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第四章:虚構の断罪者
第22話 それぞれの明日
しおりを挟む無罪判決から数日後、東京拘置所の重い扉が、30年ぶりに鈴木一郎のために開かれた。
眩しい初冬の日差しに目を細めながら、ゆっくりと歩み出てきた一郎を割れんばかりの拍手とカメラのフラッシュが迎えた。
傍らには、涙ながらも晴れやかな笑顔の母・トメ子さん、そして英里香、御門をはじめとする弁護団、支援者たちの姿があった。
「皆さん……本当に……ありがとうございました……」
一郎は、集まった報道陣や支援者たちに向かって、深々と頭を下げた。
声はまだ少し震えていたが、その表情には長いトンネルを抜けた安堵と未来への微かな希望が浮かんでいた。
「これからは……母と静かに、普通の生活を送りたいです……」
社会復帰への道は、決して平坦ではないだろう。
失われた30年という時間はあまりにも長く、社会は大きく様変わりした。
仕事、住まい、人間関係……乗り越えなければならない課題は山積みだ。
しかし、彼にはもう一人ではない。
トメ子さん、そして彼を支え続ける弁護団や支援者たちがいる。
英里香も、今後も彼らの生活をサポートしていくことを固く約束した。
この事件は、日本の司法制度に大きな一石を投じた。
テレビや新聞は連日、冤罪事件の構造的な問題点、杜撰な捜査や自白強要の危険性、そして何よりも証拠開示の重要性を報じた。
「今回の事件は、決して他人事ではありません。誰にでも起こりうることなのです」
テレビ局のインタビューに応じた英里香は、冷静に、しかし強い口調で訴えた。
「私たちは、この教訓を忘れてはなりません。
司法は、常に自らを省み、過ちを繰り返さないための改革を進めていく必要があります。
特に検察庁には、全ての証拠を公正に開示する義務があることを改めて強く求めたいと思います」
隣に座る御門も、長年の経験を持つベテラン弁護士として、法制度の改善に向けた具体的な提言を行った。
彼らの言葉は、多くの人々の共感を呼び、司法改革への議論を活発化させるきっかけとなった。
事件解決の祝賀会と、ささやかな打ち上げを兼ねた席が、都内某所の落ち着いた料亭で開かれた。
集まったのは、大江戸兄妹とそのパートナー、御門、そして由利凛、由利子、天音といった、今回の事件解決に尽力した面々だ。
「いやー、それにしても英里香、見事だったな! まるで法廷の女神ジャンヌ・ダルクみたいだったぜ!」
嵐が、上機嫌で妹を称賛する。
「そうそう、あの検察官を追い詰めていくところなんて、惚れ惚れしたよ」
巧も、珍しく手放しで褒めている。
「もう、お兄ちゃんたちったら、大袈裟よ」
英里香は照れながらも、嬉しそうだ。
「本当に、素晴らしいチームワークでしたわね」
ジャンヌが微笑む。
「ええ、それぞれの専門知識と個性が、見事に噛み合いました」
蝶子も同意する。
「これも全て、大江戸家の結束力の賜物ね」明日菜が誇らしげに言う。
「……まあ、一番の功労者は、妾の発明じゃけどな!」
突然、黙々と料理を食べていた由利凛が、大平原な胸を張って主張した。
「『記憶サルベージマシーン』がなければ、あの隠蔽の証拠は見つからんかったのじゃ! MVPは妾に決まっておる!」
「はあ ? 何言ってんだ、あれはただの偶然だろうが!」
嵐がすかさず反論する。
「偶然も実力のうちじゃ !
そもそも、巧兄ちゃんのDNA鑑定だって、妾の幸運ポーション(試作品)のおかげじゃぞ!」
「そんなわけないだろう!
あれで研究室が水浸しになったせいで、余計な手間が増えただけだ!」
巧が額に青筋を立てる。
「むきー! 認めぬか、この凡人どもめ!」
いつものように、由利凛と兄妹たちの間で、賑やかな(?)口論が始まった。
その様子を、御門と由利子、天音は、やれやれといった表情で、しかし微笑ましく見守っている。
この騒々しさ、この温かさ。
事件を乗り越え、彼らの絆はより一層深く、強くなっていた。
互いを認め合い、支え合い、時にはぶつかり合いながらも、共に困難に立ち向かっていく。
それが、彼らのスタイルなのだ。
英里香は、その輪の中心で、改めて自分が「弁護士・大江戸英里香」としてここにいることを実感していた。
大江戸グループの令嬢という肩書は、もはや彼女を縛る鎖ではない。
それは、彼女が持つ力の一つであり、それをどう使うかは自分次第なのだと、今は素直に受け入れられるようになっていた。
冤罪事件という重いテーマを扱った今回の経験は、英里香を弁護士として、そして一人の人間として、大きく成長させた。
法の力だけでは救えない人の心があること、それでも法を武器に理不尽と戦うことの尊さ、そして真実を諦めないことの重要性。
それらを、身をもって学んだ。
打ち上げが終わり、料亭の外に出ると、冷たく澄んだ冬の夜空が広がっていた。
「さあ、明日からまた新しい事件だ。休んでいる暇はないぞ、大江戸先生」
御門が、いつもの厳しい口調で英里香に声をかける。
「はい、所長!」英里香は力強く頷いた。
事務所に戻れば、また新たな依頼者たちが、それぞれの悩みや苦しみを抱えて待っているだろう。
企業間の紛争、相続問題、医療過誤……解決すべき問題は、この社会に山ほどある。
それでも、今の英里香の心に迷いはない。
困難に立ち向かう覚悟と、弱い立場の人々に寄り添う心を胸に、彼女はこれからも弁護士として走り続ける。
大江戸英里香の戦いは、まだ終わらない。
むしろ、本当の始まりは、これからなのかもしれない。
英里香は、夜空に輝く星を見上げ、静かに、しかし確かな決意を新たにするのだった。
彼女の新たな挑戦が始まる予感を胸に抱きながら。
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