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月影 流詩亜

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第3話 勇者デフレと「多動力」の国王

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​ 王宮の謁見の間。そこは、物語の佳境に相応しい厳かな場所……であるはずだった。

 しかし、玉座に座っていたのは、黄金の王冠を斜めに被り、高級なシルクのTシャツに短パンというラフすぎる格好で、三枚の魔導タブレットを同時に操作している男だった。

​「……あー、次の方? 悪いけど、君のバリュー、何? ソリューション提示できる? できないなら、そこの『待ち』の列に戻ってくれるかな。僕、今、魔王軍とのM&A交渉で忙しいんだよね」

​ この男こそ、エルドラド王国の若き王。名をホーリエール・モンド・エルドラド。
 その口から飛び出すのは、異世界の伝統を木っ端微塵にするカタカナ語の嵐だった。

​「ちょ、ちょっと王様! 私は女神に選ばれた勇者……」

「勇者? それ、もうオワコンだよ。
 今、この世界、勇者の供給が飽和してデフレ起こしてるの。見てよ、このKPI(重要業績評価指標)」

​ ホーリエール王がタブレットをこちらに向ける。そこには「勇者一人あたりの時給:銅貨3枚(パンの耳付き)」という、悲惨な折れ線グラフが表示されていた。

​「君ら勇者ってさ、結局『魔王を倒す』っていうワンイシュー(単一の問題)しか見てないでしょ? 
 それ、スケーラビリティ(拡張性)がないんだよね。今のトレンドは『多動力』。
 魔王と戦いながら、ギルドのDX化を進めて、ついでにポーションのサブスクモデルを立ち上げる。それくらいのアジリティ(機敏さ)がないと、この激動の異世界じゃ生き残れないよ」

​ 呆然とする私をよそに、後ろの行列(レイヤー非表示を解除した)から他の勇者候補たちが不満を漏らす。

​「あの、王様! 伝説の聖剣を授けてくれるって話は……!」

「聖剣? 君、情弱(情報弱者)? 
 あんなの管理コスト高いだけでしょ。
 今は『クラウド聖剣』の時代。
 必要な時だけ定額制で攻撃力をダウンロードするの。あと、在庫は全部メ◌カリ的な闇市に出したよ。キャッシュフロー回さないといけないからね」

​ 勇者たちが「クラウド……?」「キャッシュフロー……?」と困惑し、その場で崩れ落ちる。

​「……あの、王様。私はそういう『伝統』的な勇者とは違うんです。私には、この世界の『設定』を書き換える力があって……」

​ 私がデバッグウィンドウを開くと、ホリエル王が初めてタブレットから目を離し、ニヤリと笑った。

​「ほう、バックエンドの特権階級(アドミン権限)持ちか。面白い。
 それ、プラットフォームとして独占できれば、魔王軍を敵対的買収して、この世界のGDP爆上げできるね。
 君、僕の秘書としてインターンから始めない? 給与はストックオプションで払うから」

​「……あ、結構です。私、自由にやりたいんで」

​ 私は王様の「意識高い系異世界経営論」に目眩を感じながら、一歩後ろに下がった。

 この国、魔王に滅ぼされる前に、王様の「イノベーション」で文化が崩壊しかけている気がする。

​「まあいいよ。君みたいな『はみ出し者』こそ、イノベーションの源泉だ。
 あっ、魔王城への道は『北』にあるけど、あそこ今は有料道路(サブスク制)だから。キャッシュレス決済のみね」

​ 私は、金貨をバラまきながら「既存のビジネスモデルをぶち壊せ!」と叫び始めた王様を無視し、全力で謁見の間を後にした。

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