【完結】ツンデレお嬢様弁護士は奮闘中! ~法と人情で悪を裁く! ~

月影 流詩亜

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第八章:生存権の境界線

第55話 組織の壁、良心の声

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 運命の公判期日が訪れた。

 今日の法廷では、港南市福祉課の現役職員であり、内部告発者でもある石田幸子の証人尋問、そして問題の中心人物である山岡健一係長の尋問が行われる。

 真実が白日の下に晒される瞬間を一目見ようと、傍聴席は前回をさらに上回る人々で埋め尽くされ、裁判所の外まで報道陣が溢れていた。
 法廷内には、固唾を飲んで成り行きを見守る張り詰めた空気が満ちていた。

 証言台の横には、プライバシー保護のための白い衝立が設置された。
 やがて、衝立の向こうから、マイクを通した、やや機械的な変声処理が施された女性の声が響き始めた。石田幸子の尋問が始まったのだ。

「証人は、被告港南市役所福祉課に勤務し、山岡健一係長(当時)の部下として、生活保護業務に従事していた、ということで間違いありませんね?」
英里香は、落ち着いた声で尋問を開始した。

「……はい、そうです」
石田の声は、緊張と恐怖で細かく震えていた。

 英里香は、事前に石田から提供された内部資料(指示メモのコピーや音声データ)を示しながら、具体的な質問を重ねていった。

「このメモにある『斎藤案件:申請意思無しと判断』という指示は、山岡係長から出されたものですか ?」

「……はい。係長からです。『何度も来るような面倒な申請者は、諦めさせるのが一番手っ取り早い』と、いつもおっしゃっていました」

「この音声データには、『分割支給は本人の希望ということにしろ』という声が記録されていますが、これは?」

「……会議での、係長の指示です。実際には、希望なんて聞いていません。一方的に決められてい…ました」

「受領印についてお伺いします。
 福祉課では、利用者の認印を保管し、職員が代わりに受領簿に押印することが常態化していた、というのは事実ですか?」

「……はい。山岡係長の指示で…。『効率化のためだ』と言っていましたが、斎藤さんのように、本人が受け取っていない日に押されていることもありました…」

 石田は衝立の向こうで、時に言葉を詰まらせ、涙ぐみながらも、自身が見聞きした福祉課の異常な実態、山岡係長の独善的な指示、そして職員たちが逆らえずに不正に加担してしまっていた状況を、勇気を振り絞って証言した。

 市側代理人による反対尋問は、石田の記憶違いや、個人的な感情による誇張ではないかと、執拗にその信用性を攻撃しようとした。

 しかし、石田は英里香との事前の打ち合わせ通り、具体的な事実に基づいて、震えながらも必死に反論した。

「嘘ではありません… !
 私は、見てきたことを話しているだけです!」
その悲痛な叫びは、法廷にいる多くの人々の心を揺さぶった。

 次に証言台に立ったのは、山岡健一係長だった。彼は、ふてぶてしいとも取れる表情で椅子に座り、英里香を睨みつけた。

「山岡さん」
英里香は、鋭い視線で彼を捉え、尋問を開始した。

「あなたは、斎藤さんに対し、『怠けてるだけだろ』『家族に頼れ』といった暴言を浴びせ、申請を妨害した事実はありますか?」

「記憶にないね。指導の一環として、厳しいことを言ったかもしれないが、暴言なんてとんでもない」
山岡は、しらを切った。

「では、この音声データをお聞きください」
英里香は、先ほど石田が証言した会議の録音データを再生した。
 山岡自身の声で、申請者を見下し、違法な指示を出している内容が、法廷内に響き渡る。

 山岡の顔色が変わった。

「なっ…!これは、捏造だ!盗聴じゃないか!」

「捏造ではありません。
 これは、あなたの会議での発言記録です。
 この中であなたは『面倒な奴は諦めさせるのが一番』と言っていますね? 
 これは指導ですか? 
申請権の侵害、恫喝ではありませんか?」

「そ、それは、言葉のアヤだ!全体の文脈を見れば…!」

 英里香は、立て続けに石田の証言や内部資料を示し、山岡の主張の矛盾点を次々と突きつけた。

「記録上、斎藤さんは分割支給に『同意』したことになっていますが、石田さんは『一方的に決められた』と証言しています。どちらが真実ですか?」

「受領印の無断使用について、あなたは『効率化のため』と指示したのですか? 
それとも、部下が勝手にやったと?」

 追い詰められた山岡は、次第に冷静さを失い、声を荒げ始めた。

「あんな使えない部下の言うことなど信用できるか!」

「俺は、市民の税金を無駄遣いさせないために、必死でやってきたんだ !  何が悪い !」

「組織を守るためには、多少のことは仕方なかったんだ !」

 自己弁護と責任転嫁を繰り返し、逆上するその姿は、彼の倫理観の欠如と保身に走る醜さを法廷の全ての人々に晒け出す結果となった。

 この日の公判の様子は、夕方のニュースや翌日の新聞で、衝撃的な内容と共にトップ扱いで報じられた。

「内部告発者が語る、市役所の闇」

「係長、法廷で逆上」

「港南市の人権侵害、組織ぐるみか」

 報道を受け、港南市に対する批判の声は、かつてないほど高まった。
 市役所には抗議の電話やメールが殺到。

 SNSでは「#私も港南市で被害に遭いました」というハッシュタグがトレンド入りし、次々と同様の被害体験が告白され始めた。

 波紋は全国に広がり、他の自治体における生活保護行政のあり方にも、厳しい目が向けられ始めた。

 事態を重く見た湘浜県議会は、港南市に対する緊急調査委員会の設置を決定。
 国会でもこの問題が取り上げられ、厚生労働省も、ついに港南市に対する特別監査の実施を発表した。

 港南市長は、連日メディアや議会からの厳しい追及を受け、完全に窮地に立たされていた。

 その頃、東京の大江戸グループ中央研究所では、また別の「騒動」が起きていた。

「できたのじゃ!石田さんを守る、究極の防御システム!『絶対安全どこでもバリアー・ゆりりんフィールド』じゃ!」

 潮来由利凛が、怪しげなアンテナが付いた装置のスイッチを入れると、目に見えない力場が発生し、巧の研究室全体をすっぽりと覆ってしまった。

「これで、どんな物理的攻撃も、悪意ある電波もシャットアウトじゃ!」
 由利凛は得意満面だ。

 しかし、研究室の中から、巧の悲鳴が聞こえてきた。

「由利凛!いい加減にしろ !
これじゃあ、ドアも開かないし、電話も通じないじゃないか!
 学会のオンライン発表がもうすぐ始まるんだぞ!今すぐこれを解除しろ!」

「むむぅ…計算ミスじゃ…思ったより強力すぎたか…?解除スイッチは…えーっと……」

 由利凛が慌てて装置をいじくり回す横で、巧は完全に閉じ込められ、絶望的な表情でバリアーを叩いていた。

 法廷では真実の光が、組織の厚い壁を打ち破り始めていた。

 石田の勇気ある声と、英里香たちの粘り強い追及が港南市を、そして山岡係長を追い詰めていく。法廷の空気は、明らかに原告有利へと傾いていた。

 閉廷後、英里香は確かな手応えを感じながらも、気を引き締めた。
 追い詰められた相手が、どのような次の一手を打ってくるか分からない。
 そして、最終的にどのような形で決着をつけるのが斎藤さんにとって、そしてこの問題の根本的な解決にとって最善なのか。

 戦いは、最終局面を迎えようとしていた。

 英里香は、法廷の外で待っていた斎藤と高橋代表に力強く頷きかけると、次なる段階……和解交渉か、それとも判決か、を見据え、静かに思考を巡らせ始めた。
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