アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ

文字の大きさ
68 / 84

68

しおりを挟む
 地球では、使節団が持ち帰った情報の検討が行われていた。
 総理官邸の会議室に、関係閣僚が集まっている。
「状況は予想以上に深刻です」
 外務大臣が報告した。
「A国とC国に、ほぼ全ての情報を開示することを提案します」
「彼らも参加するのであれば、やむを得ないでしょう」
 総理が頷いた。
「では、次回の会談で情報を共有しましょう」

 数日後、再び三カ国の会談が開かれた。
 今回は、テーブルの一角に、明らかに人間ではない存在が座っていた。
 彼らは、灰白色の肌を持ち、揃いの黒いスーツに白い手袋、そして室内であるにもかかわらず大きなサングラスをつけている。A国の参加者とともに現れたが、誰からも彼らの説明はない。しかし、この場にいる誰もが確信していた。姿形は人のようであるが、彼らは異星人だ。

「まず、我々から情報を共有させていただきます」
 吉澤が立ち上がり、田中たちがアガルタから持ち帰った情報を詳しく説明した。
 A国、C国、そして彼らは、黙って聞いていた。
「ありがとうございます」
 A国の代表が頷いた。

「我々も、新たな情報を入手しました」
 A国の代表が、大きなスクリーンに衛星写真を映し出した。
 そこには、建設中のバベルの塔らしき構造物が写っている。そして、その近くに、布で覆われた大きな機材が運ばれている様子が見える。
「この布の皺や撓み具合から判断すると……」
 A国の代表が真剣な表情で言った。
「これはアークであると我々は判断しました」
 会議室に緊張が走った。

「さらに」
 異星人の一人が立ち上がった。その声は、機械的な翻訳を通して聞こえてくる。
「あなた方がアークと呼んでいるものに関する情報を提供します」
 全員が異星人に注目した。
「そこに写っているのは、氷河期後も気候の安定しない地球の大気を安定させ、緑豊かな星に改造するために我々の祖先が設置した、六台の気象制御機械のうちの一台です」
 異星人が説明を続けた。
「その役目は、はるか過去に終わっていました。しかし、二千数百年ほど前、それを動かした愚かな地球人がいました」
 会議室の空気が凍りついた。

「その結果、巨大な雨雲が世界を覆い、激しい雷があちこちに落ちました」
 異星人が淡々と語る。
「街や森を焼き尽くしただけでなく、巨大な水害が世界を襲いました」
「それは……」
 吉澤が息を呑んだ。
「その洪水によって、当時最も繁栄していた国を含め、いくつかの国や都市が、丸ごと海に沈んでしまいました」
「ノアの方舟の水害……」
 誰かが呟いた。
「そして、アトランティスの滅亡……」
「もし今、同じようにアークを動かせば」
 異星人が全員を見回した。
「また世界に、未曾有の災害が起こるでしょう」
 重い沈黙が会議室を支配した。

「それを受けて」
 A国の代表が立ち上がった。
「我々は、すでに行動を起こしました」
「行動を?」
 C国の代表が驚いた表情を浮かべた。
「B-2爆撃機が、すでに出撃しています」
 A国の代表が地図を指し示した。
「目標は、建設中のバベルの塔です」
「爆撃を……」
 日本側の代表たちが顔を見合わせた。

「バンカーバスター爆弾を装備しています」
 A国の代表が続けた。
「地下深くまで貫通し、爆発する特殊爆弾です」
「また、同時に」
 A国の代表が続けた。
「海兵隊特殊部隊による門の奪還にも着手しました」
「門の奪還を?」
 C国の代表の顔が曇った。
「それは早計ではないですか」
「常時開いていると考えられる門を、そのままにしておくことは極めて危険と判断しました」
 A国の代表が説明した。
 日本側も、判断を決めかねている様子だった。

「ただし」
 A国の代表が付け加えた。
「海兵隊の派遣は、あえてゆっくり行います」
「ゆっくり?」
「はい」
 A国の代表が微笑んだ。
「バベルの塔が破壊し、そこにあえて海兵隊が大規模な門の奪還計画を立てて行動を始めたという情報を流すことで、アガルタにいる兵を引き上げさせることが目的です」
「なるほど」
 吉澤が頷いた。
「彼らに、地球に戻らざるを得ない状況を作るということですね」
「その通りです」
 A国の代表が頷いた。
「アークが破壊された以上、アガルタで戦う必要がなくなります。地球に戻るしかないでしょう」
 C国の代表も、その判断に納得したようだった。

「理解しました」
 日本側の代表も頷いた。
「我々も、協力しましょう」
「ありがとうございます」
 A国の代表が感謝の意を表した。
 異星人の一人が立ち上がった。
「我々も、必要な支援を提供します」
 その声には、確固たる決意が込められていた。
「アークの再起動は、絶対に阻止しなければなりません」
 会議室の全員が頷いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...