アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ

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 花巻たちを乗せた白いハイエースは、中央自動車道を順調に進んでいた。計三台のハイエースと二台のトラックが車列を組んで同行している。どの車にも「山田建設」と書かれた文字があり、誰が見ても建設工事などに向かう車両にしか見えないように偽装してある。
 花巻は助手席で車窓を眺めていた。東京を出てから二時間ほど、高速道路の景色は都市部から徐々に山間部へと変わっていく。
「久しぶりの山梨ですね」
 運転席の自衛隊員が話しかけてきた。
「ええ、東堂さんの時以来かもしれません」
 花巻は懐かしそうに答えた。確かに、この辺りには何度か調査で来たことがある。古い伝承や遺跡が多く残る地域で、門に関連する場所も少なくない。
 左手に相模湖が見えてくると、花巻は小さくつぶやいた。
「懐かしいな……」
 後部座席では、各省庁から派遣された職員たちが資料に目を通している。外務省の田中、財務省の佐藤、国土交通省の山本。それぞれが専門分野のエキスパートだが、今回のような任務は初めての経験だろう。緊張している様子が伝わってくる。
 やがて車は上野原インターチェンジで高速道路を降り、山に向かって進路を変えた。道は次第に細くなり、周囲の風景も深い山間部のそれに変わっていく。

 しばらく進むと、木立の向こうにヘリポートらしき施設が見えてきた。
「こんなところにヘリポートがあるんだ」
 田中が驚いた声を上げると、鮎川が振り返って説明した。
「急患用のヘリポートですが、もちろんそれだけの理由で作られたわけではありません。もっとも、今までこちらの用途に使われたことはありませんが、これからは頻繁に使わないといけなくなるかもしれません」
 鮎川の言葉には、どこか重いものが込められていた。今回の任務が成功すれば、アガルタとの本格的な交流が始まる可能性がある。そうなれば、この施設の重要性も格段に上がることになるだろう。
 車はさらに奥へ進み、やがて小さな集落の手前で左に曲がった。舗装はされているものの、かなり狭い道だ。対向車が来たら、すれ違うのも困難そうな幅しかない。
 山の斜面に沿って道は続き、しばらく進むと前方にフェンスが見えてきた。フェンスの前には作業員らしい人影が立っている。車の中からでも、どこからか滝の音が聞こえていた。
 先頭の車が停止し、鮎川が降りて作業員と短い会話を交わした。すぐにフェンスが開かれ、車列は再び進み始める。
「お疲れさまです。もうすぐですよ」
 車に戻った鮎川は、笑顔でそう告げた。しかし、その笑顔の奥には緊張が隠されているように花巻には見えた。

 道の先にはトンネルがあった。コンクリート製の立派な構造物で、明らかに最近建設されたものだとわかる。
「これはリニアのための坑道ですか?」
 財務省の佐藤がつぶやくと、国土交通省の山本が答えた。
「一般にはそうなっていますが、事実はそうではありません。ここにある門はまだ生きています。そのための施設を作る口実で、ここにリニアのための試験坑道を作ったということです」
「なるほどね」
 外務省の田中が相槌を打った。
「この辺りって、確か昔からピラミッドパワーがあるとか言われる場所ですよね?」
「ええ、昔からいろいろな言い伝えのある場所です」
 山本は詳しそうに説明を続けた。
「さっきの滝も『王見の滝』という名前がついています。他にも近くには九鬼山、サイマル山、雛鶴神社など、思えばそれっぽい名前がありすぎますよ」
 花巻は興味深そうに聞いていた。確かに、門の近くには古くから不思議な伝承が残る場所が多い。偶然ではないのだろう。
「九鬼山はわかりますが、サイマル山や雛鶴神社が異世界とどう関係してるんですか?」
 田中が質問した。
「ええ、もちろんサイマルは現在使われている放送用語や工業用語のものとは違う意味です」
 山本は説明を続けた。
「ラテン語のsimul、つまり『同時に』が語源であり、古代ローマ時代には、複数の出来事が同時に起こることを記述するために使われていたと考えられています。例えば、古代の天文学者や歴史家が、異なる世界で起こる現象や出来事を同時に記録する際に、この概念を用いていたようです」

「そして雛鶴は、古来、身分の高い家の姫のことを表しています」
 山本は歴史にも詳しいらしく、流暢に説明を続けた。
「言い伝えでは、鎌倉時代、護良親王が殺害されると、親王の御子を身ごもっていた雛鶴姫は、討たれた首を葬らねばと、首を抱いて鎌倉を抜け出しましたが、山越えの途中でとうとう倒れてしまい、御子とともに命を落としたとされています。そして、残された家臣がこの地に留まって三人の供養をしたとのことです」
 車内の全員が聞き入っている。
「ですが、その三人の身なりが、当時の侍の姿とは違っていたという話も残されているんですよ」
「それって……」
 田中が言いかけて止まった。
「ええ、私たちはそう考えています」
 山本の言葉に、車内に沈黙が広がった。歴史の裏に隠された真実。それは、現在進行している出来事と深く関わっているのかもしれない。
 やがて車はトンネルの奥で停車した。さらにその奥には重厚な鉄の扉があり、厳重に管理されていることがわかる。
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