召し使い様の分際で

月齢

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第26章 暗躍する双子

そこで木の芽祭り

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『エッチにゃ春の精』について、白銅くんに踏み込んだ質問をしてよいものか迷ったが、やはりエッチにゃ話はエッチにゃ人たちに訊くことにした。
 ひとまず私室に戻ることに決めて、バスケットに入った白銅くんと薬草研究室を出て歩きながら、「お祭り楽しみだね~」とほっこり時間を享受していると、城に入った途端、顔見知りの女官から声をかけられた。

「よかったアーネスト様! お探ししていたんです」
「僕をですか? なにかご用でしょうか」
「はい。王子殿下方が先ほどお戻りで、アーネスト様にお話があるそうです。お部屋にいらっしゃいましたよ」
「話……? わかりました、ありがとうございます」

 お礼を言って見送ってから、バスケットの中の白銅くんと顔を見合わせた。

「二人とも、こんな早くに帰ってきたなんて……急用みたいだね」
『そうですね、どうぞお急ぎください! ぼくのことは置いて行って大丈夫ですから!』
「白銅くんは負担になるほど重くないから大丈夫だよー」

 可愛い気遣いにふふっと笑いながら、心持ち足を速めた。
 どのみち、僕は広い城内を走って移動することはできないし、いつ人型に戻るかわからない白銅くんを、ひとりにするわけにもいかない。
 ……ふむ。お祭りで人混みの中に行くのなら、白銅くんのそうした問題も、解決策を万全にしてから行動せねばなるまいな。

「なにごとだろうねえ」
『もしや、お祭りのことでは!?』

 白銅くん、期待でおめめをキラキラさせている。ほんとに可愛い。
 まさか大の大人が二人そろって、祭りの話をするために早退してきたりはしないだろうが……ちょうど『エッチにゃ春の精』の話をエッチにゃ人たちに訊きたかったところだから、ちょうどいい。

 ゆっくり階段を上り始めると、何やら騒がしい気配がすると思ったと同時に、双子が階上の廊下に姿を現した。

「アーネスト! ちょうど迎えに行こうと思ってたところだったんだ!」
「お帰り、アーネスト」

 寒月と青月が口々に言うや、すごい勢いで僕の前まで走ってきて、押し合いへし合いしたあげく、青月がひょいと僕を抱え上げた。僕がとっさに抱えた白銅くん入りのバスケットごと。
 驚いて口をパクパクさせるばかりの僕を覗き込んだ寒月が、チュッと音をたてて額にキスをしてから、ニカッと子供のように笑った。

「祭りの話をしに来たんだ。木の芽祭りっていうデカい祭りがあってな」
「行こうな、アーネスト」

 ……本当に祭りの話のために早退したのか……。
 白銅くんがますます嬉しそうにしているから、それはそれで良いのだけど。

 例によってお姫様抱っこで運ばれた僕(と白銅くん)は、私室の寝台の上にそっと下ろされて、ようやく話を切り出せた。

「『木の芽祭り』というお祭りの話は、ちょうど白銅くんから教わったところだよ。それで、みんなで遊びに行けないか相談しようと思っていたのだけど……」
「おっ。だったらちょうどいいな。行こうぜ行こうぜ!」

 寒月、とっても張り切っている。彼も相当な祭り好きと見える。
 しかし寒月よりは冷静な青月までも、祭りの誘いのためだけに昼間から帰城してきたのか? ……解せぬ。
 ひそかに訝しく思っていると、青月が優しい微笑みを浮かべた。

「祭りの誘いのために仕事を抜けて帰ってきたのが不思議なんだな?」
「う、うん」

 よく『わかりやすい』と笑われる僕、今回も疑問がすべて顔に出ていたらしい。
 二人は僕(と膝に乗せた白銅くん)を挟んで寝台に腰を下ろし、「じゃあ説明して進ぜよう」と交互に語り始めた。

「まず、例年なら毎年開催される『冬会とうかい』が、弓庭後たちの件で中止になった」
「冬会……以前、令嬢方が言っていたような」

 あれは……そうだ、初めて城で繻子那嬢たちと対面した日だ。

「確か陛下に冬会へ招かれた、とか。陛下が冬会で婚約のお披露目をしたいと仰っていた、とか。そういう話だった」
「おう、さすが記憶力良いなアーネスト!」

 寒月が屈託なく褒めてくれたが……。
 そりゃあね。あの話の流れで跡継ぎの件が出て、当たり前だけど子供を産めない僕は思いっきり凹んだから、余計に忘れられないよね……。
 僕がひっそりと根に持っていることを知らない双子は、嬉しそうに「たいしたものだ」とか「さすが俺らの嫁」とか言って喜んでいる。

 ……そんな快活なところも、好き……。

 いきなり惚れ直してしまった。
 しかし心配そうに僕を見上げる白銅くんに気づき、大丈夫だよと微笑んで見せる。
 いかんいかん。聡い白銅くんの前で脈絡なくボーッと見惚れていたら、また熱でも出たのではと心配させてしまうよ。
 一方、双子は、僕の熱い視線には気づかず、上機嫌で説明を続けていた。

「冬会というのは、醍牙の政治的な行事としては最も規模が大きいんだ。国際的なパーティーといったところか。友好国や交流のある国の、王族や首長クラスを招いてな。非公式に政治的な折衝があったり、商談したりする」

「昔から醍牙の王族に慶事があると、その冬会でお披露目するのが常でさ。だから俺らも、そこで大々的に、アーネストが俺らの嫁だと宣言したかったわけだが……」 

 青月も、彼に続いて話した寒月も、大きなため息をこぼした。

「いつも『どうやって脱出するか』しか考えてなかった冬会を、今回ばかりは心底楽しみにしてたっつーのによー」
「まったくだ」

 ……がっかりしてくれている二人には悪いが……。
 まさかそんな大ごとを考えていたとは、まったく知らなかった。

 もしも冬会が中止になっていなかったら、また自分たちだけノリと勢いでことを進めて、僕には直前になってから『冬会で婚約発表しようぜ!』などと言い出して、腰が抜けそうなほど驚かされていたのだろうな。目に見えるようだ。
 そう思うとちょっぴり、『今回ばかりは中止になってくれてありがとう』と、思わないでもなかったり。ごめんよ双子。

 そんな僕の思惑に気づかぬ双子は、「「そこでだ!」」とさらに話を続けた。

「「そこで木の芽祭りだ!」」
「……どこで?」

 さっぱりつながりがわからない。
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