転生オタク王子の近代化無双 〜不便な中世に絶望したので、科学の力で「おもちゃ」を作ってたら世界最強の盟主になっていた〜

来栖とむ

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第5話 六歳の秘密図書館

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1. 魔女の遺産と、オタクの増築
「アルヴィン様……本当に、ここでよろしいのですか? 私はもう、生きた心地がしませんわ……」

震える手で箒(ほうき)を握りしめているのは、忠実なる侍女マーサだ。彼女は離宮の入り口で一歩も動けずにいた。無理もない。ここは六歳児が「お絵描き」をするには少々不気味すぎる。

「大丈夫だよ、マーサ! ほら、このお部屋、本がいっぱいあって素敵だぉ!」

俺が占拠したのは、離宮の最上階にある円形の図書室だ。 
壁一面には、先先代の時代に消えたとされる魔法使いが残した古い本棚が並んでいた。埃(ほこり)を払い、カビを退治してみると、そこには意外な「宝」が眠っていた。

(……おいおい、これマジかよ。魔女さん、あんた最高だな!)

彼女が残した書物は、いわゆる「呪文」ではなく、この世界各地の産物、珍しい動植物の分布、特定の鉱物が取れる地層のスケッチといった、極めて実用的なフィールドノートだった。 
前世の知識という「理論」は持っていても、この世界の「どこに何があるか」というデータに飢えていた俺にとって、これはグーグルマップと資源探査衛星を手に入れたようなものだ。

「よし。魔女さんの本棚の隣に、僕の棚も作ってもらおう」

俺はガリクに発注した精密ヤスリ板を使って(ガリ版で)量産した、自分用の「前世知識ノート」を並べ始めた。

• 農業編: 堆肥の作り方、連作障害回避、害虫図鑑。
• 武器編: 投石機の設計図、滑腔砲(かっこうほう)の基礎概念。
• 数学編: 複式簿記、図学、統計学の基礎。

「……うふふ、うふふふ」 「アルヴィン様、不気味な笑い方はおやめください……」

壁一面を埋め尽くす、俺と魔女の共同ライブラリ。 
使用人たちは、俺が「魔女の部屋で物書きに耽る、少し不気味で大人しい王子」であると認識し、最低限の食事を届けては脱兎のごとく去っていくようになった。

(ラッキー! これで昼夜を問わず、ガリガリ印刷し放題だぜ!)
 
2. 兄上の自慢、王宮の外へ
そんな引きこもり生活を謳歌していたある日、珍客が訪れた。第一王子のエドヴァルトだ。

「アルヴィン、まだそんな陰気な場所に籠もっているのか。たまには外の空気を吸え。今日は王都の教会へ行く。お前も連れていってやろう」

エドヴァルト兄様は、俺を馬車に乗せながら得意げに語った。 
「今日は教会の司教と会うのだ。彼らが我ら王家を、いや、次期国王たるこの私を支持していることを、民衆に見せつけてやらねばならんからな」

(あー、はいはい。いわゆる『権威付け』のパフォーマンスですね。兄様も苦労するなぁ)

俺は兄を立てるため、「わーい、お馬さんだぉ!」と適当に合わせつつ、初めて「王宮の門」を潜った。
 
3. スライムのいない、リアルな中世
馬車の窓から見た王都の景色は、俺が想像していた「キラキラしたファンタジー」とは程遠かった。

「……くさっ」

思わず本音が漏れそうになる。 
石畳の隙間には汚水が溜まり、道端にはゴミが散乱している。 着飾った兄が民衆に手を振る中、俺が見たのは、泥だらけの服を着て、痩せ細った体で重い荷物を運ぶ子供たちの姿だった。

「お兄様、あの子たちは何をしてるの?」 
「あ? ああ、あのような民草(たみぐさ)のことは気にするな。あれが彼らの日常だ。我ら王族の慈悲を受けるために働いているのだよ」

(慈悲……? 違う。あれはただの『効率の悪い過酷な労働』だ)

市場を通りかかった際、俺はさらに驚いた。 
量り売りの穀物は土が混じり、腐りかけた野菜が高値で売られている。商売の記録は棒一本引くだけの原始的なもので、在庫管理も物流の概念もない。

(……なんてこった。王宮の中だけ綺麗に整えて、外はこれかよ)

前世の農学生としての魂が、静かに、だが激しく燃え上がった。 
俺は自分が快適に過ごすために万年筆を作り、紙を漉いた。自分のお尻を守るために衛生を考えた。だが、それはあまりにも「個人的な趣味」に過ぎなかったのだ。

この国を、このまま大国のパワーゲームの駒にしてはいけない。 
俺がこの「呪われた離宮」で蓄えている知識は、いつかこの泥を掃い、子供たちが腹いっぱいパンを食べられるようにするためにあるんじゃないか?
 
4. 決意の再装填(リロード)
王宮に戻った俺は、誰にも見られないように、秘密図書館の奥に一枚の新しい紙を置いた。

そこには、今まで描いてきた「兵器」の図面の隣に、より大きく、より詳細な「上下水道の構想」と「農業改善ネットワーク」の文字を書き込んだ。

「……アルヴィン様? 街から帰ってから、少しお顔つきが険しいようですが」

マーサが心配そうに覗き込む。 
俺は顔を上げ、彼女に最高の、だが少しだけ本気の混じった笑みを向けた。

「マーサ、僕ね、もっともっといっぱい、本を書かなきゃいけないって気づいたんだ。みんながニコニコできるような、魔法の本だよ」

「まあ……。お優しゅうございますこと。本当に、アルヴィン様はお勉強がお好きなのですね」

マーサは安心したように笑った。 
だが、俺は知っている。 
俺の描く設計図一つが、いつかこの国の運命を、そして歴史をひっくり返すことになることを。

「いつか、この知識が必要な日が来る。その時まで、俺は準備をし続ける。……見てろよ、世界。まずはこの国を、俺のオタク知識で魔改造してやるからな」

秘密図書館の窓から見える夕日は、かつてないほど赤く、情熱的に燃えていた。 
転生オタク王子の「本気の国家経営」、その種火が静かに灯った瞬間だった。
 
あとがき
第5話をお読みいただき、ありがとうございます!
引きこもる気満々だったアルヴィン君ですが、初めての「外の世界」で中世の過酷な現実に直面してしまいました。 王宮のキラキラした世界と、泥だらけの街並み。このギャップこそが、彼を「単なるわがまま王子」から「本気の内政チーター」へと変えるきっかけになります。
魔女が残した「実用的な資料」という思わぬ収穫も得て、アルヴィンの秘密基地はもはや一個のシンクタンクですね。
さて、知識は揃った。インフラも考えた。でも、一人でやるのは限界!

次回予告
「あーっ! 誰か俺の計算ミスをチェックしてくれ! 複式簿記の帳尻が合わないんだぉ!」
叫ぶアルヴィンの元に、一人のメイドが配属されます。 彼女の名前はセーラ。 没落貴族の娘であり、「女に算術は不要」と実家を叩き出された、いわば時代の犠牲者。
しかし、彼女は見てしまったのです。 王子の机の上に置かれた、微分積分の走り書きを。 「……殿下。この曲線の接線、計算が甘いのではなくて?」
次回、第6話「メイド・セーラとの出会い」。 最強の秘書、爆誕の瞬間。お楽しみに! 二人の天才が、王宮を数字で支配し始めるぜ!
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