4 / 6
第4話 【北】極のパンは、聖女の味(物理)
しおりを挟む 王城を後にし、ホーリエール王から「サブスク月額9,800円(税別)」で契約させられた有料道路を北へと進む。
魔王城への道中だというのに、道端には「勇者専用エナジードリンク」の自動販売機や、「魔王討伐あとのリゾート分譲地」の看板が並んでいて、ちっとも冒険気分が盛り上がらない。
「ちょっと、そこの泥棒女! 止まりなさいよ!」
背後から響いたのは、鈴を転がすような……いや、今は激怒で鈴を叩き割ったような金切り声だった。
振り返ると、そこには白地に金の刺繍が入った「いかにも」な聖女服を纏った少女が、ハァハァと息を切らして立っていた。
「……南条梨子さん?」
「そうよ! 貴女のせいで、私の異世界ライフは初日からサーバーダウン状態よ!
女神ルーシーアンがパニックになって、私の『超絶癒やしチート』を承認し忘れたまま、私をここに放り出したんだから!」
南条梨子は、怒りに任せて手近な石ころを私に投げつけてきた。
……聖女のくせに、攻撃手段が物理(投石)って。
「貴女が持っているその管理権限、私に返しなさい! それは本来、ヒロインである私のものなのよ! この設定泥棒!」
「設定泥棒って……。そもそもあいつが勝手に間違えたんでしょ。
それに、私はもうこの能力で『王道ファンタジーの伝統』を壊すって決めたの。悪いけど、あんたに返す気はないわ」
「なら、力ずくで奪うまでよ! くらえ、聖女の……聖女の……ええい、このデコピンをくらえーっ!」
チート能力を奪われた聖女は、涙目になりながら突進してきた。
必死すぎてちょっと可哀想だけど、付き合っていられない。私は空中にデバッグウィンドウを展開した。
「悪いけど、ちょっと大人しくしててもらうわね。
えーっと……対象:南条梨子。設定変更:『一時的に意識を飛ばす』……と」
しかし、背後から「またメンテ中かよクソゲー!」というルーシーアンの呪詛が聞こえた気がした瞬間、ウィンドウが激しくバグり始めた。
「わっ、ちょっと!? ラグが……! キー入力がズレる!」
私が慌てて入力したコマンドは、通信エラーによって無残に変換ミスを起こした。
『設定変更:南条梨子 ⇒ 北極のパン(冷凍)』
「えっ、パン!? ちょっ、ま……」
……ボフンッ!
派手なエフェクトと共に、目の前にいた美少女聖女が消えた。
代わりに地面に転がっていたのは、カチカチに凍りつき、表面にうっすらと霜が降りた「十勝産小豆使用・特選あんぱん」だった。
「……嘘でしょ」
私はそっと、凍った南条(あんぱん)を拾い上げた。
冷たい。凶器になりそうなほど硬い。
ウィンドウを確認すると、『持続時間:解凍されるまで』と表示されている。
「南条さん……あんた、まさかこんな形で『北』と関わることになるなんてね……」
私は「北極のパン」を懐にしまい、そのまま北の空を仰いだ。
勇者はデフレ、聖女は冷凍あんぱん。
この世界のバグ、もはや私一人の手には負えない気がしてきたけど……まあ、お腹が空いたら彼女(パン)を食べればいいか。
「あ、でも解凍したら元に戻るのよね? ……食べてる途中で戻られたら、ホラーどころじゃないわね」
私は、異世界の伝統的な「仲間との出会い」を物理的に凍結させたまま、再び歩き出した。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
悪役令嬢は手加減無しに復讐する
田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。
理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。
婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる