記憶のかなた

みやち

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運命3

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病院に行けと忠告してくれたのは誰だっただろうか。お腹は痛いのに何も出ないから、永遠に痛みが治まらない。起き上がるのも億劫で、母が心配して部屋に来るまでベットに沈んだままだった。

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結局学校まで休み、病院行きになった。

「渡辺奏多さんはオメガですね。」

「えぇ…?俺ベータですけど…」

何言ってるんだこの医者。受付で記入した紙に第2性なんて書いてあるだろ

「あぁ、いえ。二次性の確認ではなく検査結果ですよ。ここ数年の研究が進んだおかげで、元々オメガ値が高めのベータの方は後天性オメガになる可能性がある事がわかったんですよ。ご親族にオメガの方がいらっしゃいますよね?渡辺さんは元々のオメガ値が平均的なベータより高めでしたので、オメガ寄りのベータだったのではないでしょうか。」

性別が変わることなんてあるのか???中学での検査は間違ってたってことか?いや、後天性だからその後変化した?なにがなんだかわからない。でも確かに周りより華奢だと言われることも多いし、声もあまり低くない。でも身長は170あるし…いや本当は168だけど。四捨五入したら170だし…

「ここ数日の腹痛は子宮が形成される際の痛みだと思います。詳しくはオメガ科の先生に紹介状書きますので、そちらで伺って下さい。」

ぼーっと今の診断結果の紙と手に持たされた紹介状を見ながら、受付前のソファにいた母の隣に座った。

「俺、Ωだって。後天性でオメガになったらしいよ」

「そうだと思ったわ。ここ最近ずっとトイレかベットにいたじゃない?私の叔父も後天オメガでそんな感じだったらしいの。おばあちゃんが、あなたと叔父はそっくりだから注意してあげなさいって、私のように寝れば治ると言わないで、ちゃんと病院に連れて行ってあげなさいってしつこく言われてたのよ」

あんた昔から細っこいままだしねぇと余計なことまで付け加えるなくていい、気にしてるんだから。しかしばあちゃんも母さんもそんなに気にかけていたなんて知らなかった。

「オメガでもいいの?気持ち悪いっておいださないの?」

1番聞きたかったことがポロッと漏れてしまった。先生に後天性オメガだと言われた瞬間に思ってしまった。Ωって男でも子供産めるんでしょ?発情して‪α‬を誘うなんて穢らわしくて獣みたいね。そうやって誘ったら‪α‬に庇護して貰えるなんて恥ずかしくないのかしらなど。自分とは関係ない世界のニュースだと思った番組の、コメンテーターや一般論として紹介されていたものだ。世間から冷たい目で見られる性に突然変化したら、両親や家族、友人たちからもそんな目を向けられる事になるのかと恐怖しかなかった。

「なんで可愛い息子を追い出さないと行けないの?」

そんな風に母さんが言うから待合室だと言うのに、少し泣いてしまった。あらあら、泣くのなんて小学生以来じゃない?と茶化されてしまったが、ちゃんと周りを頼りなさい。私たちは絶対奏多を手放したりしないからとも言われた。せっかく少し涙も収まり掛けていたのにまたぶわぁっと出てきてしまったではないか。

鼻をぐすぐす言わせながらオメガ科がある棟まで移動して、また先生を待つことになった。
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