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第2話 【待】ち時間は三日、最後尾はあちらです
しおりを挟む 視界が白から緑へと変わる。
伝統的な異世界転生なら、ここで美しい王女様が「おお、勇者様!」と涙ながらに駆け寄ってくるはず。……が、鼻を突いたのは馬糞の臭いと、妙に騒がしい人混みの熱気だった。
「……ここ、どこ?」
目を開けた私の前に広がっていたのは、王宮の裏門へと続く一本道。
そこには、武装した若者たちが延々と、それこそ地平線の彼方まで続くような待ち行列を作っていた。
「はい、そこのお嬢さん。最後尾はここから三キロ先だから、ちゃんと並んでね」
横から、死んだ魚のような目をした兵士に声をかけられた。手には「勇者採用試験・最後尾」と書かれたプラカード。
「……えっ、これ、なんの行列?」
「見ればわかるだろ? 勇者だよ。
今、異世界転生ブームで供給過多なんだ。
今の待ち時間は……だいたい三日ってところかな」
三日!? ネズミの王国の人気アトラクションでもそこまで待たないわよ。
私は行列を眺めて絶句した。並んでいる面々がこれまた凄い。
「……なあ、お前もトラック?」
「いや、俺は働きすぎて過労死」
「俺は女神に『間違えて天罰の雷落としちゃった、メンゴメンゴw』って言われて送られた」
あちこちから聞こえてくる不幸自慢と転生理由のテンプレ合戦。
ここは異世界じゃなくて、不運な魂の在庫処分場なんじゃないかしら。
「ちょっと、兵士さん。北条梨緒って名前に聞き覚えない? 私は女神ルーシーアンに直接送られてきたんだけど」
「あー、ルーシー様ね。あのゲーム廃人の駄女神様の紹介なら、あっちの『不具合・クレーム対応窓口』に並んで。あ、そこも今は五百人待ちだけどね」
私は天を仰いだ。
どうやら天界の運営は、思っていた以上に杜撰らしい。あいつも、今頃は天界のスタッフルームで「サーバー重すぎ、クソゲー!」とか叫びながらポテチでも食べてるに違いない。
「……やってられないわね」
私は列に並ぶのをやめ、女神から授かった(奪い取った)力を試すことにした。
目の前の空間に指を滑らせると、まるでデバッグメニューのようなウィンドウが浮かび上がる。
『権限:管理者(仮)』
『対象:勇者採用待ち行列』
私はその設定項目の中から【表示設定】を選び、設定値を【オン】から【レイヤー非表示】に書き換えた。
――シュンッ
目の前にいた数百人の勇者候補たちが、物理的にはそこにいるはずなのに、私の視界からは綺麗さっぱり消え去った。
「よし。これで最短ルートね」
私は「誰もいない」はずの道を、時折「うわっ、誰だ踏むなよ!」「痛っ、誰か通ったぞ!?」という透明な叫び声を無視しながら、悠然と王宮へと歩き出した。
「待ってなさいよ、王様。伝統的なおもてなし、期待してるわよ」
カツカツと靴音を響かせ、私は誰もいない(ように見える)レッドカーペットを突き進んでいった。
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