【完結】ツンデレお嬢様弁護士は奮闘中! ~法と人情で悪を裁く! ~

月影 流詩亜

文字の大きさ
40 / 63
第六章:偽りの証明

第36話 真実への扉

しおりを挟む

 DNA再鑑定という決定的な証拠を手に、英里香は再審請求に向けて最後の準備を進めていた。
 残るピースは、元警部補・真壁吾郎の正式な証言だった。
 あの日、山奥の小屋で断片的に語られた言葉を、法廷で通用する形にする必要があった。

 英里香は再び、嵐と共に真壁のもとを訪れた。
 再鑑定で須田和夫の無実が科学的に証明されたこと、それでも検察が抵抗を続けていることを伝えると、真壁は長い沈黙の後、ついに重い口を開いた。

「……分かった。 話そう。 洗いざらい、全て話す。それが、ワシにできる唯一の償いだ」

 真壁は当時の捜査がいかに歪んでいたか、自白がどのように強要されたか、そして自身がどのようにして真実から目を背けてしまったかを、詳細に語り始めた。

 その内容は、英里香の想像を絶するほど、捜査機関の闇の深さを示すものだった。
 英里香は、その一つ一つの言葉を、震える手で陳述書にまとめていった。

 数日後、御門法律事務所は、多数の報道陣が詰めかける中、記者会見を開いた。
 英里香は、御門と共に会見場に立ち、毅然とした態度でマイクの前に進み出た。

「本日、私たちは、須田和夫氏の再審請求を東京高等裁判所に申し立てました」

英里香は、DNA再鑑定によって須田氏の無実が科学的に証明されたこと、当時の捜査がいかにずさんで、自白が強要された疑いが極めて強いこと、そして、元捜査幹部である真壁吾郎氏が当時の捜査の誤りを認める証言を行う用意があることを、よどみなく説明した。

「これは、単なる鑑定ミスではありません。
 自白偏重、科学への過信、そして組織的な隠蔽によって引き起こされた、重大な人権侵害であり、司法の汚点です。
 検察及び警察は、速やかに須田氏を釈放し、真摯に謝罪すると共に、全ての捜査資料を全面的に開示すべきです」

 英里香の厳しい口調での訴えは、フラッシュの閃光と共に、瞬く間に日本中に配信された。
 そして、運命の再審請求審が始まった。
 東京高等裁判所の法廷は、固唾を飲んで成り行きを見守る傍聴人で埋め尽くされていた。

 須田節子さんも支援者たちに支えられながら、傍聴席の一番前で祈るように証言台を見つめている。

 検察側は、DNA鑑定結果について「付着経緯不明」「汚染の可能性」などを主張し、あくまで須田和夫の有罪、自白の信用性を訴える姿勢を崩さない。

 しかし、その主張は、どこか精彩を欠いているように見えた。
 そして、ついにその時が来た。弁護側の証人として、真壁吾郎が証言台に立った。

 白髪が増え、やつれた様子の真壁だったが、その目には覚悟を決めた人間の強い光が宿っていた。

「証人、当時の捜査状況について、知る限りを述べてください」英里香は静かに尋ねた。

真壁は、一度深く息を吸い込み、語り始めた。

「…須田君の取り調べは、当初から彼を犯人と決めつけたものでした。
 我々は彼の知的障害につけ込み、連日連夜、恫喝まがいの尋問を繰り返しました。
『お前がやったんだろう』『楽になりたいだろう』と…。
 食事も睡眠もろくに与えず、正常な判断ができない状態に追い込んでいったのです」

法廷が、息をのむ音で静まり返る。

「自白とされるものは、我々捜査員が作り上げたストーリーを、彼に無理やり認めさせたものに過ぎません。
 彼のアリバイ証言も我々が圧力をかけて撤回させました」

 検察官が鋭い声で反対尋問に立つ。

 「証人は、なぜ今になってそのような証言をするのですか? 
 当時、異議を唱えなかったのはなぜですか?」

真壁は検察官を真っ直ぐに見据え、震える声で答えた。

「…怖かったからです。
 組織に逆らうことが……。
 そして、DNA鑑定という『科学のお墨付き』が出たことで、自分の疑問に蓋をしてしまった……。
 私は刑事として、人として、大きな過ちを犯しました。
 須田君と、そのご家族に取り返しのつかない苦痛を与えてしまった……」
真壁は言葉を詰まらせ、涙を流した。

 その魂からの告白は、法廷にいる全ての人の心を揺さぶった。

「さらに…」真壁は続けた。

「当時、『白いセダンに乗った不審な男』の目撃情報も複数寄せられていました。
 私は、その線を追うべきだと進言しましたが、DNA鑑定の結果が出た後、上層部の判断で、その捜査は打ち切られ、関連資料も闇に葬られたのです…」

 検察官は、真壁の証言の矛盾点を突こうと執拗に食い下がるが、具体的な証言と、それを裏付けるような当時の状況証拠(英里香たちが集めたもの)の前には、有効な反撃ができない。

 内部告発者の重い証言と、客観的な科学的証拠。検察側は、明らかに劣勢に立たされていた。

メディアは、この衝撃的な証言を連日トップニュースで報じた。

「元警部補、涙の告白!」

「DNA鑑定の罠、捜査の闇」

「冤罪・須田事件、再審は確実か」

 世論は完全に、須田和夫の無実と再審開始を支持する方向へと傾いていた。
 日本弁護士連合会や各人権団体も、全面的な支援体制を強化し、検察と司法に対する批判の声を強めた。

 再審請求審の審理が大詰めを迎えたある日の夕方、英里香が事務所で報告書を作成していると、ドアがノックされた。

「先生! お疲れ様です!」
入ってきたのは、玉井二郎刑事だった。

 その手には、湯気を立てている大きなカツ丼が二つ。

「これ! 先生の再審開始祈願の特製カツ丼です! 縁起物ですから、ぜひ!」
玉井刑事は満面の笑みでカツ丼を差し出した。

 英里香は、そのあまりにベタな発想に、思わず苦笑いを漏らした。

「…ありがとう、玉井刑事。気持ちは嬉しいわ」

「で、ですよね! よかったら、一緒にどうです? 景気づけに!」

「結構よ。それより、こんな所で油を売ってないで、仕事に戻ったらどう?」
英里香は冷静に、しかし少しだけ柔らかい口調で言った。

「は、はい! 押忍! 失礼します!」
玉井刑事は敬礼し、意気揚々と(しかし少し残念そうに)事務所を出ていった。

 英里香は、玉井刑事が置いていったカツ丼を見つめた。
 こんな時でも、変わらずに自分を気にかけてくれる人がいる。
 そして、法廷で勇気を持って真実を語ってくれた真壁さん、息子の無実を信じ続けた節子さん、支えてくれる仲間たち…。
 多くの人々の思いが、今、一つの方向へと向かっている。

 再審の扉は、もうすぐそこまで来ている。
 英里香は、カツ丼の湯気を見つめながら、固く拳を握りしめた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...