転生オタク王子の近代化無双 〜不便な中世に絶望したので、科学の力で「おもちゃ」を作ってたら世界最強の盟主になっていた〜

来栖とむ

文字の大きさ
4 / 58

第4話 文字を複製する技術

1. 究極の「ヤスリ板」発注
「手書きは限界だぉ……。もっといっぱい、同じのを作りたいんだぉ……」

俺は王宮の自室で、腱鞘炎になりそうな右手を振りながら、前世の記憶を漁った。活版印刷はまだ重すぎる。コピー機なんて論外。

(……やはり、情報の守護神。謄写版(とうしゃばん)——通称、ガリ版だ!)

原理はシンプルだが、問題は「ヤスリ板」だ。ロウを塗った紙を乗せ、その上で鉄筆を走らせるための、極めて細密な溝が彫られた金属板が必要になる。前世のガリ版は、一インチに数百本の溝がある精密なヤスリ板を使っていた。

「マーサ、お抱えの鍛冶職人さんのところに行きたいぉ! 
すごく硬くて、ツルツルで、でも触るとチクチクする板が欲しいの!」 
「ツルツルでチクチク……? アルヴィン様、また難題を……」

困惑するマーサを引き連れ、俺は王宮の工房へ向かった。 
俺が職人に提示した注文はこうだ。
「平らな硬い金属の板に、極限まで細かく、鋭い溝を格子状にびっしりと彫り込んでほしい」。

「王子様、こんな板、何に使うんです? 触れば指が切れますぞ」 「いいの! これでお絵描きをすると、魔法がかかるんだよ!」

職人は首を傾げながらも、数日かけて「悪魔の喉越し」のようなヤスリ板を完成させた。 
俺はその板を撫でて、内心でほくそ笑んだ。

(ふふふ……これだよこれ。今は情報の量産に使うけど、この『精密なヤスリ』という概念自体が、後の金属加工や木工において革命を起こす伏線になるんだが……まあ、それはまだ先の話だな)

まずは、この板で「知恵」を複製するのが先決だ。
 
2. ガリガリという音は、文明の産声
実験は、深夜の王宮の一室で行われた。 
俺は漉き上げた薄い紙に蜜蝋(みつろう)をたっぷりと染み込ませた「原紙」を作成した。 
次に、完成したばかりの「超精密ヤスリ板」の上にその紙を置き、自作の鉄筆を握る。

ガリ……ガリガリ……。

心地よい、ゾクゾクするような感触。鉄筆がロウを削り、ヤスリの突起によって紙に微細な穴を開けていく。

そこに、粘度を高めた特製インクをつけたローラーを転がす。 
網の目(スクリーン)を通ったインクが、削られた穴から下の紙へと押し出される。

パッ、と紙を剥がす。

「……できた! 全く同じ設計図が、もう一枚!」

一枚書けば、あとはローラーを転がすだけで十枚、二十枚と複製できる。 
前世では「コピーボタン」一発だった作業。だが、情報の非対称性が支配するこの世界において、これは「核爆弾」にも等しい情報拡散能力だ。

(これで原本(マスター)は俺の手元に隠しておける。渡すのは複製(写し)だけで済む。……最高かよ。俺の Wiki がどんどんバックアップされていく!)

俺は興奮のあまり、五歳児特有の奇声を上げながら、トレビュシェットの設計図を十枚連続で印刷した。……が、ここでハタと気づく。

(……インクの匂いがきつい。そしてガリガリ音が夜の王宮に響きすぎる!)

王宮の獅子のような過密地帯で、こんな怪しい作業を続けるのは無理だ。侍女たちに「王子様が夜な夜な黒い液体を塗りたくって、ガリガリ鳴らしている」なんて噂を立てられたら、精神鑑定(あるいは除霊)をされかねない。

俺には、誰も来ない「秘密基地」が必要だった。
 
3. 「魔女の籠」との遭遇
「マーサ、お散歩したいぉ! 誰もいない、静かなところに行きたいの!」

翌日、俺は不審な作業場を求めて、マーサを連れ出し王宮の敷地内を歩き回った。 
だが、どこへ行っても衛兵の目が光り、庭師が作業をし、着飾った貴族たちがヒソヒソ話を展開している。

「アルヴィン様、そんなに奥まで行くと森になってしまいますわよ」 「いいの! もっと奥! 誰も来ないところ!」

生い茂る木々をかき分け、道なき道を進むこと数十分。 
不意に、視界が開けた。

そこには、蔦(つた)が血管のように絡まり、建物の形すら曖昧になった古い離宮が静かに佇んでいた。窓硝子は割れ、不気味なほどの静寂が辺りを支配している。

「……あ」

俺は歓喜に震えた。 
情報の量産。化学薬品の調合。そして何より、一人きりの Wiki 編集作業。 
このボロ屋は、俺にとって「最高にエモい秘密基地」に見えた。

「マーサ、ここ! ここが僕のおうちだぉ!」 「……っ!?」

俺が嬉々として離宮を指差すと、後ろにいたマーサの顔が、見たこともないほど真っ青に引き攣っていた。彼女はガタガタと膝を震わせ、一歩後退する。

「あ、アルヴィン様……。よりによって、ここを……。いけません、ここは……ここは『魔女の籠』と呼ばれている呪われた場所なのです……!」
 
4. 呪いという名の最高物件
俺がマーサをなだめすかしつつ聞き出した話は、こうだった。

「先先代の頃のことです。当時の公爵の卑劣な罠によって、ある無実の魔法使いの女性が冤罪で捕らえられたのです。彼女はこの離宮に閉じ込められ、呪いの中で非業の死を遂げるはずでした……。しかし、ある朝、厳重に封印されていたはずの離宮から、彼女の姿だけが煙のように消えていたのです」

マーサの声が震える。

「それ以来、あの離宮には彼女の怨念が渦巻いていると言われています。夜な夜な怪しい光が漏れ、近づいた者は呪いで消えてしまう……。王宮の誰もがあそこを『呪われた地』として忌み嫌い、森に沈むのを待っているのです。アルヴィン様、お願いですから帰りましょう……!」

(冤罪? 消えた魔女? 夜な夜な怪しい光(俺のランタンの灯り)? ……え、それって『誰も絶対に近づかない』っていう最強のセキュリティ付き優良物件じゃないか!)

俺の脳内不動産センサーが、前代未聞の「AAA評価」を叩き出した。 
呪い? 
怨念? 
科学の子である俺にとって、そんなものは除霊(徹底的な清掃と換気)で解決できる誤差に過ぎない。

俺はそのまま父上——グスタフ王の元へ走り、裾をギュッと握りしめた。

「お父様! お願いがあるんだぉ! あの森の中のツタがいっぱいのおうち、僕にちょうだい! あそこでお絵描きして、お兄様たちの邪魔にならないようにするね!」

「……あそこか? アルヴィン、あそこは『魔女の籠』だぞ……?」

父王は俺の言葉に驚きつつも、どこか安心したような、そして憐れむような複雑な表情を浮かべた。

「そうか。お前は……兄たちの王位争いの喧騒から逃れて、そんな呪われた場所で静かに過ごしたいと言うのか。……健気な子だ。あそこなら、確かに誰も近寄らんし、お前の邪魔をする者もいないだろう」

(よっしゃあああああ! 合法的なラボ、ゲットだぜ!)

父上は、俺が「王位に興味がなく、隠遁を望んでいる」と勘違いして、快く許可をくれた。 
こうして、俺は王宮の喧騒から離れ、秘密の「情報の量産拠点」を手に入れた。

「魔女さん、もし本当にいるなら、一緒にWikiの編集でもしようぜ」

俺は誰もいない虚空に向かって笑い、最初の一枚をガリ版にセットした。 
転生王子の「秘密基地ライフ」、ここに爆誕である。
 
あとがき
第4話をお読みいただき、ありがとうございます!
「情報の量産」という、地味ながらも最強の革命が始まりました。そして今回、ガリ版のために作らせた「精密なヤスリ板」。これが将来、どうやって中世の製造業をボコボコにする「伏線」になるのか、どうぞニヤニヤしながら見守ってください。
そして、手に入れたのは「呪われた離宮」。 「呪い? 誰も来ない? 最高じゃん!」と即答するアルヴィン君、オタクの鑑ですね。一方、青ざめて白目を剥きかけているマーサさんには、後でいい石鹸でもプレゼントしてあげてほしいものです。
お尻の平和の次は、いよいよ「情報の独占と拡散」へと進んでいきますよ!

次回予告
「一人でガリガリするのは、さすがに腕が筋肉痛だぉ……。優秀な右腕(奴隷)が欲しいぉ!」
秘密基地を整えるアルヴィンの元に、一人の少女が配属されます。 「女が数字を学んで何になる」と実家から追放された、悲劇の令嬢・セーラ。
しかし、彼女の瞳は死んでいなかった! 王子の描いた「複式簿記」のメモを見た瞬間、彼女の脳内CPUがオーバーヒートを起こす!? 「……殿下、この数字の帳尻、一ミルの狂いもなく合っていますわ……!」
次回、第5話「六歳の秘密図書館」。 最強の秘書が誕生する瞬間、絶対に見逃すな! ガリガリ音が、二人の運命を刻み始めるぜ!
感想 2

あなたにおすすめの小説

定年退職後、異世界で「渋すぎる魔法使い」として余生を送ろうと思ったら、なぜか王国の相談役になっていた件

来栖とむ
ファンタジー
今度の主人公は定年退職をした元エリート商社員。 「タブレット」を片手に、クールで可愛い自動人形(オートマタ)のマユと一緒に異世界のトラブル(バグ)を解決していく、ちょっと大人なファンタジー。 お仕事終わりのリラックスタイムや、ちょっとしたスキマ時間にぜひ覗きに来てくださいね! あらすじ抜粋 四十年間、世界を股にかけ戦い抜いた商社マン・岩本道雄。 彼が定年後にたどり着いたのは、未開の地ではなく「不具合(バグ)」だらけの異世界だった。 「呪い? いえ、これはただの入力ミスです」 魔法の杖の代わりに最新端末『デバッガー』を掲げ、老紳士は今日もロジックで世界を最適化していく。 伝説の賢者と勘違いされながらも、渋すぎる「余生(ビジネス)」が今、幕を開ける――。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について

青の雀
恋愛
ある冬の寒い日、公爵邸の門前に一人の女の子が捨てられていました。その女の子はなぜか黄金のおくるみに包まれていたのです。 公爵夫妻に娘がいなかったこともあり、本当の娘として大切に育てられてきました。年頃になり聖女認定されたので、王太子殿下の婚約者として内定されました。 ライバル公爵令嬢から、孤児だと暴かれたおかげで婚約破棄されてしまいます。 怒った女神は、養母のいる領地以外をすべて氷の国に変えてしまいます。 慌てた王国は、女神の怒りを収めようとあれやこれや手を尽くしますが、すべて裏目に出て滅びの道まっしぐらとなります。 というお話にする予定です。

【概念剥奪】でポイ捨て無双。~最弱の収納スキルが覚醒したので、聖剣も魔王もゴミ箱に捨てて伝説の竜姫とスローライフ~

寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
ファンタジー
「収納しかできない無能な荷物持ちなど、我がパーティーには不要だ。消えろ、ゴミめ」 勇者パーティーの仲間だと思っていた奴らから突きつけられたのは、冷酷な追放宣告だった。 俺の持つスキルは、物を出し入れするだけの最弱スキル《収納》。 だが、死の淵でその真の力が覚醒する。 それは、物質だけでなく、この世のあらゆる事象を収める――【概念剥奪】。 「……悪いな。お前たちの『才能』も『聖剣』も、全部俺がポイ捨て(収納)しちゃったよ」 奪った概念は自由自在。 魔王の絶大な魔力も、勇者の無敵の加護も、俺の前ではただの不用品。 すべてを奪い取り、俺は辺境の地で伝説の竜姫と悠々自適なスローライフを始めることにした。 一方で、最強の荷物持ちを失った元パーティーは、装備もスキルも枯渇して破滅の道を突き進む。 「頼む、戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう手遅れだ。 俺の収納スペースに、お前たちの居場所なんてこれっぽっちも残っていないんだから。 これは、世界に捨てられた男が、世界そのものを収納して無双する逆転劇。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位 転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。