継承権放棄(ざまぁ回)
しおりを挟むというわけで邪神は消滅した。
あっさりとした勝利ではあったが、それは俺と仲間たちが揃っていたからだ。
俺の究極魔法。
一人で邪神を相手に時間稼ぎすることのできるマックス。
周囲への被害を最小限にするために動いたイーファとゼル。
そして、邪神の魔法を問答無用で喰らったマナナ。
五人が揃っていなければ、被害はもっとひどかったことだろう。
前回、イーファが封印を決断したのは彼女一人だけだったからに過ぎない。
とはいえ、城壁の一部が崩壊し、その周辺の建築物などは大きく破壊されてしまった。
修復にはそれなりの時間が必要となるだろう。
それと……俺が戦っているところを見られた。
見られたといっても魔法を使うところだ。
専門の者でなければただ立っていたと思うだけの者もいるだろう。
邪神の掌を貫いたところなんか、速すぎて見えなかった可能性もある。
しかし、現地にはいたし、動きの一部は見られた。
なにか気付く者もいるかもしれない。
その後の処理は大人たちに任せ、俺はアンハルト宮に戻った。
俺のことは一応表沙汰にはしない方向でいる。
というか、指摘されるまでは俺が生まれ変わりであることも言うつもりはない。
だが、それだけで済ませるか?
というか、俺は王子でいられるのか?
「ソフィー」
「なぁに?」
アンハルト宮の中庭で彼女相手に剣の訓練をしている時に、俺は言った。
「俺、王になる気はないかも」
「あら?」
「そうだとしても問題ないか?」
「うん、ないわね」
「なら、ソフィーも離婚して故郷に戻るという選択もありなんじゃないか?」
「ええ……まぁ、ううん」
そっちは別問題か。
「考えてみる」
最後にはそんなことを言うのだから、ソフィーもすでに王には愛想を尽かしているのだろう。
政略も関係することだし、後はマックスと相談すればいい。
さて、では次だ。
俺は面会の許可を取り、王に会いに行った。
拒否したり延期したりしてきそうだったが、いまならマックスやイーファを伴った面会申請だったので、断り切ることができなかったようだ。
それでも三日ほど引き延ばされた。
「それで、なんのようかな?」
王の執務室。
一通りの挨拶を済ませた後で、王が細い声で尋ねた。
彼の周りには大臣をまとめる宰相に近衛騎士の団長もいる。
マックスやイーファに対抗した人選なのだろうか?
「本日は王位継承権の放棄、それと王籍からの離脱を願いに参りました」
「なに?」
俺の言葉に、王たち三人が動揺する。
この段階では、すでにマックスたちには相談しているので、こちらに動揺はない。
マックスが続きを引き継ぐ。
「それに伴い、王妃ソフィーと陛下との離縁も願います」
「ま、待てれよ侯爵!」
宰相が悲鳴のような声を上げた。
「王妃を辞められるなど、そんな話は聞いたことがない!」
「ならばこれが、良い先例となるだろう」
「そのような!」
「陛下のソフィーやアルブレヒトへの対応、エルホルザの件を上げるまでもなく、普段の対応を見るにつけ、我が娘を妻と認めていないことは明白。すでに我が家だけでなく、南部諸侯がこの件を問題視しております。陛下が態度を改めない以上、これは仕方がないことかと」
「それでは国が割れる!」
「私は、それを覚悟してここにいる!」
マックスが声を張ると、近衛騎士団長は思わず剣に手をやった。
「このマクシミリアン・アンハルト! 娘をただの子を産む家畜のように扱われて、それを見ぬふりなどできぬ!」
マックスの威圧に王と宰相は顔を青くし、近衛騎士団長も思わず後ろに半歩下がった。
「陛下、とても残念なことです」
固体化したかのような空気の中でイーファが口を開く。
「聖女長殿」
宰相は救いを求めたのかもしれない。
だが、彼女が立っている側がどちらなのかで、それは明白だろう。
「結婚の見届け人としては、この結末は非常に残念です」
「あっ……」
俺たちをエルホルザから急遽呼び戻したのは、イーファ……イルファタ聖女長がヴァルトルク王国に立ち寄るからだった。
「とはいえ人というのはままならぬもの。このような悲劇も起こるものなのでしょう。だからこそ神は慈悲を持って全ての生物を見守っておられます。私としては友人の娘が、神前の約束に縛られて不幸になるよりは、解放されて幸せになることを願います。神からの許しは私から祈っておきましょう」
「そ、それは……」
なんとかしようと宰相は足掻いているが、言葉は出てこない。
いまの問題をひっくり返すための良策が思い浮かばないようだ。
それも仕方ない。
宰相としてどういう仕事をしていたのか知らないが、王の家庭内の問題を見て見ぬ振りしていたのは確かだ。
恐れ多いことだと口を出せなかったのかもしれないが、ならばいまもその立場を貫いていてほしい。
「国が割れる恐れがあります!」
「だからなんだというのです?」
なんとか、捻り出した言葉も、繰り返しでは意味がない。
「ヴァルトルク王国がなくなるかもしれないのは残念ですが、私は帝国内の神殿に所属する聖女たちのまとめ役です。王国の趨勢を慮る必要はありません」
ヴァルトルク王国は帝国の支配を受ける国ではある。
そして神殿は、帝国内の宗教勢力を束ねる存在ではあるが、それぞれの国の政治に口を出すことはない。
というのが建前だ。
「皇帝陛下にお叱りを受けるのは、私ではありませんので」
そして帝国としても、新たな起こった国が帝国に忠誠を誓うのであれば、王国内の騒動に口を出すことはないだろう。
戦乱が長期化したり、他国へと飛び火したりなどした場合は話が変わるだろうが、王国内での問題であれば、皇帝も苦言以上のことはしてこないだろう。
と、事前の話し合いで聞いている。
「……王妃はなんと言っている?」
ここにきて、王が口を開いた。
自身の離婚の話であるのに、彼女が姿を見せていないことを気にしたのか。
しかし、いまさらこの質問か。
「求められたはずなのに、求められていない。ならば私が出る幕はもうありません。とのことです」
俺が代弁する。
これはマックスが言うか俺が言うかで少し揉めたのだが、イーファとゼルが『子供に言わせた方が痛い』というので、俺に決まった。
その通りに、王は苦い顔を浮かべた。
「そうか」
「父上、子として最後に質問したいのですが」
「なにかな?」
「愛がないならないで、上辺を取り繕うこともできたでしょう? なぜ、それすらも放棄したのですか?」
「子供にはわからないことだよ」
「それで子供に迷惑がかかっているのだから、たまりませんね」
「……」
王はなにも言わなかった。
ただ、腹は立てている様子だが、それをグッと抑え込んでいる。
言いたいことはまだあるような気がするが、最後と言ってしまったのでこれでやめておく。
「では、私の王子としての立場もこれで終了ですね」
「ま、お待ちください!」
「ここを出ていって、どうするのかな?」
宰相はまだ引き止めたいようだが、王はもう諦めているようだ。
「帝都に行きます」
「なに?」
俺の返答に王が驚いた。
あるいはアンハルト侯爵家を継ぐとでも思ったのか。
「アンハルト侯爵家の後継はもういる。アルブレヒトを家に連れ帰れば、それはそれで我が家でも問題となる。故に、こやつはイルファタ聖女長に預け、帝都に行かせることにした」
マックスが告げるとイーファが引き継いだ。
「この子は才能がありますから帝都の軍学校に入れるつもりです。十年後には皇帝陛下の最精鋭、神片騎士となっているかもしれませんね」
「まさかそのような」
と宰相が動揺しながら否定する。
神片騎士とは、神からの特別な加護を受けた者たちのことだ。
俺がソラリスから究極魔法を授かったようなことをした連中が、帝都には他にもいるというのだ。
どれぐらい強いのか。
会うのが、とても楽しみだ。
宰相が動揺しているのは、神片騎士は特に皇帝の代理人という立場で帝国軍の指揮権を得ることができるという点にある。
ある意味で、帝国下の王よりも権力を持っているかもしれない存在だ。
南部諸侯のまとめ役を怒らせ、第一王妃に離婚されるという醜聞が発生し、第一王子は帝都に行き皇帝と直接会話ができる立場となる(かもしれない)。
ヴァルトルク王国としては、最悪の事態となったことだろう。
だが、知ったことではない。
「さあ、第一王子の王位継承権放棄と第一王妃との離婚を承諾し、ここにサインしてくださいません」
イーファが書類を執務机に投げる。
「わかった」
王はすぐにそれにサインした。
「陛下、あなたは、この問題を回避する気はなかったのか?」
「言い訳をすることはない。私は、王だよ」
「そうですか」
王がすることは全て正しい?
本当にそう思っていたのか?
最後までよくわからない男だ。
王の部屋から出る。
正式にこのことが通達されたりするのはまだ時間があるだろうが、そんなことは俺たちの知ったことではない。
その日のうちにアンハルと宮殿を引き払う支度を始めた。
ソフィーも翌日にはマックスと共にアンハルト侯爵領に戻って行った。
「じゃあ、またな」
「アル様、またお会いしましょう!」
ゼルとカシャもすぐに去っていく。
俺はイーファとそのお付きたちと帝都に向かうことになる。
あ、マナナも一緒だぞ。
「さて、じゃあ帝都に戻りましょうか」
「あれ? お前里帰りの途中じゃなかったか?」
「え? なんのこと? 故郷に戻る理由はないけど?」
「まぁ、知ってたけどな」
こうして俺は王国を去ることになった。
それよりも帝都にいる神片騎士がどんなものなのか、とても楽しみだ。
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