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その日の夜、博文は結衣に電話をかけた。
「もしもし、結衣か?」
「あ、おじいちゃん! どうしたの?」
元気な声が聞こえてくる。博文は思わず笑顔になった。
「今日の部活はどうだった?」
「うん、新記録が出たよ!」
結衣は嬉しそうに報告した。
「すごいじゃないか。今度来た時にはお祝いに、結衣の好きなものを作ろう」
「やったあ!」
結衣の無邪気な声を聞いていると、博文の心配も少し和らいだ。どんな状況になろうとも、この子の笑顔を守りたいという思いだけは変わらない。
その夜、博文は書斎で古い文献を読み返していた。陰陽師に関する記録、門についての文書、そして家系に伝わる秘密の記録。
太田家が秦氏の末裔であり、代々特別な能力を受け継いできたことは、家族の中でも限られた者しか知らない秘密だった。
博文自身は能力を使うことができない。しかし、結衣にはその能力が色濃く受け継がれているようだった。
電話が鳴った。鮎川からの連絡だった。
「博文先生、お疲れさまです」
「鮎川君か。調査団の方はどうだった?」
「アガルタの調査団は無事に出発しました。これから本格的な調査が始まります」
「そうか……」
「それと、結衣さんのことですが」
鮎川の声が少し真剣になった。
「別の組織からの接触があったと聞きましたが」
「ああ、今日忠彦が来た。陰陽の人間だったとは知らなかった」
「そうですか……私たちとは別に動いていたのは彼らかもしれませんね。私たちのほうでも探るようにします」
「しかし、結衣にとって、こういったことが良いことなのかどうか……」
博文は迷いを隠せなかった。
「きっと大丈夫です」
鮎川が励ますように言った。
「結衣さんは強い子ですから。それに、私たちがついています」
「そうだな……ありがとう」
電話を切った後、博文は再び文献に目を通した。
学校では、森川が結衣の様子を気にしていた。最近、微妙に様子が違うような気がする。
「太田さん、最近調子はどう?」
授業後、森川が声をかけた。
「はい、普通ですけど……」
結衣は答えたが、その表情には少し疲労が見える。
「何か心配事があるなら、いつでも相談してくれ」
「ありがとうございます」
結衣は微笑んだが、森川には作り笑いのように見えた。
放課後、森川は鮎川に連絡を取った。
「結衣さんの様子に変化があります」
「どのような?」
「疲れているようで、少し元気がないように見えます」
「わかりました。注意深く見守ってください」
「それから、正門前にあるコンビニですが、店員がごっそり入れ替わりました。あと、結衣さんの下校時刻近くに、よく同じ人物が目撃されています。一見買い物帰りの主婦といった感じですが、気になります」
「コンビニの件はこちらでも確認しています。オーナーもC国人になっていますね。そちらの動きはこちらで対処します。目撃される人物についてもこちらですぐに照会をかけてみます」
吉澤の指示で、結衣の通う学校の正門前に建つマンションの一室は組織が借り上げ、緊急事態に対応できるように常に人員が配置されていた。そのマンションの窓のカーテンを少しめくり、日置静留は望遠レンズのついたカメラで通学路を見ている。
「これってなんか、見た感じ完全にストーカーよね」
やがて、一人の婦人が現れるとシャッターを切った。
静かな夕方の庭で、蝉の声が響いている。平和な日常の音だが、その奥で確実に何かが動き始めていることを、博文は感じ取っていた。
日本各地で、そして異世界で、大きな変化が始まろうとしている。その渦中に、結衣も巻き込まれていくのだろうか。
博文は夕日を見つめながら、静かに祈った。すべてが良い方向に向かうことを。そして、結衣が幸せでいられることを。
「もしもし、結衣か?」
「あ、おじいちゃん! どうしたの?」
元気な声が聞こえてくる。博文は思わず笑顔になった。
「今日の部活はどうだった?」
「うん、新記録が出たよ!」
結衣は嬉しそうに報告した。
「すごいじゃないか。今度来た時にはお祝いに、結衣の好きなものを作ろう」
「やったあ!」
結衣の無邪気な声を聞いていると、博文の心配も少し和らいだ。どんな状況になろうとも、この子の笑顔を守りたいという思いだけは変わらない。
その夜、博文は書斎で古い文献を読み返していた。陰陽師に関する記録、門についての文書、そして家系に伝わる秘密の記録。
太田家が秦氏の末裔であり、代々特別な能力を受け継いできたことは、家族の中でも限られた者しか知らない秘密だった。
博文自身は能力を使うことができない。しかし、結衣にはその能力が色濃く受け継がれているようだった。
電話が鳴った。鮎川からの連絡だった。
「博文先生、お疲れさまです」
「鮎川君か。調査団の方はどうだった?」
「アガルタの調査団は無事に出発しました。これから本格的な調査が始まります」
「そうか……」
「それと、結衣さんのことですが」
鮎川の声が少し真剣になった。
「別の組織からの接触があったと聞きましたが」
「ああ、今日忠彦が来た。陰陽の人間だったとは知らなかった」
「そうですか……私たちとは別に動いていたのは彼らかもしれませんね。私たちのほうでも探るようにします」
「しかし、結衣にとって、こういったことが良いことなのかどうか……」
博文は迷いを隠せなかった。
「きっと大丈夫です」
鮎川が励ますように言った。
「結衣さんは強い子ですから。それに、私たちがついています」
「そうだな……ありがとう」
電話を切った後、博文は再び文献に目を通した。
学校では、森川が結衣の様子を気にしていた。最近、微妙に様子が違うような気がする。
「太田さん、最近調子はどう?」
授業後、森川が声をかけた。
「はい、普通ですけど……」
結衣は答えたが、その表情には少し疲労が見える。
「何か心配事があるなら、いつでも相談してくれ」
「ありがとうございます」
結衣は微笑んだが、森川には作り笑いのように見えた。
放課後、森川は鮎川に連絡を取った。
「結衣さんの様子に変化があります」
「どのような?」
「疲れているようで、少し元気がないように見えます」
「わかりました。注意深く見守ってください」
「それから、正門前にあるコンビニですが、店員がごっそり入れ替わりました。あと、結衣さんの下校時刻近くに、よく同じ人物が目撃されています。一見買い物帰りの主婦といった感じですが、気になります」
「コンビニの件はこちらでも確認しています。オーナーもC国人になっていますね。そちらの動きはこちらで対処します。目撃される人物についてもこちらですぐに照会をかけてみます」
吉澤の指示で、結衣の通う学校の正門前に建つマンションの一室は組織が借り上げ、緊急事態に対応できるように常に人員が配置されていた。そのマンションの窓のカーテンを少しめくり、日置静留は望遠レンズのついたカメラで通学路を見ている。
「これってなんか、見た感じ完全にストーカーよね」
やがて、一人の婦人が現れるとシャッターを切った。
静かな夕方の庭で、蝉の声が響いている。平和な日常の音だが、その奥で確実に何かが動き始めていることを、博文は感じ取っていた。
日本各地で、そして異世界で、大きな変化が始まろうとしている。その渦中に、結衣も巻き込まれていくのだろうか。
博文は夕日を見つめながら、静かに祈った。すべてが良い方向に向かうことを。そして、結衣が幸せでいられることを。
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