異世界転生は満員御礼、売り切れです

月影 流詩亜

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第1話 【伝統】の崩壊と女神の絶叫

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​ 食パンをくわえて角を曲がったら、トラックに跳ねられた。
 ……Web小説界に伝わる伝統的すぎる様式美を完遂した私が、次に目を開けると、そこは一面の白い世界だった。

​「ようこそ、死後の世界へ。南条梨子なんじょう りこさん、貴方は先ほど、不幸にもお亡くなりに成りました」

​ 豪華な椅子に座り、厳かに告げたのは水色の長い髪を持つ美女だった。……が、私は気づいてしまった。彼女、膝の上に隠すようにして、最新モデルの携帯ゲーム機を握っている。

​「あら、あまり驚かないのね。私はルーシーアン。日本において、若くして死んだ人間を導く女神よ」

​ 最初の演技はすぐに飽きたらしい。彼女はゲーム機を脇に放り投げると、急に猫背になって砕けた口調でまくしたてた。

​「さて、貴女だけに構っている時間は無いの。サクサク進めるわよ! 
 待っている魂は貴女だけではないのだから!
  貴女には、二つの選択肢があります。
 一つは人間として転生するか。
 そしてもう一つは、天国的な所でお爺ちゃんみたいな暮らしをするか?」

​「じゃあ、三つ目の異世界転生を頼むわ!」

​「まあ、ラノベの定番だからね!……って、ええっ!?」

​ ルーシーアンは椅子から転げ落ちそうになった。

​「まったく、最近の日本の若者はテンプレにスレてて可愛くないわね。
 いいわよ、さっさとそのカタログから特典を選びなさい。たった一つだけ、何者にも負けない力を授けてあげるわ」

​ 私は差し出されたタブレット端末(最新式)を眺め、「カタログに載っていないモノでもいいの?」と尋ねてみた。例えば、私の中に封印されたの解放とか。

​「プ~クスクス! やだ貴女、重度の厨二病だったのね。いいわよ、本当なら上司の神に許可取らなきゃだけど、特別に私の責任で許可してあげるわ!」

​ 女神がその場のノリで『全解放』の承認ボタンをタップした瞬間。私の足元に眩い魔法陣が浮かび上がる。

​「さあ南条梨子なんじょう りこさん。貴女をこれから異世界に送ります。魔王を倒した暁には、神々から……」

​「……えっ、今なんて言った?」

​ 私は光に包まれながら、首を傾げた。

​「え? だから、魔王を倒したら……」

​「いや、私の名前。私、北条梨緒ほうじょう りおだけど。さっきあんたが言ってた『南条なんたら』じゃないわよ」

​ 静寂が訪れた。

 ルーシーアンの顔が、みるみるうちに髪の色と同じ真っ青に染まっていく。

​「…………は? ホウジョウ? ナンジョウじゃ……なくて……ホウジョウ?」

​ 彼女は狂ったように空中のウィンドウをスワイプし始めた。

​「待って待って待って! 今の完全な入力ミス! コマンドミス! ちょっ、誰か時間を巻き戻してぇぇぇ!! 待ちなさいよ北条さん! 貴女が送られるはずの場所は、今まさに本物の聖女がログインして魔王を倒すっていう黄金ルートの真っ最中なの! 設定バグまみれの貴女が突っ込んだら、世界がフリーズしちゃうわよ!」

​「あ、そうなの? でも言質は取ったわ。特典、よろしくね」

​「手遅れじゃないわよ! リセットボタン! この最新モデルの管理コンソールのリセットボタンどこよ!? 『L1・R1・同時押し』的なやつ、どっかにあるはずでしょぉぉ!?」

​ ルーシーアンは四つんばいになって床を叩き、絶叫した。

​「あああああ! 私のボーナス! 今月、限定版ソフトの予約日なのに! 始末書確定じゃない! 待って! 待ってってば! これは不具合報告済みのバグよ! 運営(私)の指示に従いなさぁぁぁい!!」

​ 背後から事務服姿の天使たちが現れ、

「ルーシー様、また誤認送致ですか!」

「今期マイナス査定ですよ!」と彼女を取り押さえる。

​「離しなさいよ! こうなったら強制ログアウトよ! 北条さん、今すぐその光の中から自力で脱出しなさぁぁい!」

​「無理言わないでよ。じゃ、行ってくるわね」

​「ギャーーー!! その『設定書き換え』能力、絶対に誰にもバレないようにしてよね! 
 運営にバレたら貴女のデータ、BANするからね!!」

​ 水色の駄女神の悲鳴を背に、私の視界は真っ白な光に飲み込まれた。


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