異世界転生は満員御礼、売り切れです

月影 流詩亜

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最終話 異世界転生は満員御礼、女神はBANされました

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​ 魔王城の玉座の間

 重厚な扉を蹴破って私がエントリーすると、そこには禍々しい漆黒の鎧を纏った魔王が……頭を抱えて、デスクで大量の書類をシュレッダーにかけていた。

​「ああ、もう無理! キャパオーバーだ! 
 誰だよ、今週だけで勇者を三ケタ送り込んできたやつは! 魔王城のトイレが詰まるだろ!」

​「……魔王様も大変ね。お疲れ様」

​ 私が声をかけると、魔王は涙目で顔を上げた。

「君も勇者か? 悪いが伝説の武器は先着順で全部壊されたし、経験値用のスライムも乱獲で絶滅危惧種だ。戦うなら来月の第2火曜日に予約を取ってくれ」

​「いいえ。私はこの世界の『設定』を整理しに来た管理者よ。あと、これ……お近づきの印に十勝産の冷凍あんぱん(南条梨子)」

​ 私がカチカチの聖女(パン)を差し出すと、魔王は「お、冷たくて美味しそうだ」と一瞬喜んだが、すぐに「いや、今はそんな場合じゃない!」と我に返った。

​「見てくれ、この天界からの通知を! 『ノルマ未達成につき、新規勇者を無制限にドロップします』だと? これじゃ魔王軍はただのブラック企業だよ!」

​「わかったわ。じゃあ、一緒にこの『伝統』を終わらせましょう」

​ 私は空中に巨大なデバッグウィンドウを展開した。
 権限をフル解放し、世界設定の根幹を書き換える。

​『全エリア共通設定:勇者・聖女の新規ログインを禁止』

『既存の転生者:一律「実家の自室」へ強制転送』

『特記事項:女神ルーシーアンの管理者権限を永久剥奪』

​「よし、これで――エンターキー、ッターン!」

​ その瞬間、世界が激しく震えた。

 王宮で「イノベーション!」と叫んでいたホーリエール王も、有料道路で自撮りしていた勇者たちも、光の粒子となって消えていく。

​「な、何をしたんだ!? 空が割れるぞ!」

​ 魔王が指差す先、空の割れ目から巨大なモニターが降りてきた。そこには、天界のスタッフルームで天使たちに羽交い締めにされているルーシーアンの姿が映し出されていた。

​『ぎゃああああああ! 何よこれ! 私のマイページが「アカウント凍結」になってるぅぅぅ! ちょっと、ログインできないんだけど! 課金データがぁぁ!』

​ ルーシーアンは鼻水を垂らしながら、真っ白な画面になったゲーム機を連打している。

​「あ、ルーシーアン。お疲れ様。貴女が待ち続けていたボーナス、全額没収だって。あと、貴女の担当宇宙、今さっき『サービス終了』の設定に変更しておいたから」

​『嘘でしょぉぉぉ! 私、これのために今期の限定ガチャ回したのよ! 返して! 私の石を、私のキラキラした女神ライフを返してぇぇぇ!』

​ 画面の向こうで、上司と思わしき主神が「ルーシー、君は今日から、北極圏のトナカイの世話係だ」と無慈悲に宣告した。

​『トナカイ!? ヤダヤダヤダ! トナカイはWi-Fi飛んでないでしょぉぉぉ!? リセット! 人生リセットさせてぇぇぇ!!』

​ ルーシーアンの阿鼻叫喚と共に、モニターが砂嵐になって消えた。

 静寂が訪れた魔王城で、私は魔王に向き直る。

​「さて、世界は救われたわね。定員オーバーも解消されたし」

​「ああ、助かったよ……。ところで、この冷凍パン、どうすればいい?」

​「あ、それ解凍したら聖女に戻るから、君の秘書にでもしてあげて。
  彼女、王道ヒロインになりたがってたから、ちょうどいいでしょ」

​ 私は、自分が消えゆく光に包まれるのを感じながら、最後に魔王城の入り口に大きな看板を立てた。


​【異世界転生は満員御礼につき、本日をもちまして営業終了いたしました。またの来世をお待ちしております】


​ ……こうして、私の異世界ライフは「初日に完結」という、Web小説の伝統を根底から覆す爆速スピードで幕を閉じた。


​ 目が覚めると、私は病院のベッドの上。

 口元には、なぜかパンの耳の味が残っていた。

​「……あ、スマホ。ルーシーアンの愚痴でもエッセイに書いて投稿してやろうかしら」

​ 私は、窓から見える北の空に向かって、ニヤリと不敵に笑った。


​ ── 完 ──


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