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1.リーリウス王子、恋に落ちる
彼を捜したい
「――それで殿下。まさか本当に仮面をはずさぬまま、ことに及んだわけですか?」
「半分は」
「は、半分?」
半笑いで訊いてくるシュナイゼに、リーリウスは「だってね、愛する人の意思は尊重するべきだろう?」と笑みを返す。
そうして改めて「ことに及んだ」あの夜を思い出し、胸が熱くなった。
「私たちは夜明けが来るまで、何度も何度も愛し合ったのだ」
「ほう、何度も何度も。殿下から逃げようとしていたわりに、熱烈だったのですね」
「シュナイゼ。あの人が逃げたがったのは、初心で純粋な、恥じらいゆえだよ」
「なるほど。それで?」
リーリウスはうっとりと吐息をこぼす。
「私の熱は尽きることを知らなかった。あの人が身を震わせて達するたび、愛おしくて愛おしくて、さらに激しく求めてしまった。『夜明け前に戻らなければ』と可愛らしく懇願されてさえいなければ、今に至るまで続けていたやもしれぬよ」
「それは凄まじいですね、殿下。でも俺も、体力なら負けませんよ」
ふふふ……と低く笑い合う二人は、付き合い切れずに逃亡を試みたレダリオを、両方向から捕獲した。
その場でただひとり真っ当な――この国においては頭が固すぎるとも言える――友人は、憤慨して顔を赤くし、リーリウスを睨みつける。
「猥談なら、わたし抜きでもできるでしょう! わたしは早く仕事を終わらせねばならぬのです、何せ今日は見合いがあるのですから! 見・合・い!」
「ああ、婚約者候補を何人も家に呼んであるっていうアレか? お前の親の気持ちもわかるけど、大きなお世話だよなあ。うちもそういうの増えたわ~」
シュナイゼはうんうんと腕を組んでうなずき、レダリオの怒りを受け流す。
リーリウスも「どこも似たような事情のようだな」と眉根を寄せたが、すぐに笑って胸を張った。
「だがもう伴侶は見つけたから、私に『妃殿下候補』は必要ない! そうだ。父上たちにも、そう申し上げねばな。……だが、先に捜し出さねば……」
「あれ? そういえば殿下。何度も愛し合ったその人の、仮面は結局はずされたのでしたっけ?」
リーリウスは冷めてしまった茶に口をつけて、「半分」と繰り返した。
「やはり仮面をつけたままでは、口づけがしづらくて。途中までは我慢したのだが……」
「仮面の顔に、どうにか口づけしようと奮闘する殿下を想像すると、腹筋が震えてきます」
「愛する人の希望に沿うべく、努力したのだ」
「よほどきっちり固定されていたのですね、その仮面」
「ああ。ドレスを脱ぐ前に私を待たせて、固結びで固定していたからな。なぜにそこまでとは思ったが……そんな姿もまた、いじらしく」
「いじらしいというより面白いですな」
笑いをこらえて肩を震わせるシュナイゼに、レダリオの冷たい視線が刺さる。
真面目な友人がまた怒り出す前に、リーリウスは話を続けた。
「私はお願いしてみたのだよ。口づけのため仮面をはずしてほしいと。すると彼は」
「彼は?」
「はずしてくれた。が、代わりに私が目隠しをされた」
シュナイゼが茶を噴いた。
「失礼」と謝罪したものの、もはや隠すことなく腹を抱えている。
笑われようと、リーリウスの幸せ気分は変わらない。
「目隠しを取らぬよう、必死の声で頼まれたから、私は誠実にそれに応えた。そんな私に彼は、深い口づけをくれて……こちらが見えていないと、向こうは大胆になれるのだね。その後はさらに熱く、とろけるような愛を交わした。
そうして、別れのときも、私は目を塞がれたまま。そのまま、彼が去って行く足音を聞いていたのだ……」
レダリオが呻いた。
「では結果として、相手の顔はご覧になっていないのですね」
リーリウスは笑顔で「そうだね」とうなずく。
「けれど月明かりに照らされた、真珠のような躰をおぼえている。繊細な鼻筋と、長い睫毛と、滑らかで吸い付くような肌の感触は、この手がおぼえている」
「……つまり、顔も知らぬ相手を伴侶にするというのですね?」
自分とは違う意味で震え出したレダリオの視線を遮るように、シュナイゼが割って入った。
「で、殿下。あれですよね、顔はともかくその方のお名前や身元などは、わかっているのですよね?」
「いや、訊いていない」
満面の笑みのリーリウスに、シュナイゼがまた吹き出す。
が、真っ当なほうの友人は、至極当然の意見をまくし立ててきた。
「か、顔も氏素性も知れぬ者を、王族の花嫁として迎え入れると仰るのですか!」
「そうなのだ」
「王子殿下との房事で固結びしてまで仮面にこだわる、そんな怪しさしかない、奇妙キテレツな者を!?」
「うむ、わかってくれたか!」
「わかりませんよっ!」
「半分は」
「は、半分?」
半笑いで訊いてくるシュナイゼに、リーリウスは「だってね、愛する人の意思は尊重するべきだろう?」と笑みを返す。
そうして改めて「ことに及んだ」あの夜を思い出し、胸が熱くなった。
「私たちは夜明けが来るまで、何度も何度も愛し合ったのだ」
「ほう、何度も何度も。殿下から逃げようとしていたわりに、熱烈だったのですね」
「シュナイゼ。あの人が逃げたがったのは、初心で純粋な、恥じらいゆえだよ」
「なるほど。それで?」
リーリウスはうっとりと吐息をこぼす。
「私の熱は尽きることを知らなかった。あの人が身を震わせて達するたび、愛おしくて愛おしくて、さらに激しく求めてしまった。『夜明け前に戻らなければ』と可愛らしく懇願されてさえいなければ、今に至るまで続けていたやもしれぬよ」
「それは凄まじいですね、殿下。でも俺も、体力なら負けませんよ」
ふふふ……と低く笑い合う二人は、付き合い切れずに逃亡を試みたレダリオを、両方向から捕獲した。
その場でただひとり真っ当な――この国においては頭が固すぎるとも言える――友人は、憤慨して顔を赤くし、リーリウスを睨みつける。
「猥談なら、わたし抜きでもできるでしょう! わたしは早く仕事を終わらせねばならぬのです、何せ今日は見合いがあるのですから! 見・合・い!」
「ああ、婚約者候補を何人も家に呼んであるっていうアレか? お前の親の気持ちもわかるけど、大きなお世話だよなあ。うちもそういうの増えたわ~」
シュナイゼはうんうんと腕を組んでうなずき、レダリオの怒りを受け流す。
リーリウスも「どこも似たような事情のようだな」と眉根を寄せたが、すぐに笑って胸を張った。
「だがもう伴侶は見つけたから、私に『妃殿下候補』は必要ない! そうだ。父上たちにも、そう申し上げねばな。……だが、先に捜し出さねば……」
「あれ? そういえば殿下。何度も愛し合ったその人の、仮面は結局はずされたのでしたっけ?」
リーリウスは冷めてしまった茶に口をつけて、「半分」と繰り返した。
「やはり仮面をつけたままでは、口づけがしづらくて。途中までは我慢したのだが……」
「仮面の顔に、どうにか口づけしようと奮闘する殿下を想像すると、腹筋が震えてきます」
「愛する人の希望に沿うべく、努力したのだ」
「よほどきっちり固定されていたのですね、その仮面」
「ああ。ドレスを脱ぐ前に私を待たせて、固結びで固定していたからな。なぜにそこまでとは思ったが……そんな姿もまた、いじらしく」
「いじらしいというより面白いですな」
笑いをこらえて肩を震わせるシュナイゼに、レダリオの冷たい視線が刺さる。
真面目な友人がまた怒り出す前に、リーリウスは話を続けた。
「私はお願いしてみたのだよ。口づけのため仮面をはずしてほしいと。すると彼は」
「彼は?」
「はずしてくれた。が、代わりに私が目隠しをされた」
シュナイゼが茶を噴いた。
「失礼」と謝罪したものの、もはや隠すことなく腹を抱えている。
笑われようと、リーリウスの幸せ気分は変わらない。
「目隠しを取らぬよう、必死の声で頼まれたから、私は誠実にそれに応えた。そんな私に彼は、深い口づけをくれて……こちらが見えていないと、向こうは大胆になれるのだね。その後はさらに熱く、とろけるような愛を交わした。
そうして、別れのときも、私は目を塞がれたまま。そのまま、彼が去って行く足音を聞いていたのだ……」
レダリオが呻いた。
「では結果として、相手の顔はご覧になっていないのですね」
リーリウスは笑顔で「そうだね」とうなずく。
「けれど月明かりに照らされた、真珠のような躰をおぼえている。繊細な鼻筋と、長い睫毛と、滑らかで吸い付くような肌の感触は、この手がおぼえている」
「……つまり、顔も知らぬ相手を伴侶にするというのですね?」
自分とは違う意味で震え出したレダリオの視線を遮るように、シュナイゼが割って入った。
「で、殿下。あれですよね、顔はともかくその方のお名前や身元などは、わかっているのですよね?」
「いや、訊いていない」
満面の笑みのリーリウスに、シュナイゼがまた吹き出す。
が、真っ当なほうの友人は、至極当然の意見をまくし立ててきた。
「か、顔も氏素性も知れぬ者を、王族の花嫁として迎え入れると仰るのですか!」
「そうなのだ」
「王子殿下との房事で固結びしてまで仮面にこだわる、そんな怪しさしかない、奇妙キテレツな者を!?」
「うむ、わかってくれたか!」
「わかりませんよっ!」
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