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第一章 浪速陰陽師、秋田美人にこける? ~秋田編 ~
第 1話 発端は「あきたこまち」
しおりを挟む「んふふ~」
舞鶴海里は、大阪某所、彼女の住むアパートのキッチンで上機嫌に鼻歌を歌っていた。
彼女の視線の先にあるのは、ほかほかと神々しい湯気を立てる炊飯器。その横には「あきたこまち」と書かれた米袋が誇らしげに置かれている。
ふるさと納税の返礼品として、つい昨日届いたばかりの新米だ。
「やっぱ新米はちゃうなぁ。この香りだけでご飯三杯はいけるわ」
炊き立ての、つややかに輝く米をボウルにあけ、海里は手に塩を馴染ませる。
具材は、ない。この米の持つポテンシャルを最大限に味わうには、シンプルな塩むすびが一番だ。
「ウチ特製の塩むすびや。こけるにもご馳走したるか」
「こける」とは、彼女の恋人、道頓堀こけるのことだ。女の子が大好きで、趣味はナンパ ただし成功率ゼロという、少々いや、かなり残念な少年である。
その時、まるで噂が聞こえたかのように、リビングのドアがだらしなく開いた。
「海里~、腹減ったわ~。なんか食うモンないん?」
こけるが、寝ぐせ頭のまま現れた。
「お、噂をすれば。ほれ、今日のご馳走や」
海里は、握りたてのほかほかのおにぎりを一つ、こけるに差し出した。
「お、おおきに。いただきまー」
こけるは差し出されたおにぎりを、何の気なしに口に放り込んだ。
次の瞬間、その目が見開かれる。
「なんやこれ!? うまっ! むちゃくちゃ美味いやないか!?」
こけるは目を白黒させながら、おにぎりを夢中で頬張る。
「米、あまっ! 噛めば噛むほど甘いわ! どないなってんねん、この米!」
「えっへん」
予想通りの反応に、海里は誇らしげに胸を張った。
「『あきたこまち』や。秋田県からのお届けモン。ふるさと納税、万歳やな!」
「あきたこまち……秋田県……」
おにぎりを咀嚼していたこけるの動きが、ピタリと止まる。
(あきたこまち……こまち……小野小町……?)
こけるの脳内で、ある方程式が猛スピードで組み立てられた。
(せや! 秋田県いうたら、日本三大美人の一つ、『秋田美人』の産地やないか!)
こけるの目に、それまでの食い意地とはまったく違う、ギラリとした野生の光が宿った。
彼は残っていたおにぎりを一気に口に詰め込むと、叫んだ。
「海里! 急用思い出したわ! ちょっと出かけてくる!」
「はっ? 急用?」
海里がジト目でこけるを見る。
「なんやねん、さっきまでだらだらしてた癖に。まだおにぎりあるで?」
「ええからええから! ほな!」
「あ、こら!」
海里の呆れた声を背中で聞きながら、こけるは玄関を飛び出し、大阪駅へと全力疾走を開始する。
その胸は、秋田の米ではなく、まだ見ぬ秋田美人への期待で膨れ上がっていた。
(待っててや、秋田のお姉さん! )
こけるの常套句『きれいなお姉さん、ボクとお茶しない ?』
昭和のナンパ文句を胸に、この凄腕の陰陽師(という裏の顔を持つ少年)は、かくも不純な動機で北の大地を目指すのであった。
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