王子殿下が恋した人は誰ですか

月齢

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6.フランセ・ブリス・ド・カーロン

シュナイゼとフランセ

「改めまして、昨晩は大変ご無礼致しました」

 深々と頭を下げるフランセに、リーリウスは苦笑した。

「よい。どう考えても悪いのはシュナイゼだ」

 そう。まったくもってシュナイゼが悪い。
 いくら「なら早速、行動しなくちゃですね!」という彼の言葉にリーリウスが同意したからといって、ヤり部屋で真っ最中の『五人目』のところへ連れて行かなくともよいものを。

 だがリーリウスも結局、全裸で恐縮する青年たちを見ているうちに笑ってしまい、しまいには全員で爆笑してしまったので、友のことばかり責められないのだけれど。    
 その問題児の友は今朝から王都警備の視察に出ており、顔を合わせていない。おそらく説教されぬよう逃げているのだ。

 そんなこんなで、淫靡な欲とおかしなテンションにまみれた夜会から、一夜明け。

 爽やかな午後の海風が吹き抜ける露台で、リーリウスはフランセと歓談中である。
 昨晩の去り際に、

「明日の午後にでも、都合がつくようであれば城に遊びに来ておくれ。驚かせてしまった詫びに、南方から輸入したばかりのハーブ茶を馳走しよう」

 そう言い残してきたら、フランセはカーロン領名物の地酒を持って来てくれた。
 応接間でフランセと再会し、気楽にしてもらおうと海に面した露台に出て、ひと通り挨拶など交わしたところで。
 約束通り用意したハーブ茶を味見してもらうと、「うっ」とフランセが顔をしかめた。その様子を見て、リーリウスは破顔する。

「独特のブレンドだろう」
「はい。ものすごく……個性的というか」

 フランセは器用に片眉だけ下げて苦笑した。その表情も、甘いマスクをますます魅力的に見せる。

 シュナイゼは「フランセへのデートの申し込みが絶えないらしい」とも報告していたが、確かに仕草や表情のひとつひとつに色気が漂う青年だとリーリウスは思った。
 明るく才気煥発な印象の中に、どこか影も感じる。そんなところも人を惹きつけるのだろう。

「エアハルトはこのハーブ茶が好物なのだが」
「兄が? ……知りませんでした」
「数種のスパイスが入っていて、夏バテ防止にも風邪予防にもなる。箱で送らせるから、エアハルトによろしく伝えておいておくれ」
「承知いたしました。兄が喜びますね。貴重なものをありがとうございます!」

 心から嬉しそうに笑う。
 本当に兄弟仲が良いようだ。

「それはそうと、シュナイゼと顔見知りのようだったが。いつの間に知り合ったんだい?」
「あ、それは……」

 フランセは急に口ごもった。
 リーリウスは長椅子に腰かけ、隣の席をすすめる。

「恐れ入ります。えっと……まずおれは昨年、カーロン領から王都に戻ってきました。そろそろ家業の手伝いに本腰を入れて、兄を支えたいと思ったので」
「うむ」
「久し振りの王都は、やっぱり活気が違います。それで思わず、遊びごころがムクムクと。もちろん仕事や勉強もきちんとしていますけど、その……」

 言いにくそうにしているのを見ると、自然と口元が緩んだ。

「気を遣わずとも良いぞ? シュナイゼと関わったからには、ヤンチャなことをしたに決まっている」

 フランセが目を丸くして、吹き出した。

「そう仰っていただけると助かります。――実はある夜会で、シュナイゼを見かけたのです。そのときはまだ彼の身分を知らず、『でかくてやたらモテてる男がいる』くらいの認識でした。
 その数日後の夜会でも、また会いました。なんとなく視線を感じて振り向くと、あの人が。目が合うとニヤッと笑って、でも話しかけてくるでもなく」

 たぶんそれはシュナイゼが、『運命の人』候補者にフランセが該当するかを探っていた時期だろう。

「お察しでしょう。どちらの夜会も、昨晩と似たような趣向でした。そしてどちらの夜もシュナイゼは、俺が狙っていた青年をさっさとナンパ成功してました。ずるいですよね、あの人。勝てるわけがない」

「そなただって、ずいぶんモテるようじゃないか」
「シュナイゼや殿下とは比べものになりませんよ!」

 謙遜というより、本気で不貞腐れたように言う。

「それでおれは、別の子をナンパしたんです」
「その子も青年?」
「はい。おれは同性のほうが好きなので」
「好みは?」
「……うーん。可愛い系より、しっかり大人っぽい男のほうが好きかな」

(なるほど)

 リーリウスはフムフムとうなずきながら、「それで?」と続きを促した。

「それで別室に移動しようとしたら、廊下でシュナイゼが……」
「部屋に入らず、廊下でおっぱじめてたのだろう」
「ええっ! どうしてわかるのですか!?」
「長い付き合いゆえな……」

「まさにそれなんですよ! キスしながら抱き合って、相手の下半身はもう丸出し。すぐそこに部屋があるのにですよ。驚きのあまりちょっと固まってたら、目が合ったんです。そしたら彼はニヤッと笑って、『よければ一緒にヤる?』って」

 おそらくそれも、フランセを調査するための演出……いや、単に遊びたくなったのかもしれない。

「それで四人で楽しんだわけだ」

「そうなんです。以来、親しくしていただいてます。好みのプレイにも共通点があったりで。おれは王都には殆ど友達がいないので、いろんな遊びに誘ってもらえて嬉しいんです。ただ……さすがに昨晩は驚きましたけど」

 顔を見合わせ、笑い合った。
 傾いた日が、少しずつ空の色を変えていく。
 リーリウスは「それにしても」と小首をかしげた。

「そなた、よく怒らないな。私は慣れているが、知り合って間もないそなたには、昨夜のアレはさすがにやり過ぎと感じたのでは?」
「あ、いえ。アレも理由があるので」

 それまで爽やかに笑っていたフランセの瞳に、瞬間、影がさした。
 伏せた睫毛の向こうに、誘うような光が宿る。

「おれがお願いしていたんです」
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