王子殿下が恋した人は誰ですか

月齢

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5.ルイス・ド・コンバルト

彼らに共通する事情

 リーリウスは、ちょっと困惑していた。
 というのも、カチンコチンに緊張していたルイスにリラックスしてもらうべく、庭園の四阿に連れ出したところ、彼の様子が豹変したのだ。
 どう変わったかといえば、

「そうなんっスよー! もうマジヤバイっつーか! 霊媒師のヤバさがヤバくてヤベエんス。殿下のヤバオーラのおかげでうち全員救われて、ガチ破滅フラグ回避でマジ殿下ヤベエって、家族みんなで大感謝っス! あーマジヤバ感動。シュナイゼ様と殿下、最&高。尊みが過ぎてむしろ神」

「……そなた、だいぶ印象が変わったな」

「あ、やっぱりそう思っちゃいます? 恥ずかしーっ! 照れレッテレ~♪」

 ……これはどういうことだろう。
 シュナイゼの言っていた「シャイではあるけどよく笑う、感じのいい青年」というのは、まさかこの照れレッテレ~♪を指していたのだろうか。確かによく笑っているけれど。

(シュナイゼよ……これはシャイとかそういうレベルではない)

 友に会ったらひと言もの申そうと心に決めたが、同時に(実にオモシロイ子だ)とも思う。『運命の人』云々はひとまず置いて、この豹変っぷりはとても興味深い。

「その霊媒師だが、誰からなぜ呪いをかけられたかは、言っていたのか?」
「先祖が悪さをした報いと言ってたっス! ヤバくないっスか?」
「人の不幸につけこんで破滅フラグを立てさせるような霊媒師が、悪さの報いとはよく言えたものだ」
「それな。さすが殿下!」
「それな。さてルイス、呪いの件だが……」

 するとルイスが、両手を振った。

「あ、違うんス! おれはルイスじゃなくって、クリスっス!」
「……ん?」

 青年は立ち上がり、ビシッとお辞儀をして、にっこり笑った。

「改めてご挨拶させてもらうっス、おれはルイスの長兄で、クリス・ド・コンバルトっス!」

 リーリウスは、しばし無言で見つめ返した。
 おもむろに手近な花を摘み、とりあえず「なるほど」とうなずく。
 ルイスにしろ、このルイス改めクリスにしろ、王子をからかって喜ぶ愚か者には見えない。

(ならば本人の言う通り、彼は今、ルイスではなくクリスなのだ)

 その前提で、話を続けるしかあるまい。

「亡くなったお兄さんということだね?」

「そうなんス。十五歳のとき、剣の稽古の帰りに古釘で怪我したんスよ。それがもうマジヤバ、ガチ破傷風。剣の腕には自信があったのに、まさか釘ごときで死ぬとはね~釘パネェ。殿下も古釘にはご用心っスよ!」

「ありがとう。……もしやルイスの剣の腕が上達してるのは、そなたの影響かな?」

「あっ、そうなんス! 弟は剣術なんか大嫌いなんスけどね。
 おれね、あいつが二十二になる前に死ぬって予言されてから、なんでか急にこの世に呼び戻されて、あいつに憑依しちゃったんスよね~。マジわけわかんねえ。けど、せっかくだからこの際、剣さばきを弟の躰に叩き込んどこうかと!」

 リーリウスはフムフムと微笑んだ。
 なんとなく、この事態を理解できた気がする。

 整理すると、リーリウスがコンバルト父子と会話を交わしたときの、ぽや~っとした彼は、ルイス本人。
 そして剣術が得意な照れレッテレ~♪が、長兄クリス。

(と、すると……)

「クリス。もしかして、次男くんも呼び戻されているのかい?」

「そうっスそうっス、同じく享年十五のキースも来てるっス! あいつはおれと違って頭良いし、ルイスみたいに人見知りしないから、誰からも好かれやすかったっスね~」

 となると、シュナイゼと話したのはクリスではなく、キースのほうかもしれない。心の友の人物評を疑って悪かった。
 しかしシュナイゼならクリスもキースも同じく「シャイではあるけどよく笑う、感じのいい青年」で括りそうな気がしないでもない。

「享年が同じ十五とは……。キースの死因は?」
「夜中に女とデートしに、露台の柱を伝って家を抜け出そうとしたんスよ。で、足を滑らせて落ちたっス。頭良いのに抜けてるんスよ~」

 ケラケラ笑うクリスに、試しに

「今、キースと代われるかい?」

 尋ねてみると、表情がガラリと変わった。
 ヤンチャ坊主のようなクリスから、柔和でいかにも利発そうな顔へ。

「ご機嫌うるわしゅう、リーリウス王子殿下。キース・ド・コンバルトと申します。先ほどは能天気な兄が大変失礼いたしました」
「やあ、キース。これはまた、打って変わってしっかり者だね」
「いえいえ、『抜けてる』から露台から落ちました」

 苦笑して、改めてこちらへ向き直る。

「殿下。僕たちの言うことを馬鹿にせず、こうして兄弟ひとりひとりと向き合ってくださって、心から感謝いたします。これまで誰にもできなかったことでした」

「そうなのかい? ご両親には相談しなかったの?」

「両親は、霊媒師がルイスにひどい予言をしたことで、自分たちを責めています。自分たちの弱さから、息子の心に傷を負わせてしまったと。ようやくそれに気づけたのです。殿下のおかげです。
 けれどようやく立ち直ってくれた両親に、呪いについて悩んでるなんて言えません。ルイスは親がまた悲しむのは嫌なのです」

 殿下のおかげ、という意味がわからないのだが、リーリウスはとにかく話を進めることを優先した。

「キース。そなたには自分たちが呼び戻された理由が、わかっている?」

 キースの頬が、なぜか赤く染まった。
 そうして小さく、こくんとうなずく。

「自分がじき死ぬかもしれないと思ったとき、ルイスは、あることに強い未練を感じました」
「あることとは?」
「それは……二十一歳の男ですから、無理もないというか。その……。
 あいつは一度、性行為を教わるため親戚に連れられていった高級娼館のほか、経験が無いのです。だから『死ぬ前に、好きな人としてみたい』と強く思いました」
「なるほど。それはよくわかる」

 リーリウスだって同じ境遇であれば、『運命の人』を存分に抱いてから旅立ちたい。
 
「しかしそれと君たちと、どう繋がるんだ?」

 キースは首まで真っ赤になった。

「それはつまり……僕と兄も死の間際に、ルイスと同じ未練を抱いたため……です。兄弟で同じ執着を抱いたことで、あの世とこの世がリンクしてしまった……の、かも」
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