アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ

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 自衛隊病院の隔離病棟。
 結衣は窓の外を見ていた。あの日から一週間が経とうとしている。
 アガルタから持ち帰った可能性のある病原体やウイルスの検査のため、結衣もユリナスたちも隔離されていた。
 検査の結果は、すべて陰性。問題なく、数日後には退院できるという。
「結衣さん」
 森川が部屋に入ってきた。
「体調はどうですか?」
「大丈夫です」
 結衣が微笑んだ。
「もう、すっかり元気になりました」
「それは良かった」
 森川が安堵の表情を浮かべた。
「花巻さん……いえ、ユリナスさんも順調に回復しているそうです」
「本当ですか」
 結衣が嬉しそうに言った。
「会えますか?」
「明日、面会できるそうです」
 森川が頷いた。

 同じ頃、都内のあるビルの一室では、吉澤が一枚の写真を見ていた。
 中東の砂漠に広がる、破壊されたバベルの塔の残骸。
「完全に破壊されたな」
 吉澤が呟いた。
「ええ」
 安藤が頷いた。
「しかし、A国の爆撃だけじゃないようです」
「どういうことだ?」
「現地で、不思議な飛行物体が目撃されたそうです」
 安藤が別の報告書を見せた。
「三角形の、銀色に光る物体。音もなく飛んでいたと」
「彼らか……」
 吉澤が深く息を吐いた。
「結局、彼らが介入したということですね」
「そうかもしれません」
 安藤が頷いた。
「アークの脅威は、彼らにとっても看過できなかったのでしょう」

 鮎川が部屋に入ってきた。
「アガルタから帰還した兵士たちの件です」
「どうなった?」
「A国とE国、I国の合同掃討作戦が成功しました」
 鮎川が報告した。
「武装勢力の拠点は制圧され、兵士たちは拘束されました」
「残った者は?」
「マナを持たずにアガルタに行ったため、ほとんどが感染症に罹患しています」
 鮎川が続けた。
「現在、隔離施設で治療中です」
「自業自得だな」
 吉澤が冷たく言った。
「ところで、C国の李教授たちは?」
「張副部長から連絡がありました」
 安藤が報告した。
「李教授たちは無事に帰国したそうです。検疫も問題なく、元気だと」
「それは良かった」
 吉澤が頷いた。
「彼らは純粋な学者だからな」
「宮殿内に隔離されていたことが幸いしたようです」
 鮎川が付け加えた。
「テンジーク王の配慮に感謝するしかありませんね」

「ところで、伊平屋島の門は?」
 吉澤が尋ねた。
「二度と開くことはないでしょう」
 安藤が答えた。
「地下に蓄えられたマナを全て使い切ったそうです」
「そうか……」
 吉澤が窓の外を見た。
「あの門も、役目を終えたということか」
「しかし、興味深いことがわかりました」
 安藤が資料を取り出した。
「天岩戸伝説について調べていたのですが……」
「天岩戸?」
「江戸時代の国学者、藤原貞幹が著した『衝口発』という書物があります」
 安藤が説明した。
「その中で、彼は天岩戸伝説の天岩戸は、伊平屋島にあると主張していました」
「まさか……」
「ええ。おそらく、古代の人々は門の存在を知っていたのでしょう」
 安藤が頷いた。
「そして、それを神話として後世に伝えた」
「歴史は繰り返す、か」
 吉澤が呟いた。

 翌日、結衣はユリナスの病室を訪れた。
 そこには、サミア、クロストロフ、ヨルンヘルムもいた。
「結衣さん!」
 ユリナスがベッドの上で微笑んだ。
 その顔には、もう傷一つない。
「花巻さん……いえ、ユリナスさん」
 結衣が嬉しそうに言った。
「元気になられて、本当に良かったです」
「あなたのおかげです」
 ユリナスが深々と頭を下げた。
「命を救っていただき、ありがとうございました」
「いえ、私は……」
「聖女の力はすごいわね」
 サミアが感心したように言った。
「私たちの治癒魔法では、どうすることもできなかったのに」
「聖女だなんて……」
 結衣が照れくさそうに首を振った。
「私はただの高校生です」
「いや、君は特別だよ」
 クロストロフが言った。
「その力を、大切にしてほしい」
「はい」
 結衣が頷いた。

 その時、鮎川が部屋に入ってきた。
「皆さん、お話があります」
 鮎川が真剣な表情で言った。
「今回のことは、最高機密です。関係者全員に緘口令が敷かれました」
「緘口令……」
 結衣が呟いた。
「はい。太田さん、あなたの力のことも、誰にも話してはいけません」
 鮎川が言った。
「ご家族にも、友人にも」
「わかりました」
 結衣が頷いた。
「それと」
 鮎川がクロストロフたちを見た。
「あなたたちも、しばらく日本に滞在していただきます」
「わかりました」
 クロストロフが答えた。
「我々も、地球のことをもっと知りたいと思っていました」
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