アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ

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 講義は座学と実践の両面で進められた。サミアは訪問団のメンバー一人一人の体内マナの状態をチェックし、個別にアドバイスを行った。
「田中さんのマナは比較的活性化していますが、制御が不安定ですね。もう少し集中力を高める練習が必要です」
 田中は真剣な表情で頷いた。
「佐藤さんのマナは量は十分ですが、反応が鈍いようです。意識的にマナに命令を出す練習をしてください」
 一方、自衛隊から派遣された特殊部隊員たちは、戦闘に応用できる魔法について特別な講習を受けていた。
「身体能力の強化は比較的簡単です。自分の筋肉や神経系のマナに、性能向上の命令を出すだけです」
 実際に、隊員の一人がクロストロフの指導で跳躍力を倍に高めることに成功した。
「ただし、無理をすると筋肉や骨格に負担がかかります。段階的に慣らしていく必要があります」サミアがクロストロフの言葉を通訳する。
 花巻は別室で、言語と文化についての講習を担当していた。
「アガルタの言語は基本的には古代ヘブライ語に近いのですが、地域によって独自の発達を遂げています。今回向かう場所レフュラン王国の言語はレフュラン語になります。みなさんすでに習得済みと伺っていますが、敬語の概念が非常に複雑で、相手の種族や社会的地位によって使い分ける必要があります」
 訪問団のメンバーは必死にノートを取りながら聞いている。
「特にプロネス族は選民意識が高く厄介です。しかし、彼らは見た目で簡単に判別できるので、対応を間違えないよう注意してください」

 二日間の集中講習を経て、訪問団のメンバーは基本的な魔法の使用と、アガルタでの最低限のコミュニケーションができるようになった。
「皆さん、想像以上の上達ぶりです」
 サミアは満足そうに微笑んだ。
「特に田中さんの光魔法と、佐藤さんの物質操作は実用レベルに達していると思います」
 訪問団のリーダーを務める外務省の田中は、手のひらに小さな光球を作りながら答えた。
「魔法というものがこれほど論理的なものだとは思いませんでした。むしろ科学の延長という感じですね」
「その通りです。でも、気を付けてください。マナのほとんどない地球と、マナが濃いアガルタとでは、魔法の出力が何倍も変わります。あちらで魔法を使う時は、力を押さえ気味にしてください」
 サミアが続けた。
「私たちの世界では、魔法と科学の境界は曖昧です。どちらも同じ原理に基づいていると考えられているからです。つまり、本当の科学を知らない魔法なのです。ですから、みなさんのように科学を知ったうえで使う魔法とでは根本が異なります。科学を知った魔法は、応用しだいで巨大な魔法になりかねません」
 最後の晩、訪問団のメンバーは食堂で夕食を取りながら、明日の任務について話し合った。
「正直、まだ実感が湧きません」
 財務省の佐藤がつぶやいた。
「明日、本当に異世界に行くんですね」
「私たちが歴史の証人になるんですよ。すごいことです」
 国土交通省の山本が感慨深げに言った。
「何があっても、この経験を日本に持ち帰らなければなりません」
 花巻は壁の計画表を見つめていた。明日の今頃は、生まれ故郷の世界にいることになる。どんな状況になっているのか、想像するだけで胸が痛んだ。

 その夜、施設内は静寂に包まれていた。訪問団のメンバーは、それぞれの部屋で明日の任務に備えて休息を取っている。
 サミアは一人、施設の外に立っていた。木立の間からは星空が見える。故郷の空も、こんなふうに星が輝いているのだろうか。
「大丈夫ですか?」
 鮎川が現れて、隣に立った。
「少し緊張しています。この2日間真面目なフリをしていたからかもしれません。それに」
 サミアは正直に答えた。
「故郷がどうなっているか……」
「きっと、みんな無事です」
 鮎川は励ますように言った。
「今回の訪問が、状況を変えるきっかけになるかもしれません」
 サミアは小さく頷いた。
「そうですね。頑張らなければ」
 二人は黙って夜空を見上げた。
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