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鉄の扉をくぐると、岩盤の一部が横に掘られた通路が続いていた。自然の洞窟ではなく、明らかに人工的に作られた空間だ。照明も完備され、現代的な設備が整っている。
その先の扉を抜けると、一行の目の前に明るく近代的な室内が広がった。まるで研究所のような清潔で機能的な空間で、山の奥にこんな施設があるとは誰も想像できないだろう。
鮎川が振り返って説明を始めた。
「今回の訪問団の皆さん。皆さんはこの施設で、あさっての開門時間まで過ごしていただきます」
施設内は思った以上に広く、宿泊設備も整っているようだ。
「皆さんはすでに一定の知識をお持ちと思いますが、この施設で過ごす間、あちらの文化や言語、風習、また今後の行動等について、詳細にわたって確認を行います。時間がありませんから、そのつもりでお願いします」
鮎川の言葉に、一同は身を引き締めた。これから始まる講習が、任務の成否を左右することになるかもしれない。
到着後すぐに始まった講義と演習は、かなり密度の濃いものだった。一応の基礎知識を持った者ばかりが集まってはいたが、実際に異世界の住人から直接話を聞くのは初めての経験だ。
講義室に入ると、前方に一人の女性が立っていた。見た目はまるで高校生のようにも見える若々しい外見だが、その佇まいには確かな威厳があった。
鮎川に紹介されると、彼女はまっすぐ前に立ち、きりりとした声で自己紹介を始めた。
「私はサミュエラ・ラグナリア、サミアと呼んでいただけるとありがたいです。ちなみに、こちらの世界では花巻美佐江と呼ばれています」
花巻の妹、美佐江だった。兄とは異なる、より異世界的な雰囲気を持っている。
「私はアガルタで生まれ育ちました。今回は、確認させていただいたところ、皆さんはすでに体内にマナをお持ちであるとのことですので、魔法についてお話しします」
その声は見た目と違い、落ち着きを帯びており、教壇に立った彼女の背後に浮かび上がる図形や数式は、明らかに科学的なものだった。
「まず最初に覚えておいてほしいのは」
サミアは全員を見回しながら続けた。
「魔法は、決して曖昧な奇跡なんかじゃないということです」
サミアは指を鳴らすと、講堂の中央にふわりと青白い光の球体を出現させた。訪問団の全員が息を呑んだ。
「この現象は、私の体内にあるナノマシン『マナ』が、周囲のマナに働きかけて起こしているものです。魔法とは、意思を持って微細機械を操る高度な科学反応。念じただけで火を灯す、風を起こす、それには明確なメカニズムがあるのです。この現象も、マナによる極小のドローンショーとでも思っていただければわかりやすいかもしれません」
彼女は続けて、ホログラムのような立体映像を浮かべた。複雑な分子構造のような図形が、空中でゆっくりと回転している。
「マナは、人の脳の電気信号、つまり意思を読み取り、それをネットワークで近隣のマナに伝える。そして、その命令内容によって様々な現象を生み出します」
訪問団のメンバーは皆、食い入るように説明を聞いている。
「だからこそ、たとえば燃えるもののない場所では、火を生み出すことはできません。素材がなければ、ナノマシンは反応できないからです」
「でも、こういうことはできます」
サミアは小さく笑みを浮かべると、講堂の端に座っていた財務省の佐藤の前に手をかざした。
すると、佐藤の目の前に炎が現れた。
「ひっ……! あ、熱く……ない?」
佐藤は驚いて身を引いたが、すぐに炎に熱さを感じないことに気づいた。
「これは、あなたの体内のマナに直接命令して、視覚だけに『炎がある』という情報を書き加えたのです。つまり、錯覚を操作したということです」
一同が言葉を失う中、サミアは静かに続けた。
「魔法とは、意志による現象制御。そして、その第一歩は、自分のマナを完全に制御することです」
外務省の田中が眼鏡を直しながら質問した。
「俗に言う魔力を練るというやつですか?」
「そうですね。そう言った感じの表現の方が分かりやすい方もおられるかもしれません」
サミアは頷いた。
「まずは自分のマナを自分の意思で練り上げ、集束させること。次に、自分のマナを、周囲のマナ群のアルファ、つまり指揮官とすること。そして最後に、マナに命令を出すことです。そのためには、どんな命令をすれば、どんな物理現象が起きるのかを、科学的に理解しておく必要があります」
サミアが手を前に出すと、今度は手のひらに水が溜まり始めた。
「水の生成も同様です。空気中の水分を集めて凝縮させているだけ。決して無から有を生み出しているわけではありません。空気中にある水蒸気を一箇所に集めるようマナに働きかけたことによるものです。ですから物理法則に反する現象は魔法であっても起きないのです。例えば、アニメの魔法使いがやるような、大きな水の塊を空に浮かべるとかいったようなことは不可能です」
その先の扉を抜けると、一行の目の前に明るく近代的な室内が広がった。まるで研究所のような清潔で機能的な空間で、山の奥にこんな施設があるとは誰も想像できないだろう。
鮎川が振り返って説明を始めた。
「今回の訪問団の皆さん。皆さんはこの施設で、あさっての開門時間まで過ごしていただきます」
施設内は思った以上に広く、宿泊設備も整っているようだ。
「皆さんはすでに一定の知識をお持ちと思いますが、この施設で過ごす間、あちらの文化や言語、風習、また今後の行動等について、詳細にわたって確認を行います。時間がありませんから、そのつもりでお願いします」
鮎川の言葉に、一同は身を引き締めた。これから始まる講習が、任務の成否を左右することになるかもしれない。
到着後すぐに始まった講義と演習は、かなり密度の濃いものだった。一応の基礎知識を持った者ばかりが集まってはいたが、実際に異世界の住人から直接話を聞くのは初めての経験だ。
講義室に入ると、前方に一人の女性が立っていた。見た目はまるで高校生のようにも見える若々しい外見だが、その佇まいには確かな威厳があった。
鮎川に紹介されると、彼女はまっすぐ前に立ち、きりりとした声で自己紹介を始めた。
「私はサミュエラ・ラグナリア、サミアと呼んでいただけるとありがたいです。ちなみに、こちらの世界では花巻美佐江と呼ばれています」
花巻の妹、美佐江だった。兄とは異なる、より異世界的な雰囲気を持っている。
「私はアガルタで生まれ育ちました。今回は、確認させていただいたところ、皆さんはすでに体内にマナをお持ちであるとのことですので、魔法についてお話しします」
その声は見た目と違い、落ち着きを帯びており、教壇に立った彼女の背後に浮かび上がる図形や数式は、明らかに科学的なものだった。
「まず最初に覚えておいてほしいのは」
サミアは全員を見回しながら続けた。
「魔法は、決して曖昧な奇跡なんかじゃないということです」
サミアは指を鳴らすと、講堂の中央にふわりと青白い光の球体を出現させた。訪問団の全員が息を呑んだ。
「この現象は、私の体内にあるナノマシン『マナ』が、周囲のマナに働きかけて起こしているものです。魔法とは、意思を持って微細機械を操る高度な科学反応。念じただけで火を灯す、風を起こす、それには明確なメカニズムがあるのです。この現象も、マナによる極小のドローンショーとでも思っていただければわかりやすいかもしれません」
彼女は続けて、ホログラムのような立体映像を浮かべた。複雑な分子構造のような図形が、空中でゆっくりと回転している。
「マナは、人の脳の電気信号、つまり意思を読み取り、それをネットワークで近隣のマナに伝える。そして、その命令内容によって様々な現象を生み出します」
訪問団のメンバーは皆、食い入るように説明を聞いている。
「だからこそ、たとえば燃えるもののない場所では、火を生み出すことはできません。素材がなければ、ナノマシンは反応できないからです」
「でも、こういうことはできます」
サミアは小さく笑みを浮かべると、講堂の端に座っていた財務省の佐藤の前に手をかざした。
すると、佐藤の目の前に炎が現れた。
「ひっ……! あ、熱く……ない?」
佐藤は驚いて身を引いたが、すぐに炎に熱さを感じないことに気づいた。
「これは、あなたの体内のマナに直接命令して、視覚だけに『炎がある』という情報を書き加えたのです。つまり、錯覚を操作したということです」
一同が言葉を失う中、サミアは静かに続けた。
「魔法とは、意志による現象制御。そして、その第一歩は、自分のマナを完全に制御することです」
外務省の田中が眼鏡を直しながら質問した。
「俗に言う魔力を練るというやつですか?」
「そうですね。そう言った感じの表現の方が分かりやすい方もおられるかもしれません」
サミアは頷いた。
「まずは自分のマナを自分の意思で練り上げ、集束させること。次に、自分のマナを、周囲のマナ群のアルファ、つまり指揮官とすること。そして最後に、マナに命令を出すことです。そのためには、どんな命令をすれば、どんな物理現象が起きるのかを、科学的に理解しておく必要があります」
サミアが手を前に出すと、今度は手のひらに水が溜まり始めた。
「水の生成も同様です。空気中の水分を集めて凝縮させているだけ。決して無から有を生み出しているわけではありません。空気中にある水蒸気を一箇所に集めるようマナに働きかけたことによるものです。ですから物理法則に反する現象は魔法であっても起きないのです。例えば、アニメの魔法使いがやるような、大きな水の塊を空に浮かべるとかいったようなことは不可能です」
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