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地元警察への説明を岡本に任せ、安藤は花巻と共に車に戻った。ドアを閉めると、花巻は急に真剣な表情になって話し始めた。
「安藤さん、さっきは言えませんでしたが、この模様は正確にはトリスケルとは違います。トリスケルが魔法陣の元になったという説もありますから、全く関係ないとは言えませんが……」
花巻はタブレットを手に、さっき撮影した指輪の写真を示しながら続けた。
「これは模様の一部が閉じているんです。それも二重に閉じてある溝の間に、細かな文様が彫られています。これは魔力蓄積と多分ですが発信の術式です」
「魔力蓄積と……発信ですか?」
「詳しく調べてみないと確実なことは言えませんが、これは魔法陣を仕込んだ指輪で、おそらく守護か魔法操作の目的で作られたと思われます。今は使われていない古い術式ですが、側面や輪の内側にも丁寧に文様が刻まれていますから、製作者の強い思いが込められているのでしょう。きっと、大切な人のために作られたものですね」
安藤は困惑していた。この仕事について10年以上経つ。確かにそういった話には慣れてはきているが、魔法だの術式だのといった言葉が出てくると、自分の常識の範囲を完全に超えてしまう。
「術式や箱の留め具の装飾から、誰が作って誰に贈られたものかがわかるかもしれませんが、古いものですから時間がかかるでしょう」
「先生、時間がかかってもいいから、調べてもらえますか。私はあの辺り一帯の調査を進めなければなりませんし、石板の行方も追わなければなりませんから」
安藤は不安を隠し切れなかった。消えた石板には明らかに門に関する記述があった。門の秘密を知る者はそう多くないはずだが、万が一この情報が把握していない新たな門の在り処を示すものなら、大変な事態になる。
「そういえば石板の言葉ですが、『島』が複数形で書かれていました。つまり『島々』ということです」
花巻の指摘に安藤は身を乗り出した。
「それはどちらの島のことですか?」
「両方です。ですから門は小さな島が集まったところにあり、到着した島はそれより南の方角で、少し大きな島がいくつかあったところということになります」
「その島は……対馬の可能性もあるということですか?」
「多分違うでしょうね。対馬は確かに島ですが、この文字の表す島はもっと小さい島のことです。それに対馬の門はすでに封鎖されていますよ」
「波間に日の照る島……」
安藤はその言葉に何か引っかかりを感じていた。どこかで聞いたような、懐かしいような……。
「それと、安藤さんならもうお気づきと思いますが、あの辺り一帯は早めに国が買い上げて封鎖した方がいいでしょう。きっとまだ出ますよ」
「そうするよう強く要望します。ところで先生は、何が出ると思われますか?」
「非常に珍しい石と、あちらに繋がる何かですね」
「珍しい石?」
花巻は写真を見つめながら答えた。
「ええ、あの石板はオリハルコンの原石でできていたんじゃないかと僕は思っています。この写真の欠けた部分がぼんやりと青みがかっているでしょう? オリハルコンの原石は、うっすらとした青みを帯びた結晶が集まってできているんです」
「オリハルコンですか……まるでおとぎ話のような」
「いえ、そうではありません。日本にも残されていますよ」
「日本に?」
安藤は驚いた。オリハルコンといえばアトランティス伝説に出てくる幻の金属というイメージしかなかった。
「ええ、古代の日本の支配者に、アダマンタイトの剣、ミスリルの鏡、そしてオリハルコンの玉の三種類の宝が贈られたという記述が残っています」
「それは……三種の神器のことですか?」
「私はそう思っています。だから、一般公開ができない。これらの鉱物はこちらの世界では産出しないと聞きますが、あちらではまれに採れるんです。昔から私たちの世界では、大切な碑文をオリハルコンの原石に刻んで祀る習慣があったといいます。私は、今回の石板もその例に習って残されたものじゃないかと思います」
「じゃあ、先生はこの盗難事件をオリハルコン狙いだと考えているということですか?」
「それはわかりませんが、その線も捨てがたいと思っています。それに……」
「それに?」
花巻は少し躊躇してから続けた。
「古い言い伝えですが、私たちの世界にはオリハルコンの結晶を使った強力な武器の話が残されているんです」
「オリハルコンの武器……それは剣か何かですか?」
「いえ、そう……なんというかこちらの世界でいうレーザー兵器みたいなものです」
「レーザー兵器ですか」
「ええ、安藤さんはご存知ありませんか? こちらの世界でも、二千年以上前にそれに似た話が残されていますよ」
「そんなに古い話で……って、先生、それは『十戒』、いえ『聖櫃(アーク)』のことですか?」
花巻は頷いた。
「ええ、『十戒』は青色の石板に刻まれていたという話を聞いたことはありませんか? そして、それは二組あり、一組は砕かれてしまったが、それを収めた箱、聖櫃から激しい光が出て周りを焼き尽くしたという話を」
「ええ、なんとなく記憶にありますが、単なる作り話だと思っていました」
「もちろん単なる絵空事かもしれませんが、どちらの世界でも同じような話が残されていることが気になります……それに」
「それに?」
「聖櫃の形って上に羽を広げた鳥のような飾りがついて2本の棒が取り付けられている……それがもし何らかの装置や砲身のことだったとしたら」
花巻の表情は真剣そのものだった。
「もし、聖櫃が強力な古代兵器だとしたら……大変なことです」
安藤は車の窓から外を眺めた。雨はほとんど止んでいるが、空はまだ重い雲に覆われている。石板の行方、謎の指輪、そしてオリハルコンの武器。
空を見上げながら安藤は重いため息を吐いた。
「安藤さん、さっきは言えませんでしたが、この模様は正確にはトリスケルとは違います。トリスケルが魔法陣の元になったという説もありますから、全く関係ないとは言えませんが……」
花巻はタブレットを手に、さっき撮影した指輪の写真を示しながら続けた。
「これは模様の一部が閉じているんです。それも二重に閉じてある溝の間に、細かな文様が彫られています。これは魔力蓄積と多分ですが発信の術式です」
「魔力蓄積と……発信ですか?」
「詳しく調べてみないと確実なことは言えませんが、これは魔法陣を仕込んだ指輪で、おそらく守護か魔法操作の目的で作られたと思われます。今は使われていない古い術式ですが、側面や輪の内側にも丁寧に文様が刻まれていますから、製作者の強い思いが込められているのでしょう。きっと、大切な人のために作られたものですね」
安藤は困惑していた。この仕事について10年以上経つ。確かにそういった話には慣れてはきているが、魔法だの術式だのといった言葉が出てくると、自分の常識の範囲を完全に超えてしまう。
「術式や箱の留め具の装飾から、誰が作って誰に贈られたものかがわかるかもしれませんが、古いものですから時間がかかるでしょう」
「先生、時間がかかってもいいから、調べてもらえますか。私はあの辺り一帯の調査を進めなければなりませんし、石板の行方も追わなければなりませんから」
安藤は不安を隠し切れなかった。消えた石板には明らかに門に関する記述があった。門の秘密を知る者はそう多くないはずだが、万が一この情報が把握していない新たな門の在り処を示すものなら、大変な事態になる。
「そういえば石板の言葉ですが、『島』が複数形で書かれていました。つまり『島々』ということです」
花巻の指摘に安藤は身を乗り出した。
「それはどちらの島のことですか?」
「両方です。ですから門は小さな島が集まったところにあり、到着した島はそれより南の方角で、少し大きな島がいくつかあったところということになります」
「その島は……対馬の可能性もあるということですか?」
「多分違うでしょうね。対馬は確かに島ですが、この文字の表す島はもっと小さい島のことです。それに対馬の門はすでに封鎖されていますよ」
「波間に日の照る島……」
安藤はその言葉に何か引っかかりを感じていた。どこかで聞いたような、懐かしいような……。
「それと、安藤さんならもうお気づきと思いますが、あの辺り一帯は早めに国が買い上げて封鎖した方がいいでしょう。きっとまだ出ますよ」
「そうするよう強く要望します。ところで先生は、何が出ると思われますか?」
「非常に珍しい石と、あちらに繋がる何かですね」
「珍しい石?」
花巻は写真を見つめながら答えた。
「ええ、あの石板はオリハルコンの原石でできていたんじゃないかと僕は思っています。この写真の欠けた部分がぼんやりと青みがかっているでしょう? オリハルコンの原石は、うっすらとした青みを帯びた結晶が集まってできているんです」
「オリハルコンですか……まるでおとぎ話のような」
「いえ、そうではありません。日本にも残されていますよ」
「日本に?」
安藤は驚いた。オリハルコンといえばアトランティス伝説に出てくる幻の金属というイメージしかなかった。
「ええ、古代の日本の支配者に、アダマンタイトの剣、ミスリルの鏡、そしてオリハルコンの玉の三種類の宝が贈られたという記述が残っています」
「それは……三種の神器のことですか?」
「私はそう思っています。だから、一般公開ができない。これらの鉱物はこちらの世界では産出しないと聞きますが、あちらではまれに採れるんです。昔から私たちの世界では、大切な碑文をオリハルコンの原石に刻んで祀る習慣があったといいます。私は、今回の石板もその例に習って残されたものじゃないかと思います」
「じゃあ、先生はこの盗難事件をオリハルコン狙いだと考えているということですか?」
「それはわかりませんが、その線も捨てがたいと思っています。それに……」
「それに?」
花巻は少し躊躇してから続けた。
「古い言い伝えですが、私たちの世界にはオリハルコンの結晶を使った強力な武器の話が残されているんです」
「オリハルコンの武器……それは剣か何かですか?」
「いえ、そう……なんというかこちらの世界でいうレーザー兵器みたいなものです」
「レーザー兵器ですか」
「ええ、安藤さんはご存知ありませんか? こちらの世界でも、二千年以上前にそれに似た話が残されていますよ」
「そんなに古い話で……って、先生、それは『十戒』、いえ『聖櫃(アーク)』のことですか?」
花巻は頷いた。
「ええ、『十戒』は青色の石板に刻まれていたという話を聞いたことはありませんか? そして、それは二組あり、一組は砕かれてしまったが、それを収めた箱、聖櫃から激しい光が出て周りを焼き尽くしたという話を」
「ええ、なんとなく記憶にありますが、単なる作り話だと思っていました」
「もちろん単なる絵空事かもしれませんが、どちらの世界でも同じような話が残されていることが気になります……それに」
「それに?」
「聖櫃の形って上に羽を広げた鳥のような飾りがついて2本の棒が取り付けられている……それがもし何らかの装置や砲身のことだったとしたら」
花巻の表情は真剣そのものだった。
「もし、聖櫃が強力な古代兵器だとしたら……大変なことです」
安藤は車の窓から外を眺めた。雨はほとんど止んでいるが、空はまだ重い雲に覆われている。石板の行方、謎の指輪、そしてオリハルコンの武器。
空を見上げながら安藤は重いため息を吐いた。
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