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「今回で七十六日連続であの海域を調査したとなると、やはり何か特別の意図を持って来ていることは間違いありません」
有吉統合幕僚副長の執務室で、吉澤は今朝の報告を詳しく説明していた。壁には東シナ海の詳細な海図が掛けられ、問題の海域には赤いピンが多数刺されている。
「まずいな。こりゃあ、確実に掴まれたな」
つぶやいた有吉の顔がますます険しくなる。その目は、今朝もたらされた一枚の写真を見つめていた。
写真にはC国の調査船『海龍号』が写っている。問題は、その艦から水中に伸びているワイヤーだった。船体に備えられたワイヤー接続部は、E国製ROV搭載艦のそれに酷似している。まだ推測の域を出るものではないが、このワイヤーの先には遠隔操作型の水中無人探査機が繋がれているに違いない。
また、甲板には潜水服を着た人影も確認できる。これらの装備から考えて、目的は明らかだった。
「君にはそろそろ話さなければならないかもしれませんね。ここから先の話は、特秘事項になります。政府の要人でさえほとんど知らないはずですが……それを聞く覚悟はありますか?一度聞いたら後には戻れませんよ?」
吉澤は有吉をしばらく見つめると、強く頷いた。
「荒唐無稽な話に聞こえるかもしれませんが……まずはこれを見ていただきましょう。十九世紀後半の記録ですが」
有吉は机の引き出しから古い書類を取り出した。
「尖閣諸島に住み着いて漁をしていた漁業者が、島に打ち上げられた謎の生物の死体を確認したという記録です。腐敗が進んでいたためすぐに沖に捨てられましたが、当時の記録を見ると、恐竜の死体であったと証言した漁民がいたことが記されています」
吉澤は書類を受け取り、目を通した。確かに、現在の常識では説明のつかない生物の記述が残されている。
「当時、政府と皇室関係者の一部には、『門』というものの存在はすでに知られており、尖閣諸島周辺にも門があるのではないかと推測されました。しかし、現在に至るまで表立った調査は行われていません」
それから続く有吉の説明に、吉澤は背筋が寒くなるのを感じた。『門』……それは異世界へと通じる入口のことだった。一般には知らされていないが、政府関係者の一部には、世界各地にそうした門が存在することが知られているのだそうだ。
「しかし、あの国に先を越されてしまうとは……なぜもっと早く動けないんだ。うちのお偉方は」
一通り話し終えた有吉は苛立ちを隠さず言葉にした。実は有吉は以前から何度も尖閣諸島周辺海域の調査を具申していたが、その度にC国との関係悪化を危惧する政権によって却下されてきたのだ。
「今回のC国の動きからは、まだ門であれ、資源であれ、何も見つかっていないのではないかと推測されるのですが……」
吉澤は続けて報告した。
「ん、何だ?」
「それが、同時刻に近海でC国の大型漁船の姿も複数確認されているとの情報も上がってきておりまして……」
「偽装漁船を使って、潮流データから予想される地域を隈なく調査しているといった感じか」
有吉は地図を見ながら答えた。確かに、漁船に偽装した調査船であれば、より広範囲での調査が可能になる。
「はい。それに加え、今後新たに多数の艦がこの調査に投入される可能性があるとの情報も上がってきておりますので、調査活動が続けば、近いうちに特定されてしまうのではないかと思われます」
「南沙諸島での動きといい、やはりC国は新たな門の確保に動いていると見て間違いないだろう。いや、すでに特定された可能性も否定できんな」
門は世界各地に存在している。鬼や妖怪、怪物などにまつわる伝承のある地には、必ずといっていいほど門がある。ただ、どの国もその存在を隠している。
それは門が異世界へと通じているからだけでなく、門を通して異世界から得られる未知のテクノロジーや希少金属などの資源に計り知れない価値があることが近年わかったからだ。
アダマンタイト、ミスリル、オリハルコン……これらの金属は地球上では産出されず、異世界からしか入手できない。そして、これらの金属を使った技術は、現在の科学技術を遥かに凌駕する可能性を秘めている。
その結果、世界中が門の確保に乗り出すことになった。表向きは平和的な調査活動ということになっているが、実際には各国が熾烈な競争を繰り広げている。
「特にC国は問題です」
有吉は別の書類を取り出しながら続けた。
「近年になって内陸部にある門を確保するため、先住民を武力によって弾圧した挙句、門を無理やり拡張しようとして崩落させています。我々が得ている情報では、C国の門はあと三箇所しかないはずです」
「三箇所……それは少ないのですか?」
「ええ、そのうちの一つはヒマラヤにあり、隣国と国境を巡って揉めているため、事実上使うことができません。だから、海にある門を確保しようと動いていると推測されます」
吉澤は地図上の赤いピンを見つめた。この海域の下に、本当に異世界への門があるのだろうか。そして、C国がその門を見つけてしまったら……。
「しかし舐められたものです。こうも堂々と領海内に入ってくるとは」
有吉はそう言うと受話器を取り、秘書官へ連絡をした。
「至急総理に会いたいと伝えてくれ」
有吉統合幕僚副長の執務室で、吉澤は今朝の報告を詳しく説明していた。壁には東シナ海の詳細な海図が掛けられ、問題の海域には赤いピンが多数刺されている。
「まずいな。こりゃあ、確実に掴まれたな」
つぶやいた有吉の顔がますます険しくなる。その目は、今朝もたらされた一枚の写真を見つめていた。
写真にはC国の調査船『海龍号』が写っている。問題は、その艦から水中に伸びているワイヤーだった。船体に備えられたワイヤー接続部は、E国製ROV搭載艦のそれに酷似している。まだ推測の域を出るものではないが、このワイヤーの先には遠隔操作型の水中無人探査機が繋がれているに違いない。
また、甲板には潜水服を着た人影も確認できる。これらの装備から考えて、目的は明らかだった。
「君にはそろそろ話さなければならないかもしれませんね。ここから先の話は、特秘事項になります。政府の要人でさえほとんど知らないはずですが……それを聞く覚悟はありますか?一度聞いたら後には戻れませんよ?」
吉澤は有吉をしばらく見つめると、強く頷いた。
「荒唐無稽な話に聞こえるかもしれませんが……まずはこれを見ていただきましょう。十九世紀後半の記録ですが」
有吉は机の引き出しから古い書類を取り出した。
「尖閣諸島に住み着いて漁をしていた漁業者が、島に打ち上げられた謎の生物の死体を確認したという記録です。腐敗が進んでいたためすぐに沖に捨てられましたが、当時の記録を見ると、恐竜の死体であったと証言した漁民がいたことが記されています」
吉澤は書類を受け取り、目を通した。確かに、現在の常識では説明のつかない生物の記述が残されている。
「当時、政府と皇室関係者の一部には、『門』というものの存在はすでに知られており、尖閣諸島周辺にも門があるのではないかと推測されました。しかし、現在に至るまで表立った調査は行われていません」
それから続く有吉の説明に、吉澤は背筋が寒くなるのを感じた。『門』……それは異世界へと通じる入口のことだった。一般には知らされていないが、政府関係者の一部には、世界各地にそうした門が存在することが知られているのだそうだ。
「しかし、あの国に先を越されてしまうとは……なぜもっと早く動けないんだ。うちのお偉方は」
一通り話し終えた有吉は苛立ちを隠さず言葉にした。実は有吉は以前から何度も尖閣諸島周辺海域の調査を具申していたが、その度にC国との関係悪化を危惧する政権によって却下されてきたのだ。
「今回のC国の動きからは、まだ門であれ、資源であれ、何も見つかっていないのではないかと推測されるのですが……」
吉澤は続けて報告した。
「ん、何だ?」
「それが、同時刻に近海でC国の大型漁船の姿も複数確認されているとの情報も上がってきておりまして……」
「偽装漁船を使って、潮流データから予想される地域を隈なく調査しているといった感じか」
有吉は地図を見ながら答えた。確かに、漁船に偽装した調査船であれば、より広範囲での調査が可能になる。
「はい。それに加え、今後新たに多数の艦がこの調査に投入される可能性があるとの情報も上がってきておりますので、調査活動が続けば、近いうちに特定されてしまうのではないかと思われます」
「南沙諸島での動きといい、やはりC国は新たな門の確保に動いていると見て間違いないだろう。いや、すでに特定された可能性も否定できんな」
門は世界各地に存在している。鬼や妖怪、怪物などにまつわる伝承のある地には、必ずといっていいほど門がある。ただ、どの国もその存在を隠している。
それは門が異世界へと通じているからだけでなく、門を通して異世界から得られる未知のテクノロジーや希少金属などの資源に計り知れない価値があることが近年わかったからだ。
アダマンタイト、ミスリル、オリハルコン……これらの金属は地球上では産出されず、異世界からしか入手できない。そして、これらの金属を使った技術は、現在の科学技術を遥かに凌駕する可能性を秘めている。
その結果、世界中が門の確保に乗り出すことになった。表向きは平和的な調査活動ということになっているが、実際には各国が熾烈な競争を繰り広げている。
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