アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ

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 レフュラン王国の兵士と共に、使節団はナリア皇国に向けて進んでいた。王の約束通り、四十八名の兵士が護衛として同行している。
 隊長を務めるのはガルヴィン大尉、三十代前半の歴戦の勇士だった。長い軍歴を持ち、数多くの戦場を経験している。部下からの信頼も厚く、王からの信頼も厚い人物だ。
「使節団の皆様、この先の道のりは険しくなります」
 ガルヴィン大尉が馬上から説明した。
「特に瘴気の森は危険地帯です。これまで多くの兵士が体調を崩し、中には命を落とした者もいると聞いています」
 田中が不安そうな表情で聞いた。
「どのような危険があるのでしょうか?」
「そうですな。まず、瘴気そのものが人体に害をなします」
 ガルヴィンが詳しく説明し始めた。
「瘴気の濃い場所は霧がかかったようになり、長時間そこにいると胸が苦しくなります。頭がくらくらして酔ったような感じになり、ひどい時には頭痛や発熱まで起こります」
 佐藤が心配そうに聞いた。
「治療法はあるのですか?」
「幸い、ほとんどの場合はそこから運び出して二、三日か、長くても一週間程度安静にしていれば治ります」
 ガルヴィンが答えた。
「ただし、重篤な場合は回復にさらに時間がかかることもあります」

 途中の街で休憩を取った際、使節団は地元の人々からより詳しい情報を聞くことができた。
「瘴気の森の獣は普通じゃありませんよ」
 宿屋の主人が心配そうに話した。
「体が大きく、力が強い。それに、中には魔法を使う魔獣も出るんです」
「魔法を使う獣ですか?」
 山本が興味深そうに聞いた。
「ええ、火を吹いたり、風を起こしたり。普通の武器では太刀打ちできません」
 そんな話を聞いて、兵士たちの一部に不安が広がった。
「本当に我々で対応できるのでしょうか?」
 若い兵士が心配そうにつぶやいた。瘴気の森は今回が初めてらしい。
「魔獣相手では、普通の剣や槍では……」
 その時、ユリナスが自信に満ちた声で言った。
「大丈夫です。私が対処します」
 兵士たちは半信半疑だったが、ユリナスの落ち着いた態度に少し安心した。
 その夜、使節団だけの打ち合わせが行われた。テントの中で、ユリナスが重要な仮説を語り始めた。
「皆さんにお話ししたいことがあります」
 ユリナスが真剣な表情で切り出した。
「瘴気の正体について、私なりの仮説があります」
「どのような?」
 田中が身を乗り出した。
「瘴気の正体は、マナではないかと思います」
 一同が驚きの表情を見せた。
「まだ仮説ですが、多分間違いないでしょう」

 ユリナスは慎重に言葉を選びながら続けた。
「ただし、これは大陸の国家間の勢力図を書き換えてしまいかねない重要な情報です。レフュランの兵士には絶対に話さないでください」
 ヨルンヘルドとクロストロフも真剣に頷いた。
「もちろん、秘密を守ります」
 クロストロフが答えた。
「それで、どういうことでしょうか?」
 田中が質問した。
「僕は以前から、太古に散布されたアガルタのマナが減らないことに疑問を持っていたんですが、その理由がある程度わかってきました」
 ユリナスは説明を始めた。
「一つは、マナ自身が自分の複製体を作り、増殖しているからです」
「増殖?」
 佐藤が驚いた。
「そうです。一部のマナは生物のように自己複製能力を持っています。」
 少し間をあけて、ユリナスは続けた。
「僕は、日本に来て二十年以上、正確には二十六年になるのかな?まあ、そのくらい経っています。そして、みなさんご存知のように地球上にはほとんどマナはないので、マナを体内に取り込むことはできません。つまり、僕の体内のマナの数は減っていないとおかしいのです。ところが、実際にはほとんど減ってない。その理由が、僕のマナを調べてもらっていた時にわかりました。マナが分裂しているのが発見されたのです」
 ユリナスはみんなを見回し、さらに続けた。
「そしてもう一つの理由は、仮説としてこれ以外考えられないのですが、始祖の一族が残したマナを作り続けている施設が、アガルタにあるのではないかということです」
 サミアが何か気が付いたように、顔を上げた。
「それって、聞いたことがあるわ。祝福の館の話。子どもの御伽噺だと思ってた」
「地球でもこのアガルタでも、御伽話や言い伝え、昔話などには、隠された真実が形を変えて残されていることが多いんだよ」
「僕は元々、瘴気や魔法の研究をしている過程で地球に行ったんだけど、そこで科学を知り、たくさんの言い伝えや伝承を調べているうちに色々わかってきたことがあるんだ」
 ユリナスが自分の経歴を語った。
「そして、伝承と科学の知識で、マナを作る施設があるという仮説も立てることができた」

「瘴気の濃い場所で眩暈がするのは、濃いマナに体が適応しきれない状態です」
 ユリナスが医学的な説明を続けた。
「つまり、アニメなどで言う『魔力酔い』の状態なのです」
「なるほど」
 山本が納得したように頷いた。
「それで体調を崩すのですね」
「そうです。そして、瘴気の濃い場所で強い獣が多く、魔物まで出てくるのにも理由があります」
 ユリナスは仮説を展開した。
「濃いマナに適応した生物は寿命が長く、魔力による生存能力の向上があります。長年生きるうちに本能的にマナの使い方を身につけた獣は、魔法が使えるようになります」
「それが魔獣、つまり魔物になるということですか」
 田中が確認した。
「その通りです」
 ユリナスが頷いた。
「完全な保証はできませんが、僕は割と広範囲のマナを操作することができます。瘴気の森でもおそらく対応できるでしょう」
「サミアさんも大丈夫ですか?」
 山本がサミアに聞いた。
「ええ、きっと大丈夫です」
 サミアが微笑んだ。
「兄ほどではありませんが、私もある程度はマナを制御できます。それにみなさんもご自分一人だけなら守れそうなほど、マナを上手に制御されていますよ」
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