アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ

文字の大きさ
84 / 84

84

しおりを挟む
 吉澤の部屋に、安藤と鮎川が集まっていた。
「太田結衣さんの件ですが」
 鮎川が報告した。
「関係した医師たちが、かなり動揺しています」
「そうだろうな」
 吉澤が頷いた。
「あんな奇跡を目の当たりにしたら、誰だって騒ぐ」
「緘口令は徹底させています」
 鮎川が続けた。
「しかし、完全に口を封じることは難しいかもしれません」
「彼女は、守らなければならない」
 安藤が静かに言った。
「その力を狙う者が、必ず現れる」
「うむ、わかっている」
 吉澤が頷いた。
「すでに、対策は始めている」

 その時、モニターに映像が映し出された。
 C国の張副部長だった。
「吉澤さん、お久しぶりです」
 張が画面越しに言った。
「李教授たちは無事に帰国しました。ご協力に、感謝します」
「こちらこそ」
 吉澤が答えた。
「ところで、そろそろ彼女への関与は控えていただけますね」
「もちろんです」
 張が頷いた。
「我々は約束を守ります。彼女の安全は、あなたたちに任せましょう」
「ありがとうございます」
 通信が切れた。
「信用できるのでしょうか?」
 鮎川が尋ねた。
「どうかな。わからんな」
 吉澤が正直に答えた。
「しかし、今のところは信用するしかない」
「彼女の周辺警護は?」
「すでに配置している」
 安藤が地図を広げた。
「学校の周辺、自宅の周辺、通学路。すべてカバーしている」
「それと」
 吉澤が付け加えた。
「彼女の家の隣や向かいに、我々の人間を配置した」
「なるほど」
 鮎川が頷いた。
「では、彼女は守られるわけですね」
「ああ」
 吉澤が窓の外を見た。
「本人が気づかないうちに、な」

 しばらくして、結衣は学校に戻った。
 始業の時間に少し遅れて教室に入ると、クラスメイトたちが一斉に振り返った。
「結衣!」
 佳織が駆け寄ってきた。
「心配したんだからね!」
「ごめんね」
 結衣が謝った。
「急に消えちゃって」
「で、どこ行ってたの?」
 佳織が興味津々に尋ねた。
「国の仕事って聞いたけど」
「うふふ」
 結衣が微笑んだ。
「ひみつ」
「えー、教えてよー」
 佳織が不満そうに言った。
「今は言えないの」
「そう。じゃあ、いつか教えてね」
「うん、いつか」
 結衣が頷いた。

 その時、森川が教室に入ってきた。
「おはよう、みんな」
 森川がいつもの笑顔で言った。
「先生も、体調良くなったんですね」
 生徒の一人が言った。
「ああ、もう大丈夫だ」
 森川が頷いた。
 結衣と森川の目が合い、二人は微笑み合った。
 授業が始まった。
 いつもと変わらない、平和な日常。
 しかし、結衣は知っている。
 世界は、確かに変わったのだと。

 放課後、結衣は佳織と一緒に帰路についていた。
「そういえばさ」
 佳織が言った。
「向かいのコンビニに、新しい店員さんが入ったんだって」
「へえ」
「すっごくイケメンらしいよ」
 佳織が嬉しそうに言った。
「今度一緒に行こう!」
「うん」
 結衣が笑った。

 二人は商店街を歩いていく。
 その後ろを、さりげなく歩いている男性がいた。スーツを着た、三十代くらいの男性。
 彼は、結衣の警護担当者だった。
 結衣は、そのことに気づいていない。
 家に帰ると、母が夕食の準備をしていた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
 結衣がリビングに入ると、父がいた。
「お父さん、早いね」
「ああ、今日は早く終わったんだ」
 父が微笑んだ。
「それに、しばらくは本社勤務になったから、早く帰れるんだよ」
「本当?」
 結衣が嬉しそうに言った。
「やった!」
「お父さんも嬉しいよ」
 父が結衣の頭を撫でた。

「そうそう」
 母がキッチンから顔を出した。
「近所に新しいお店ができるんですって。外資系の食品スーパーらしいわ」
「へえ」
 結衣が興味を示した。
「楽しみだね」
「そうね。品揃えも良いらしいのよ」
 母が嬉しそうに言った。
 家族三人で、夕食を囲んだ。
 何気ない会話。笑い声。
 平和な日常が、そこにあった。
 しかし、その外資系スーパーは、実は監視体制の一環だということを、結衣は知らない。
 斜め向かいの家に引っ越してきた北欧系の家族も、裏の家のアメリカ人家族も、実は結衣を守るための配置だということを。
 結衣の周りには、見えない守護者たちがいる。
 彼女の日常を守るために。
 彼女の力を守るために。
 そして、彼女自身を守るために。

 その夜、結衣は自室で窓の外を見ていた。
 星が輝いている。
 あの星の向こうに、アガルタがある。
 ユリナスたちが行った、あの世界。
 結衣は左手の薬指を見た。
 指輪は、もう外していた。ユリナスに返したのだ。
 しかし、その感触は、まだ残っている。
 あの力。
 あの奇跡。
 結衣は、自分の中に何かが芽生えたことを感じていた。
 それが何なのか、まだわからない。
 しかし、いつか必要になる時が来る。
 その時、自分は何ができるのだろう。
 結衣は窓を閉め、ベッドに横になった。
 明日も、いつもと同じ日常が続く。
 学校に行き、友達と話し、勉強をする。
 普通の女子高生として。
 しかし、結衣はもう知っている。
 世界には、見えないところで戦っている人たちがいることを。
 守られているものがあることを。
 そして、自分にも役割があることを。
 結衣は目を閉じた。
 そして、静かに眠りについた。
 明日も、きっといい日になる。
 そう信じて。

 地球とアガルタ。
 二つの世界は、再び静寂を取り戻した。
 しかし、人々の心の中には、確かに何かが残った。
 異なる世界との出会い。
 絆と希望。

 見えない守護者たちに守られながら。
 少女は、自分の道を歩んでいく。
 いつか来るかもしれない、次の出会いの日まで。
 そして、いつか、その力が再び必要になる時まで
(完)
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

田中みのり
2025.11.12 田中みのり

これはすごい。色々な世界が交錯していて、これからどんな展開があるのか、すごく気になる。

解除

あなたにおすすめの小説

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

異世界ランドへようこそ

来栖とむ
ファンタジー
都内から車で1時間半。奥多摩の山中に突如現れた、話題の新名所――「奥多摩異世界ランド」。 中世ヨーロッパ風の街並みと、ダンジョンや魔王城を完全再現した異世界体験型レジャーパークだ。 26歳・無職の佐伯雄一は、ここで“冒険者A”のバイトを始める。 勇者を導くNPC役として、剣を振るい、魔物に襲われ、時にはイベントを盛り上げる毎日。 同僚には、美人なギルド受付のサーミャ、エルフの弓使いフラーラ、ポンコツ騎士メリーナなど、魅力的な“登場人物”が勢ぞろい。 ――しかしある日、「魔王が逃げた」という衝撃の知らせが入る。 「体格が似てるから」という理由で、雄一は急遽、魔王役の代役を任されることに。 だが、演技を終えた後、案内された扉の先にあったのは……本物の異世界だった! 経営者は魔族、同僚はガチの魔物。 魔王城で始まる、まさかの「異世界勤務」生活! やがて魔王の後継問題に巻き込まれ、スタンピードも発生(?)の裏で、フラーラとの恋が動き出す――。 笑えて、トキメいて、ちょっと泣ける。 現代×異世界×職場コメディ、開園!

【アラウコの叫び 】第1巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日07:20投稿】 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 また動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 公式HP:アラウコの叫び youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス insta:herohero_agency tiktok:herohero_agency

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【アラウコの叫び 】第2巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日07:20投稿】 動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 公式HP:アラウコの叫び youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス insta:herohero_agency tiktok:herohero_agency

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。