王子殿下が恋した人は誰ですか

月齢

文字の大きさ
30 / 50
4.アールト・ド・ロバル

あと二人

しおりを挟む
 リーリウスは過去に三度、タウラエスのオールステット王と会ったことがある。
「優しそうな方」という第一印象そのままに、リーリウスがおチビの頃から偉ぶらず接してくれて、穏やかな人柄が好ましいと両親や兄も評していた。 

 よく見ればなかなかの男前だけれど、よく見てみようと思わせるほどの華は無い。
 だが笑うと「見えてますか」と訊きたくなるほど細くなる垂れ目は、愛嬌たっぷりだったし、リーリウスを撫でてくれた指も細長くて綺麗だった。
 威厳と言うより静謐さで、いつのまにか人の心を掴む立派な王だ。

(あの王に惚れるとは、アールトは見る目がある)

 ただ、年齢は二十近く離れているが。
 二年前に王妃を亡くして以来、オールステット王は後添えを迎えていないから、アールトが心と躰の隙間を埋める可能性も皆無ではない。

 ――などと考えながら、リーリウスは『夕の間』の長椅子に腰かけ、ゆっくりとワインを味わっている。

 シュナイゼが持ち込んだ肉料理の山はすでに無く、彼は今、別のお肉に取りかかっていた。
 窓辺のフックに引っ掛けた紐で両手を吊り上げられたお肉が、はげしくのたうってはギシギシと音を立てる。

「あーっ、やあん! イイ! イイッ! すごいぃぃ」
「はあっ、はあっ、シュナイゼ様お願い、ぼくもぉ」
「それじゃあ殿下、何もしないであの男を帰しちゃったんですか?」
「ああ。相手が悪い」
「というと?」

 答えてやりたいが、賑やか過ぎるこの状況では、迂闊に隣国の王や子爵家の息子の名は出せない。
 シュナイゼは待機時間を有効に使うべく、瞬速で使用人の若者二人をナンパして、その二人ともを裸でアールト同様、窓辺に吊るし、ことを致している真っ最中なのだ。

 リーリウスがアールトに食事をさせ、土産をてんこ盛りした馬車に乗せ送り出してからこの部屋に来たときには、すでにひとり目が下半身を精液まみれにして悶えていた。
 今はその横で二人目がガンガン腰を突き上げられて、はしたない声を上げ続けている。

「ひああんっ、深すぎるっ、はひっ、もうっ、イぐっ、イぐうぅっ!」

 抽挿に合わせて揺れていた性器から、精液が飛び散った。それでもなお快感が冷めないらしく、シュナイゼが達したときには二度目の精を放っていた。
 快楽の余韻で焦点の合わぬ目をした二人を吊るしたまま、シュナイゼは手早くあと始末をする。

「嫌ぁ、シュナイゼ様、もっとぉ」
「ずるいっ、ぼくもぉ」
「ちょっと待ってな。いい子にしてれば、ご褒美があるぞ」

 そう言い置いて、いそいそとリーリウスの隣の椅子に座った。着衣のまま二人を相手にしていたのに涼しい顔で、ちっとも息を乱していない。

「私も体力には自信があるが、そなたも相当だな」
「お陰様で。あの男を帰したなら、殿下もご一緒にどうです?」
「遠慮しておく。私の性欲は今、運命の人を射止めるという目的に一点集中しているのだ」
「変われば変わるものですねぇ。でもわかる気もします。本気で惚れた相手となら、行為自体は一緒でも、きっと血管はち切れそうなほど興奮するでしょうね」

 窓辺に吊り下げられた若者たちに視線を流したシュナイゼにつられて、リーリウスもそちらを眺める。

 実はアールトも、素直に真相を話していなければ、彼らのようになっていたかもしれない。

『夜の間』と『夕の間』の窓辺のフックは、以前リーリウスの悪い遊び仲間である建築家が、こうして人を拘束するため取り付けていったもの。
 二つの部屋は庭に面してL字型に隣り合い、窓辺に人を吊り下げると、互いの部屋の窓からそれが見える。
 つまりフックは複数人で致すこと前提で、拘束プレイで雰囲気を盛り上げるための小道具なのだ。

「若さとは暴走だ」
「何か仰いましたか?」
「いや」
「それで、相手が悪いとはどういうことです?」
「アールトは、オールステット王に惚れている」

 シュナイゼが思いっきりワインを噴いた。

「マジっすか」
「ああ。本人はそもそも男に欲情なんてしない、純粋に敬愛しているだけなどと言っていたが」
「いたが?」
「『夜の間』で食事をさせていたら、そなたがことを始めて。彼らが窓辺で裸になり、吊り下げられているのが見えた」

 リーリウスは、窓辺で半勃ちのままシュナイゼに放置されている二人を示した。

「アールトは気の毒なくらい勃っていたな」
「俺は意図せず食事におかずを提供したのですね」
「ゆえに股間もつらかろうと、早々に帰してやったのだ。……私もオールステット王のことは尊敬しているし。あの王のため不器用に頑張っていたのかと思えば、手を出す気にはなれなかった」

 アールトには改めてはっきりと、王女と結婚する意志は無いと伝えた。
 彼の恋路も……応援はするが、さすがにタウラエスまでは見守りの目もとどかない。
 
「そういえば、彼は何の仮装をしていたのか訊きましたか?」
「下宿の大家特製のパイを食べたら腹を壊して、当日は欠席したそうだ」

 シュナイゼは笑って、「では……残るはあと二人ですね」と目を細めた。
「そうだな」答えてリーリウスは立ち上がる。

「私は城に戻ろう。そなたは泊まっていくといい」
「ありがとうございます、お言葉に甘えます」

 部屋を出て歩き出すと、すぐにまた嬌声が聞こえてきた。
 リーリウスは先ほどのシュナイゼの言葉を反芻する。

『本気で惚れた相手となら、行為自体は一緒でも、きっと血管はち切れそうなほど興奮するでしょうね』

(興奮したとも。彼を抱いて、永遠に躰を繋いでいたいと思ったあの夜に)

 一刻も早く、あの興奮を取り戻したい。
 夜も朝も、すべての彼を抱きしめていたい。 

 運命の人候補者は、あと二人。
 ――彼は、この腕に戻って来てくれるだろうか。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

処理中です...