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番外編:悪役令嬢の秘密
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引き続き、カロリーナでございます。
控室を辞したわたくしは、そのまま帰宅いたしました。
わたくしとは別の馬車で先に帰宅していた父と義弟は、どうやら執務室にいるようですわ。
義弟も、本当に、愚かなことをしたものですわね。
婚約者のいる身だというのに、あの平民の娘とかなり懇意になってしまって。
更には、あんなことまで……。あ、いえ、何でもありませんわ。
とにかく、庇いきれる範囲を超えておりますから。
婚約の解消は免れないことでしょう。
もしかしたら、破棄になるかもしれないですわね。
彼は、一人娘であるわたくしが殿下の婚約者となったために、この公爵家を継ぐ人間として分家から養子に入った身です。
ですが、今回のことで、どうなることでしょうね?
わたくしとしては、ある程度の処遇で済んで、このまま義弟に公爵家を継がせることになっても、義弟が廃嫡されてわたくしが公爵家を継ぐことになっても、どちらでも構いません。
父の決定に従うだけです。
義弟に落ちぶれてほしいだなんて、思っていませんのよ?
よく、わたくしと義弟の仲は険悪だと言われますけれど、別に、わたくしは義弟を嫌っているわけではありません。冷遇したこともありませんわ。
義弟が、一方的に、わたくしを嫌っているだけです。
どうやら、わたくしのほうが出来が良いことが彼の癪に障っているようなのですが、そう言われましてもね……。
義弟にできないことがあっても、わたくしは馬鹿にしたことはありませんが、彼が勝手に、わたくしにそう思われていると感じているようなのですよね。
過去に、彼を慰めようとしたこともあるのですが、それは逆効果でした。
簡単に言えば、義弟は拗らせているだけだと思うのですけれど、わたくしが近づけばあからさまに嫌そうな顔をするので、わたくしも距離を置くようになっただけなのです。
どんなに嫌われようとも、もっと距離を詰める努力をすればよかったのかもしれませんが、殿下の婚約者になってからはどうにも忙しかったのですよね。
言い訳じみていますが、事実として、わたくしには時間が足りませんでした。
それに、わたくしだって、わかりやすく嫌われて、傷つかなかったわけでもないのですよ?
仕事で忙しくしている父には相談できず、母はわたくしが幼い頃に亡くなっていますから、わたくし、どう対処すればいいのかわからなかったのです。
その結果、仲の良くない姉弟ができあがったわけですけれど。
あら、やっぱり言い訳がましいですわね。
失礼しましたわ。
とりあえず、義弟には、しでかしてしまったことをきちんと反省して、更生してほしいとは思っていますわ。
この気持ちを伝えることはありませんが。
「それにしても、本当に乳母の話の通りになったわね……」
思わず声に出してしまったけれど、今は部屋にひとりでいるのだから問題ありませんわよね。
卒業パーティーでの殿下たちの計画を事前に掴めたのは、影のおかげだったことに間違いはありません。
数々の証拠にしても、過去、暴走した殿下の後始末のための情報収集にしても、影には本当にお世話になっています。
ですが、実は、わたくしにはもうひとつ、情報源がありました。
それが、乳母からの手紙です。
読んだら燃やすように書かれていましたから、今は手元にありません。
ですが、内容はきっちりと覚えています。
乳母は随分と前に暇を取っておりますが、わたくしが学園に入学する前に手紙を届けてくれたのですよね。
『拝啓、お嬢様。
大変ご無沙汰しております。
突然のお手紙、ご無礼をお許しいただければ幸いでございます。
お嬢様は、私が以前、私には未来が視える、とお話したのを覚えていらっしゃるでしょうか?』
そう始まった手紙には、この先、学園で起こることが書かれていました。
普通ならば、到底信じられないことなのですが、その昔、乳母が話してくれた未来の出来事が現実になったことを、わたくしは知っています。
義弟ができることも、義弟との仲が険悪になることも。
わたくしが義弟を虐げたのが原因だということでしたから、そうはしませんでしたが、うまくはいかないものですわね。
そして、父のことも。
仕事ばかりで家庭を顧みない人だと思っていましたが、それは、母を亡くした悲しみからだと教えてくれました。実際、そうだったようです。
また、我が家は他家に疎まれているのですが、それは、わたくしが第一王子の婚約者であるうえに、父が、過去に、ある不正を告発したからなのです。
その告発についても、乳母は知っていました。
思えば、乳母は変わった人でした。
公爵家の娘であるわたくしを咎める使用人など、通常はいないものです。
ですが、乳母は駄目なことは駄目だとしっかりと教えてくれる人でした。
『我儘がすぎると、皆から嫌われてしまいます』
『身分を盾に身勝手なことをしていたら、身を滅ぼしてしまいますよ』
嫌われる、身を滅ぼすなどと言われ、更にはそんな未来が視えたと言われ。
幼い頃は、本当に恐ろしかったものですわ。
だからこそ、必死で性格矯正にも努めました。
乳母は、単に駄目出しをするのではなく、その理由も、想定される未来についても教えてくれましたので、素直に聞き入れることができたのですけれどね。
その結果、わたくしは、傲慢になることもなく、現状それなりの信頼を寄せてもらえていると自負しておりますわ。
これも、乳母のおかげですね。
そんな恩ある乳母から、手紙が届いたのです。
乳母が視た未来で起きた学園での出来事が書かれた手紙が。
殿下や側近たち、義弟までもが平民の娘に誑かされること。
それに嫉妬したわたくしが娘に嫌がらせをすること。
最終的には、卒業パーティーでわたくしが断罪されること。
それらが時系列に沿って書かれていたのですが、併せて、回避行動における注意点も添えてくれてありました。ありがたいことですわね。
わたくし、義弟との関係改善には失敗してしまいました。
ですが、学園での事は失敗できません。
未来の断罪は、何が何でも回避しなくてはなりませんわ。
そう思って入学したのですけれどね。
わたくし、やっぱり忙しいのです。
忙しさにかまけて注意を怠っていたら、いつの間にか、乳母の手紙の通りになっていました。気づけば、殿下たちは、平民の娘にすっかりと絆されていたのです。
そうして、わたくしは、すべて後手に回ってしまったのですよね。
影から情報を集めるだけで手一杯でした。
もちろん、平民の娘を虐めたりなどはしませんでしたよ?
とはいえ、立場上、忠告くらいはしましたけれど。
結局、卒業パーティーでの計画の阻止まではできませんでしたが、余興と言う形で何とか回避できたのは、我ながら頑張ったのではないかしら。
おまけに、断罪されることもなく、殿下との婚約が解消できました。
正直なところ、公務や王妃教育に使った時間が惜しくないわけではありませんが、これから役に立つことも多いはずですから。
自分の糧になったと思えば、いい勉強をさせてもらったと納得できます。
こんな結果を迎えられたのも、やっぱり、乳母のおかげですわね。
公爵令嬢である以上、これからも、全くの自由は手にできないことでしょう。
ですが、今までとは違う生活になることは間違いありません。
わたくし、乳母に感謝して、新しい生活を楽しみたいと思いますわ。
控室を辞したわたくしは、そのまま帰宅いたしました。
わたくしとは別の馬車で先に帰宅していた父と義弟は、どうやら執務室にいるようですわ。
義弟も、本当に、愚かなことをしたものですわね。
婚約者のいる身だというのに、あの平民の娘とかなり懇意になってしまって。
更には、あんなことまで……。あ、いえ、何でもありませんわ。
とにかく、庇いきれる範囲を超えておりますから。
婚約の解消は免れないことでしょう。
もしかしたら、破棄になるかもしれないですわね。
彼は、一人娘であるわたくしが殿下の婚約者となったために、この公爵家を継ぐ人間として分家から養子に入った身です。
ですが、今回のことで、どうなることでしょうね?
わたくしとしては、ある程度の処遇で済んで、このまま義弟に公爵家を継がせることになっても、義弟が廃嫡されてわたくしが公爵家を継ぐことになっても、どちらでも構いません。
父の決定に従うだけです。
義弟に落ちぶれてほしいだなんて、思っていませんのよ?
よく、わたくしと義弟の仲は険悪だと言われますけれど、別に、わたくしは義弟を嫌っているわけではありません。冷遇したこともありませんわ。
義弟が、一方的に、わたくしを嫌っているだけです。
どうやら、わたくしのほうが出来が良いことが彼の癪に障っているようなのですが、そう言われましてもね……。
義弟にできないことがあっても、わたくしは馬鹿にしたことはありませんが、彼が勝手に、わたくしにそう思われていると感じているようなのですよね。
過去に、彼を慰めようとしたこともあるのですが、それは逆効果でした。
簡単に言えば、義弟は拗らせているだけだと思うのですけれど、わたくしが近づけばあからさまに嫌そうな顔をするので、わたくしも距離を置くようになっただけなのです。
どんなに嫌われようとも、もっと距離を詰める努力をすればよかったのかもしれませんが、殿下の婚約者になってからはどうにも忙しかったのですよね。
言い訳じみていますが、事実として、わたくしには時間が足りませんでした。
それに、わたくしだって、わかりやすく嫌われて、傷つかなかったわけでもないのですよ?
仕事で忙しくしている父には相談できず、母はわたくしが幼い頃に亡くなっていますから、わたくし、どう対処すればいいのかわからなかったのです。
その結果、仲の良くない姉弟ができあがったわけですけれど。
あら、やっぱり言い訳がましいですわね。
失礼しましたわ。
とりあえず、義弟には、しでかしてしまったことをきちんと反省して、更生してほしいとは思っていますわ。
この気持ちを伝えることはありませんが。
「それにしても、本当に乳母の話の通りになったわね……」
思わず声に出してしまったけれど、今は部屋にひとりでいるのだから問題ありませんわよね。
卒業パーティーでの殿下たちの計画を事前に掴めたのは、影のおかげだったことに間違いはありません。
数々の証拠にしても、過去、暴走した殿下の後始末のための情報収集にしても、影には本当にお世話になっています。
ですが、実は、わたくしにはもうひとつ、情報源がありました。
それが、乳母からの手紙です。
読んだら燃やすように書かれていましたから、今は手元にありません。
ですが、内容はきっちりと覚えています。
乳母は随分と前に暇を取っておりますが、わたくしが学園に入学する前に手紙を届けてくれたのですよね。
『拝啓、お嬢様。
大変ご無沙汰しております。
突然のお手紙、ご無礼をお許しいただければ幸いでございます。
お嬢様は、私が以前、私には未来が視える、とお話したのを覚えていらっしゃるでしょうか?』
そう始まった手紙には、この先、学園で起こることが書かれていました。
普通ならば、到底信じられないことなのですが、その昔、乳母が話してくれた未来の出来事が現実になったことを、わたくしは知っています。
義弟ができることも、義弟との仲が険悪になることも。
わたくしが義弟を虐げたのが原因だということでしたから、そうはしませんでしたが、うまくはいかないものですわね。
そして、父のことも。
仕事ばかりで家庭を顧みない人だと思っていましたが、それは、母を亡くした悲しみからだと教えてくれました。実際、そうだったようです。
また、我が家は他家に疎まれているのですが、それは、わたくしが第一王子の婚約者であるうえに、父が、過去に、ある不正を告発したからなのです。
その告発についても、乳母は知っていました。
思えば、乳母は変わった人でした。
公爵家の娘であるわたくしを咎める使用人など、通常はいないものです。
ですが、乳母は駄目なことは駄目だとしっかりと教えてくれる人でした。
『我儘がすぎると、皆から嫌われてしまいます』
『身分を盾に身勝手なことをしていたら、身を滅ぼしてしまいますよ』
嫌われる、身を滅ぼすなどと言われ、更にはそんな未来が視えたと言われ。
幼い頃は、本当に恐ろしかったものですわ。
だからこそ、必死で性格矯正にも努めました。
乳母は、単に駄目出しをするのではなく、その理由も、想定される未来についても教えてくれましたので、素直に聞き入れることができたのですけれどね。
その結果、わたくしは、傲慢になることもなく、現状それなりの信頼を寄せてもらえていると自負しておりますわ。
これも、乳母のおかげですね。
そんな恩ある乳母から、手紙が届いたのです。
乳母が視た未来で起きた学園での出来事が書かれた手紙が。
殿下や側近たち、義弟までもが平民の娘に誑かされること。
それに嫉妬したわたくしが娘に嫌がらせをすること。
最終的には、卒業パーティーでわたくしが断罪されること。
それらが時系列に沿って書かれていたのですが、併せて、回避行動における注意点も添えてくれてありました。ありがたいことですわね。
わたくし、義弟との関係改善には失敗してしまいました。
ですが、学園での事は失敗できません。
未来の断罪は、何が何でも回避しなくてはなりませんわ。
そう思って入学したのですけれどね。
わたくし、やっぱり忙しいのです。
忙しさにかまけて注意を怠っていたら、いつの間にか、乳母の手紙の通りになっていました。気づけば、殿下たちは、平民の娘にすっかりと絆されていたのです。
そうして、わたくしは、すべて後手に回ってしまったのですよね。
影から情報を集めるだけで手一杯でした。
もちろん、平民の娘を虐めたりなどはしませんでしたよ?
とはいえ、立場上、忠告くらいはしましたけれど。
結局、卒業パーティーでの計画の阻止まではできませんでしたが、余興と言う形で何とか回避できたのは、我ながら頑張ったのではないかしら。
おまけに、断罪されることもなく、殿下との婚約が解消できました。
正直なところ、公務や王妃教育に使った時間が惜しくないわけではありませんが、これから役に立つことも多いはずですから。
自分の糧になったと思えば、いい勉強をさせてもらったと納得できます。
こんな結果を迎えられたのも、やっぱり、乳母のおかげですわね。
公爵令嬢である以上、これからも、全くの自由は手にできないことでしょう。
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わたくし、乳母に感謝して、新しい生活を楽しみたいと思いますわ。
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