召し使い様の分際で

月齢

文字の大きさ
238 / 259
第28章 裏・春の精コンテスト

色気からの……もっ!

しおりを挟む
 すぐさま「どうぞ!」と差し出せたらよかったのだが、あいにくソレは、今まで隠れていた飾り幕の裏に置きっぱなしにしていたのだった。
 僕はみんなの注目を浴びながらトコトコ移動し、ソレを持ってトコトコ戻ってきた。この素晴らしい着ぐるみにどうしても難点を述べよと言われたら、ちょっと移動しにくいことだろう。

 そうして、肉球付きの手に持ったバスケットを一同に示し、覆っていたクロスを取り外した。
 興味津々、中身を覗き込んだみなさんが、「「「おおお!」」」と驚きの声を上げる。素敵な反応!

「これは……菓子、だよね?」
「うっそ綺麗!」
「なんてきゃわゆいにょ!」

 灯曄様、カタリナさん、緑花さんに続いて、嘉織様がブンブン風音が立ちそうなほど大きくうなずいた。僕もにっこり笑ってうなずき返す。

「菓子パンと焼き菓子です」

 そう。バスケットの中身は、色とりどりのお菓子だ。
 すべて今回の木の芽祭りに合わせて『モフ薬舗』が販売したもの。
 宝石のような赤や黄、緑のドライフルーツをちりばめて、甘酸っぱいスピネルカラントのジャムを挟んだ猫型パン。
 卵の旨味と塩気が効いたふんわりバター味の猫型焼き菓子には、若草色や桃色、白銅くんのおめめみたいなオレンジ色などの、甘いクリームペーストがかかっている。

「こんな色のお菓子は見たことがないよ。食べられるのかい?」

 リアンさんがとっても良い質問をしてくれた。
 僕は「もちろんです」とドヤ顔で答える。
 だってこれこそ、僕が仕込んでおいた『色気』だからね!
 醍牙のお菓子はとっても美味しいけど、全体的に茶色い印象だな~と以前から思っていたので、この機会に販売してみたら大好評だった。

「すべて果実や薬草由来の色なので、安心安全です。ある種の薬草は、配合により鮮やかな色合いに変化して、自然な着色料として使えるのです。ダースティンにいた頃、子供たちの誕生会などに作ってあげると喜ばれました」
「確かに、これ贈ったらウケそう!」
「八尋様は女性に贈ろうと企んでいらっしゃいますね? お見通しですぞい」

 盛り上がったところで、味見をしてもらうことにした。
 寒月と青月が着ぐるみの僕の代わりに配ってくれて……

「店舗でも露店でも大好評、大行列だったんだぞ」
「品切れ続出の名品なのだから、心して食え」

 なんて、もったいつけている。
 僕はドキドキしながらみなさんの表情を窺っていたのだけど、「うまっ!」と王女が言ったのを皮切りに、次々嬉しい反応が続いた。

「このパン、甘酸っぱさとドライフルーツの風味と食感が絶妙! 永遠に食べられるよ」
「甘さとバターの塩気が交互に来る焼き菓子も危険だわぁ。止まらなくなるやつぅ」
「どれも酒にもよく合うな」
「『妖精伯爵』の名は伊達じゃないね。目も舌も楽しめて、妖精の魔法みたいなお菓子じゃないか」
「おまけにこの呑気者は、商才もたいしたものだぞ灯曄」

 和気あいあい、美味しいものを食べていると会話も弾む。
 どさくさ紛れに出てきてしまったので改めて自己紹介をすると、春の精候補のみなさんもいろいろ話してくれて……
 カタリナさんとリアンさんは黒ヒョウの獣人、緑花さんと渉大さんはツキノワグマの獣人、そして揚羽さんと紋白さんは、ウサギの獣人なんだって。
 あああ……見たい。みなさんがモフモフ化したところを見たいー!

 ……などとひそかにコーフンしているうちに、バスケットに山盛りだったパンもお菓子も完食されていた。嬉しい。
 ニコニコしながら空っぽのバスケットを見ていたら、繻子那嬢と壱香嬢が、挑戦的に揚羽さんと紋白さんに言い放った。

「どう? 変則的でも、これはこれで色気と言えるのじゃなくて?」
「あなたたちもペロッと平らげていたようだし」

 確かに、揚羽さんたちも黙々と完食してくれていたので、僕はそれもすごく嬉しかったんだ。
 二人はお人形のような顔で令嬢方を一瞥し、レースの手巾ハンカチで小さな口元を押さえてから、抑揚のない声で答えた。

「そうですね。食も繁栄繁殖には不可欠であり、『色気』の範疇に関する明確な規定もない以上、食の『色気』は駄目だと断定することはできません。しかし」
「我らを導く星は、まだ納得していません。なぜなら出場者には、場を盛り上げるような自己アピールをする必要があるからです」
「盛り上がったじゃないの、この着ぐるみとお菓子で」

 繻子那嬢の言葉に緑花さんたちも「うんうん、盛り上がったにょ~!」と加勢してくれたが、揚羽さんたちは「それだけでは足りません」と首を横に振った。

「この『裏・春の精選び』には、暗黙の了解というべき最後の勝負があります」
「伝統となっているこの勝負を今回のみ中止などと、誇り高い殿下方ならば、そんなことはなさらないでしょう。その勝負とは――」

 揚羽さんと紋白さん、一糸乱れぬ左右対称の動きで、ビシッと酒瓶を指差した。

「「酒豪対決です」」

 その言葉に、双子があわてふためいた。

「「しまった、忘れてた!」」

 忘れてたんかい。そんな重要なことを。僕はお酒は強くないというのに。
 でもまあ……伝統だというならば仕方ない。

「じゃあ、挑戦するだけしてみるよ」

 そう申し出たら、双子はさらにギョッとして僕を見た。

「ダメだ! お前は金輪際、俺たち以外とは酒を飲むな!」
「そう! ダメ、絶対! ほら、アーネストの躰には負担が大きすぎるし!」
「でも……」

 反論したいが、確かにどのみち、酒飲み勝負では僕に勝機はない。
 残念だけど、この勝負は不戦敗かあ……。
 思わずしょんぼりうつむくと。

「そうくると思いましたわ!」
「この勝負、伯爵の部下であるわたくしたちが、代理でお引き受けいたしましょう!」
「ええっ!?」

 驚く僕に、繻子那嬢たちが綺麗にウィンクした。
 もしや恩返しのために付き添うと言っていたのは、この酒豪対決を見越していたということ……?

「この場には、下戸や躰の弱い方に無理に酒を飲ませるような下衆は、いらっしゃらないでしょう?」
 
 令嬢方が問いかけると、全員が「異議なし!」と杯を掲げて承諾してくれた。ひっそりと揚羽さんたちまで。
 すると五識さんが、「では皆様、決してご無理はなさらぬよう!」と言いながら、壁際に並んでいた酒瓶を抱えてきた。

「飲み比べのあとに、早口言葉と計算と、片足立ちをしますぞい! どのみちそれができぬ場合は失格ゆえ、『節度ある酔いどれ』となりますよう! では、始め!」
「「「始めぞーい!」」」

 僕も一緒に「ぞーい」が言えた! 
 そして僕はこのあと、令嬢方の実力を知った。
 飲むわ飲むわ。ほかの候補者たちもすごいけど、令嬢方が「まだまだー!」と次々杯を飲み干す姿を見る日が来ようとは……それも僕のために。
 初対面のとき、僕をイビり倒そうとしていた、あの二人が。

 なんだかジーンと胸が熱くなって、あと正直、虎さんたちまで一緒に浴びるように飲んでいるので、お酒の匂いだけで酔いそうになって。
 部屋の隅に、あらかじめ薬草茶を用意しておいたので、僕はそちらをいただくことにした。
 賑やかな声を聞きながら飲む薬草茶は、なんだか自然と笑みがこぼれる。同い年の友達がいなかった僕は、こういう無礼講的な飲み会も初めてだ。こんなに楽しいものなんだなぁ。

 ほっこりしながら、両手でつつんだカップに口をつけると……

「ん?」

 口になにか当たった。まさか虫でも入ってた!?
 驚いてカップの中に視線を走らせ、さらに仰天した。
 
「もっ!」

 温泉に浸かるようにプカプカ浮いていたのは、マルム茸。
 ――桃色の。
しおりを挟む
感想 843

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。