転生オタク王子の近代化無双 〜不便な中世に絶望したので、科学の力で「おもちゃ」を作ってたら世界最強の盟主になっていた〜

来栖とむ

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第6話 メイド・セーラとの出会い

1. 「正しさ」という名の呪い
「し、失礼いたします。本日より、こちらの離宮の配属となりました……セーラと申します」

円形の図書室に、消え入りそうな声が響いた。 
そこに立っていたのは、十四歳くらいの少女だった。地味なメイド服に、光を失った灰色の瞳。お世辞にも「王宮の華」とは呼べない、どこか陰気な空気を纏(まとわ)っている。

「……セーラ? マーサはどうしたの?」 
「マーサ様は、本邸の管理に専念されるとのことです。……私は、その、本邸の皆様から『不吉だ』と疎まれておりましたので。呪われた離宮には、私のような『呪われた娘』が相応しいと……」

彼女は深く頭を下げたまま、自嘲気味に呟いた。 
聞けば、彼女は下級貴族の四女。だが、幼い頃から周囲の大人たちが顔を真っ赤にして怒り出すような「特技」を持っていたらしい。

「私、数字の数え間違いを見つけるのが、得意でして……。父が領地の商人と取引をしている時、『その計算、銀貨三枚分足りませんわ』と指摘してしまったり、教会の寄付金の帳簿を見て『この三行目と五行目、合計が合いません』と言ってしまったり……」

(……最高かよ。それ、中世の腐敗した大人たちにとって一番不都合な『正論モンスター』じゃないか!)

「そのたびに、父からは『女が数字を語って大人を辱めるな』と殴られ、周囲からは『悪魔に取り憑かれて数字を操っている』と気味悪がられました。……殿下、私もやはり、気味が悪いでしょうか?」

「いや、全然! むしろ君、めちゃくちゃ『いいもの』持ってるよ!」

俺が思わず身を乗り出して答えると、セーラは幽霊でも見たかのように目を丸くした。
 
2. 世界最古の計算機(アナログ・コンピュータ)
最初の数日、セーラは怯えていた。 
だが、一週間も経てば、彼女はこの離宮で起きている怪奇現象の正体が、「五歳の王子が夜な夜なガリガリ怪しい板を削っている音」に過ぎないことに気づいた。

彼女は、掃除の合間に俺が机の上に開きっぱなしにしていたノートを、食い入るように見つめるようになった。

「……殿下。この、クモの足のような記号は何ですか? 数が……規則正しく並んでいるように見えますけれど」

「お、興味ある? これは『数式』っていうんだ。……そうだ、セーラ。もっと面白いものを見せてあげるよ。ちょっと待ってて」

俺は棚の奥から、自作の「ある道具」を取り出した。 
それは、木枠の中に細い棒を何本も通し、そこに丸く削った木の玉を並べたもの。前世の日本が誇る究極のアナログ計算機——「そろばん(算盤)」だ。

「これね、おもちゃじゃないんだ。こうやって玉を弾くだけで、どんなに大きな数字でも一瞬で計算できちゃう『魔法の板』なんだよ」

俺は彼女に、そろばんの基礎を教えた。 
「上の玉は五。下の玉は一。桁が上がるごとに十倍になる。……いい、セーラ。指をこう動かすんだ。イチ、タス、ニ、タス……」

その瞬間、セーラの瞳に火が灯った。 
彼女は、俺が教えたそろばんの運指を、一回見ただけで完全にトレースしてみせた。

「……あ。……あ、ああ……! 殿下、これ……頭の中が、整理されていきます! 数字が、ただの塊ではなく、カチカチと音を立てて積み上がっていくような……!」
 
3. 驚異の演算能力(クロックアップ)
それからのセーラの成長は、もはや恐怖すら覚えるレベルだった。

彼女は三日でそろばんの操作をマスターし、一週間後には、そろばんを使わずに「頭の中でそろばんを弾く」——つまり、珠算暗算の領域に足を踏み入れた。

「ええと、今年の離宮の薪の消費量と、去年の気温データを照らし合わせて、来月の予算を出すと……。……はい、銀貨二十四枚と銅貨八枚ですわ。誤差は一ミルもございません」

「……はやっ! 俺が万年筆で筆算するより三倍速いんだけど!」

五歳の王子が椅子から転げ落ちる横で、十四歳のメイドが平然と答えを出す。 
彼女の脳内CPUは、そろばんという「アルゴリズム」を手に入れたことで、完全にクロックアップ(高速化)したのだ。

「セーラ、君、本当にすごいよ。……ねえ、相談があるんだけど。君、僕の『秘書』にならない?」

「ひしょ……? 殿下、それは新しい種類のメイドのことでしょうか? お掃除の代わりに、もっと特別な洗濯でもするのですか?」

セーラは小首を傾げて聞き返してきた。知らない言葉を「知ったかぶり」せず、素直に問い返してくるその姿勢。これこそが、知識を吸収する者に最も必要な資質だ。

「違うよ。秘書っていうのは、僕のパートナー。一緒にこの国の数字を管理して、未来を設計する『知恵袋』のことなんだ」

「パートナー……。私のような呪われた娘が、殿下と肩を並べる……?」

「呪いなんかじゃない。……あとね、君に任せたい最強の武器があるんだ。『複式簿記(ふくしきぼき)』っていうんだけど、興味ある?」

「ふくしき……ぼき? それは、どんな食べ物、あるいは魔法なのですか?」

「食べ物じゃないよ(笑)。お金の出入りを二つの方向から記録して、一円のミスも許さない、商売と国家運営の究極の管理術のことさ」
 
4. 最強のコンビ、爆誕
セーラは俺の瞳をじっと見つめた。 
そこには、これまで彼女を蔑んできた大人たちの、嘲りや恐怖の色は一切なかった。

「……教えてください。その『ふくしきぼき』という理(ことわり)を。……殿下が私を必要としてくださるなら、私はこの命の最後の一滴まで、貴方のための計算に捧げますわ」

セーラが深々と、貴族の令嬢としての誇りを取り戻したような、凛とした礼をした。 
俺は自分の口元が吊り上がるのを抑えられなかった。

(見つけた。ついに見つけたぞ……。俺の知識を形にするための、最強の『外部演算装置』を!)

情報の量産。秘密の基地。そして、天才計算機セーラ。 
リヒテンベルク王国魔改造計画の「フロントエンド」と「バックエンド」が、ついに連結されたのだ。

「よし! じゃあセーラ、まずは特訓だ。この『エックス』と『ワイ』を使った計算式を解いてみようか」

「……エックス。ワイ。……ふふ、可愛らしい名前の数字ですわね、殿下」

呪われた離宮に、二人の楽しげな笑い声が響いた。 
それは、中世という名の停滞を、数字と論理で粉砕し始める革命のファンファーレだった。
 
あとがき
第6話をお読みいただき、ありがとうございます!
ついに! アルヴィンの最強の右腕、セーラが覚醒しました。 「数字に強い女子は気味が悪い」という偏見に晒されていた彼女に、アルヴィンが与えたのは「そろばん」というドーピングアイテム。 そろばんの珠を頭の中にインストールしたセーラは、もはや人間計算機。五歳のアルヴィンが勝てないスピードで、国家の闇を暴き始める準備が整いました。
知らないことを「それって何?」と聞ける素直さ。これ、現実の世界でも成長する人の共通点ですよね。セーラちゃん、伸びしろしかありません。

次回予告
「算術の時間だぉ! 今日は『借方』と『貸方』についてお話しするね!」 「殿下……この書き方だと、誰がどこでネコババしたか、丸裸になってしまいますわ!」
現代の会計術「複式簿記」を伝授されたセーラ。 彼女が離宮のボロい帳簿にメスを入れた瞬間、長年溜まった「膿」が噴き出す! 「……見つけましたわ。料理長、この肉の仕入れ値、おかしいですわよね?」
次回、第7話「算術の時間」。 離宮の汚職、一掃(クリーニング)開始! お楽しみに! 秘書の暗算が、悪を射抜くぜ!
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