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3.グレイグ・リヒテル・ド・ドーシア
グレイグの羞恥と本音
「いちいちおかしな声を出すその癖を、何とかしなさい。そなたには色気というものが足りない」
額を押さえたリーリウス王子に、「仕方ないでしょう!」とグレイグは反論した。
顔が火照って赤くなっているのがわかる。
「い、今すぐっ、は、裸になれとか言うから!」
(王子の執務室なんて、いつ誰が来るかもわからないのに……)
常識的な主張をしただけなのに、
「素直な生徒になるのではなかったか」
冷たい目で見据えられて、言葉に詰まる。
グレイグはこれまでリーリウスに対し、「八方美人のチャラい王子」と断じていたが、常に愛想の良い人が不機嫌になるとその落差が恐ろしいのだと、王子と接して初めて知った。
神殿の彫像みたいに整った顔をしているから、余計に怖い。
「ら……来訪者の予定とか……」
「午後までは無い。そなたのように急の用件で来る者がいなければね。だが急がないと、いつ『急の来客』があるかわからないよ」
「……っ」
無慈悲に急かす王子が憎らしい。が、従うしかない。
(従うしかない……?)
違う。こんなヤリチン王子の指図など無視して、今すぐ出て行ってもいいはずだ。王子も言ったではないか、「断るのはそなたの自由」と。
(でも……セックスを教わっておかないと、困るのは本当のことだし……)
そう思うそばから、別の自分が(その理屈はおかしい)と指摘してくる。
あれほど嫌悪していたリーリウス王子に頭を下げるくらいなら、彼の言う通り、高級娼館で手ほどきを受けるほうがマシだ。娼婦なら、こんな公共の場で裸になれなどと命令してくることもない。
(なのに、どうして)
自分は今、服を脱いでいるのだろう。
ひどい屈辱を感じているのに。
震える指が勝手に釦を外して、シャツを肩から落とす。
こんな、まだ昼にもならない時間の、明るい部屋の中で。
「う……」
最後の下着のみを残して、王子を見た。
机に腰かけ長い脚を組む王子は、本当に彫像のように、表情ひとつ変えずグレイグを見ている。尖った肩や、平らな腹や、剥き出しの太腿を。
下着一枚で、だけれど靴は履いたまま。
まるで露出好きの変質者みたいだと気づくと、恥ずかしくて顔を上げていられない。
そのとき急に、仮装舞踏会の夜のことを思い出した。
あの日グレイグは、『黒い森の魔物』に扮していた。
周囲には「仮装などくだらない」などと言っていたけれど。
本当は、身分を隠して一夜限りの情事をするにはうってつけの日だから、(今夜初体験を済ませたい)と、内心ガチガチに緊張して臨んでいた。
あまり奇抜な格好はしたくなかったので、無難なところで歌劇の魔物を選んだ。
まさかリーリウス王子と被るなんて思わなかった。
王子が会場に現れると、そこは彼が主役の舞台になった。
魔物のくせに太陽みたいな存在感で、一瞬たりとも目が離せない。
気づけば皆と一緒にボーッと見惚れていた自分に気づき、同時に、この仮装では誰を誘っても王子と比べられるだろうと思い至った。悔しいが、王子のほうがずっと様になっているから。
それで……比較される前に、会場から逃げ帰った。
「あなたが嫌いです」
そう口にすると、目と鼻の奥がツンと熱くなった。
「あなたは僕をみじめにする」
また失礼なことを言ったのに、なぜだか王子は柔らかく微笑んだ。
そのつつみ込むような瞳に、にわかに胸がときめく。
が、その優しい笑顔が次に発した言葉は、
「よし。では、さらにみじめになってみよう」
グレイグの顎がカックンと落ちた。
「はああ!?」
「だからその、色気の無い言動をやめよというのに」
「あなたこそ、恥を晒して傷心の僕に、ちょっとは優しくしてやろうとか労ってやろうとか思わないんですか!? 『さらにみじめに』って、何なんですかそれ!」
「脱ぐのはやめたのか?」
「脱ぎますよ! 脱げばいいんでしょ!」
勢いよく下着をずり下ろし、ぽろんと性器が露わになったところで、勢いに押されていた羞恥が戻ってきた。
あわてて手で覆うと、「隠すな」と声で打たれる。
「それを隠して、どうやってセックスを教わるのだ」
「か、隠して教える方法にすればいい!」
無茶を言ってる自覚はあるが、いざとなると恥ずかしくて我慢ならない。
だってきっと、王子から見ると自分の性器は……貧相。
きっとそう。平均値は知らないけれど。
アレクサンドラたちの会話でも、シュナイゼはデカかったという話が出ていた。なら同じヤリチン仲間のリーリウス王子だって巨根に決まっている。
それに以前、夜会で酔って裸になろうとした知人がいたが、彼は胸から下腹まで毛で覆われていて、グレイグは(あれが普通なのか!?)と衝撃を受けた。
(僕は……胸にも腹にも毛が無い……)
必死に股間の両手をキープし続けるグレイグに、王子がにっこり笑った。
「素直な生徒になる約束を破るなら、私にも考えがあるぞ」
笑っているのが、かえって怖い。
なのに口が勝手に、
「好きにしたらいいだろう!」
なんて答えてしまい。
すると王子は、なぜか嬉しそうに笑ってうなずいた。
「では、そうしよう」
言うや否や、ひょいと机からおりる。
と同時に、両脇に手を入れられ、グレイグは軽々持ち上げられてしまった。
「わあっ!」
そのままダンスするみたいにくるりと向きを変え、今まで王子が腰かけていた樫の机に座らされた。間を置かず、グイッと両脚をひらかされる。性器どころか尻の奥まで丸見えの格好だ。
「ちょっ! いきなり何す……あうっ!」
性器を握られ、声が引っ繰り返る。
初めて他者にそこを触られて、手のひらの感触の生々しさにぶるっと震えたけれど、
「ギュウッと握られたくなければ、おとなしくしていなさい」
急所を人質にとった王子が、「老若男女を虜にする」と言われる笑顔で言い放った。
さらにもう片方の手には、いつのまにやら見たこともない形状の太い紐が握られている。
「な……何ですか、それ……」
股間を握られたまま、ゴクリと唾を飲み込む。
「さて、何でしょう」
楽しげな声と、扇情的な笑みが返された。
額を押さえたリーリウス王子に、「仕方ないでしょう!」とグレイグは反論した。
顔が火照って赤くなっているのがわかる。
「い、今すぐっ、は、裸になれとか言うから!」
(王子の執務室なんて、いつ誰が来るかもわからないのに……)
常識的な主張をしただけなのに、
「素直な生徒になるのではなかったか」
冷たい目で見据えられて、言葉に詰まる。
グレイグはこれまでリーリウスに対し、「八方美人のチャラい王子」と断じていたが、常に愛想の良い人が不機嫌になるとその落差が恐ろしいのだと、王子と接して初めて知った。
神殿の彫像みたいに整った顔をしているから、余計に怖い。
「ら……来訪者の予定とか……」
「午後までは無い。そなたのように急の用件で来る者がいなければね。だが急がないと、いつ『急の来客』があるかわからないよ」
「……っ」
無慈悲に急かす王子が憎らしい。が、従うしかない。
(従うしかない……?)
違う。こんなヤリチン王子の指図など無視して、今すぐ出て行ってもいいはずだ。王子も言ったではないか、「断るのはそなたの自由」と。
(でも……セックスを教わっておかないと、困るのは本当のことだし……)
そう思うそばから、別の自分が(その理屈はおかしい)と指摘してくる。
あれほど嫌悪していたリーリウス王子に頭を下げるくらいなら、彼の言う通り、高級娼館で手ほどきを受けるほうがマシだ。娼婦なら、こんな公共の場で裸になれなどと命令してくることもない。
(なのに、どうして)
自分は今、服を脱いでいるのだろう。
ひどい屈辱を感じているのに。
震える指が勝手に釦を外して、シャツを肩から落とす。
こんな、まだ昼にもならない時間の、明るい部屋の中で。
「う……」
最後の下着のみを残して、王子を見た。
机に腰かけ長い脚を組む王子は、本当に彫像のように、表情ひとつ変えずグレイグを見ている。尖った肩や、平らな腹や、剥き出しの太腿を。
下着一枚で、だけれど靴は履いたまま。
まるで露出好きの変質者みたいだと気づくと、恥ずかしくて顔を上げていられない。
そのとき急に、仮装舞踏会の夜のことを思い出した。
あの日グレイグは、『黒い森の魔物』に扮していた。
周囲には「仮装などくだらない」などと言っていたけれど。
本当は、身分を隠して一夜限りの情事をするにはうってつけの日だから、(今夜初体験を済ませたい)と、内心ガチガチに緊張して臨んでいた。
あまり奇抜な格好はしたくなかったので、無難なところで歌劇の魔物を選んだ。
まさかリーリウス王子と被るなんて思わなかった。
王子が会場に現れると、そこは彼が主役の舞台になった。
魔物のくせに太陽みたいな存在感で、一瞬たりとも目が離せない。
気づけば皆と一緒にボーッと見惚れていた自分に気づき、同時に、この仮装では誰を誘っても王子と比べられるだろうと思い至った。悔しいが、王子のほうがずっと様になっているから。
それで……比較される前に、会場から逃げ帰った。
「あなたが嫌いです」
そう口にすると、目と鼻の奥がツンと熱くなった。
「あなたは僕をみじめにする」
また失礼なことを言ったのに、なぜだか王子は柔らかく微笑んだ。
そのつつみ込むような瞳に、にわかに胸がときめく。
が、その優しい笑顔が次に発した言葉は、
「よし。では、さらにみじめになってみよう」
グレイグの顎がカックンと落ちた。
「はああ!?」
「だからその、色気の無い言動をやめよというのに」
「あなたこそ、恥を晒して傷心の僕に、ちょっとは優しくしてやろうとか労ってやろうとか思わないんですか!? 『さらにみじめに』って、何なんですかそれ!」
「脱ぐのはやめたのか?」
「脱ぎますよ! 脱げばいいんでしょ!」
勢いよく下着をずり下ろし、ぽろんと性器が露わになったところで、勢いに押されていた羞恥が戻ってきた。
あわてて手で覆うと、「隠すな」と声で打たれる。
「それを隠して、どうやってセックスを教わるのだ」
「か、隠して教える方法にすればいい!」
無茶を言ってる自覚はあるが、いざとなると恥ずかしくて我慢ならない。
だってきっと、王子から見ると自分の性器は……貧相。
きっとそう。平均値は知らないけれど。
アレクサンドラたちの会話でも、シュナイゼはデカかったという話が出ていた。なら同じヤリチン仲間のリーリウス王子だって巨根に決まっている。
それに以前、夜会で酔って裸になろうとした知人がいたが、彼は胸から下腹まで毛で覆われていて、グレイグは(あれが普通なのか!?)と衝撃を受けた。
(僕は……胸にも腹にも毛が無い……)
必死に股間の両手をキープし続けるグレイグに、王子がにっこり笑った。
「素直な生徒になる約束を破るなら、私にも考えがあるぞ」
笑っているのが、かえって怖い。
なのに口が勝手に、
「好きにしたらいいだろう!」
なんて答えてしまい。
すると王子は、なぜか嬉しそうに笑ってうなずいた。
「では、そうしよう」
言うや否や、ひょいと机からおりる。
と同時に、両脇に手を入れられ、グレイグは軽々持ち上げられてしまった。
「わあっ!」
そのままダンスするみたいにくるりと向きを変え、今まで王子が腰かけていた樫の机に座らされた。間を置かず、グイッと両脚をひらかされる。性器どころか尻の奥まで丸見えの格好だ。
「ちょっ! いきなり何す……あうっ!」
性器を握られ、声が引っ繰り返る。
初めて他者にそこを触られて、手のひらの感触の生々しさにぶるっと震えたけれど、
「ギュウッと握られたくなければ、おとなしくしていなさい」
急所を人質にとった王子が、「老若男女を虜にする」と言われる笑顔で言い放った。
さらにもう片方の手には、いつのまにやら見たこともない形状の太い紐が握られている。
「な……何ですか、それ……」
股間を握られたまま、ゴクリと唾を飲み込む。
「さて、何でしょう」
楽しげな声と、扇情的な笑みが返された。
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