王子殿下が恋した人は誰ですか

月齢

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4.アールト・ド・ロバル

親友たちの直感と理屈

 アールトと会った翌日の、長閑な昼下がり。
 リーリウスは親友たちを私室に呼び出し、シュナイゼに疑問をぶつけた。

「いったい、アールト・ド・ロバルの何をもって『なんかにおう』と推したのだ? まさか汗臭かったとかではあるまいな。あれはどう見ても、仮装でドレスを着るタイプではなかろう」

 昼寝していたところをレダリオに叩き起こされたらしきシュナイゼは、「いやあ」と笑って寝癖のついた頭を掻いた。

「俺も殿下の『運命の人』の条件としては、少々ゴツいかな~と思ったのですが。でも当て嵌まらないほどでもないでしょう?」
「うーむ」
「それに彼はイルギアスに来て日が浅く、情報が不足しているのですけども、その少ない情報の中に気になることがあったのです」
「というと?」

 長椅子でゆったりと脚を組んで続きを促すリーリウスの横に、レダリオがドサッと書類の束を置いた。呼び出されたからには一件でも多く仕事をさせてやるという強い意志を感じる。

「アールトを知る人の多くが、『リーリウス殿下に憧れているようだ』と証言していたのです!」
「……」
「そんな、うさんくさい人を見る目をしないでください。本当なんですってば。アールトから直接、『リーリウス殿下について、どんなことでも良いから知りたい』と訊かれた者たちからの情報なんですよ」

 リーリウスは改めて、昨日のアールトの様子を思い出す。
 どう考えても、憧れの相手に会えて喜んでいるという反応ではなかった。

「ひたすら畏まってるだけに見えたぞ。定型通りの反応というか。ナンパ痴漢と言われて初めて、素に戻った感じだったな」
「運命の人かもしれないのに、ナンパ痴漢呼ばわりしたのですか!」

 驚いたシュナイゼが、口に運んでいた焼き菓子をポロッと落とした。
 リーリウスは「まったく」と肩をすくめる。

「彼は別人だ、シュナイゼ。せっかく捜してくれたのに悪いが。私の運命の人はもっとこう、しっかり筋肉がついていながらも柳腰なのだ。アールトとは滲み出る雰囲気もまるで違う」
「そうですかぁ、残念です。でも……」
「でも?」
「俺の中の野生の勘が、アールトには殿下絡みで秘密があると告げているのです」

 それまでひとり黙々と仕事をしていたレダリオが、呆れたように口を挟んだ。

「においの次は勘か」
「おう、直感は大事だぞ、レダリオ。そういやお前、見合いはどうなったんだ?」

 レダリオの視線が、触れればヒンヤリしそうなほど冷たくなった。

「ようやく縁談がまとまりそうだった」
「そうだった? 結局ダメだったんか」
「ああ。殿下から『贈りもの用にオーダーした品物を取って来てくれまいか』と頼まれて、行ってみたら『アガーテ・ボンボン』だかいう高級下着専門店」
「知ってる知ってる、すっげーエロい下着の店!」
「……わたしは知らなかった。店主に『必ずや、さらなる官能を与えてくれるはずです』などと言われながら店を出たところを……偶然、見合い相手に見られた」

 シュナイゼが盛大に吹き出した。
 手を叩いて大笑いしながら「まさか、それでフラれたのか!?」と目に涙を浮かべている。レダリオの口の端がヒクリと動いた。

「ああ、そうさ。『わたくしは浮気を許容できない性分ですので、すでに親密なお相手がいるのなら、誠に残念ですがこのご縁はなかったことに』と涙ながらに言われたさ。その話を聞いた父から、また死ぬほど説教された」

 シュナイゼが腹を抱えて笑いながら、「さすが殿下」とこちらを見る。

「あの店は人気がありすぎて、今はオーダーを受け付けていないんですよ。幻の下着と言われているのに入手するとは!」
「オーナーと親しいのだ」
「いいなぁ、俺も誰かに着せたい。そういや、エロい下着の贈りものって、どなたに贈るんです? マリウスかグレイグですか」

 すでにその件でレダリオから猛烈に怒られているリーリウスは、友の怒りが再噴火しないうちに話題を戻した。

「ともあれ、直感というのは確かに大事だ。私も運命の人を見つけたとき、『そうか、彼だったのか』と、理屈抜きに気づいてしまったからね」
「そうそう、そういうものですよ」
「わたしは理屈で疑問点を挙げられます」

 レダリオがミント茶を手渡してくれながら言った。
 シュナイゼも手を出したが、無視されている。

「殿下のお話からすると、アールト・ド・ロバルは日常的に武術と関わりが深いのではないでしょうか」

「そうだね、私もそう思った。体格も言動も、お堅い武人の印象だ」

「それにしては彼の自己紹介は、遊学中であることばかり強調しているように思えます。武術の心得がある他国の者が、それを隠して殿下のことを探っているのなら――
 においだの勘だの言う前に、さっさと取っ捕まえて改めて身許確認をしろ、この親衛隊長野郎」

 後半は、シュナイゼが自分で淹れたミント茶を取り上げながら恫喝したレダリオは、代わりに焼き菓子を親衛隊長野郎に食わせて、「ああっ、口の中の水分持っていかれる! 頼むからお茶もくれ!」と懇願させた。
 
「どうします殿下。こちらで対処しましょうか」

 ようやく茶をもらって一気飲みしたシュナイゼが、おかわりしながら訊いてくる。
 リーリウスは「いいや」と微笑んだ。

「実はひとつ、心当たりがある。手っ取り早く躰に訊くとしよう」
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