俺が信長で、幼馴染が吉乃と濃姫!? ~転生幼馴染トリオ、本能寺フラグ回避して戦国スローライフ目指します

月影 流詩亜

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第四章: 内なる敵、外からの脅威

第17話 父の死、そして葬儀の奇策

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 天文二十年、三月。

 那古野城に、重く、冷たい沈黙が落ちた。

 尾張の虎と恐れられた男、織田弾正忠信秀が流行り病の末、その激動の生涯に幕を下ろしたのだ。

 城内を包むのは悲しみというよりも、むしろ張り詰めた緊張感だった。
 巨大な重石が取り払われ、その下に隠されていた家中の歪みが、ぎしぎしと音を立てて軋み始めている。
 俺の傅役ふやくである平手政秀の爺さんは、訃報を聞くなりその場に崩れ落ち、心労から病床に伏してしまった。

 親父の死は、ある者たちにとっては待ち望んだ好機だった。
 弟・信行を擁立しようとする一派の動きは、あからさまなものへと変わった。

 信秀の亡骸が安置された広間。
 弔問に訪れた家臣たちが居並ぶ中、俺はいつも通りのうつけを装い、部屋の隅で無言で柱を眺めていた。
 そんな俺を一瞥いちべつだにせず、織田家宿老の林秀貞はやし ひでさだは、弟の信行の前に進み出た。

「勘十郎様。お悲しみ、お察し申し上げまする。
 なれど、今は弾正忠様亡き後、織田家を一つにまとめることが肝要。
 我ら家臣一同、聡明なる勘十郎様をこそ、次代の御屋形様としてお支えする所存にございます」

 その言葉に柴田勝家をはじめとする重臣たちが、これ見よがしに深く頷く。
 彼らは俺という存在を、もはや完全に無視していた。

 俺が次期当主であるという事実さえも、ないものとして扱っているのだ。

 信行は悲しみの色を浮かべながらも、その言葉にまんざらでもないといった表情で応える。

「林殿、柴田殿……かたじけない。なれど、家督は兄上が……」

「あの『大うつけ』に、この織田家は任せられませぬ!」

 林秀貞の声が、厳しく響き渡る。
 その視線は侮蔑の色を隠そうともせず、俺を射抜いた。

(……上等じゃねえか)

 俺は、うつけの仮面の下で静かに唇の端を吊り上げた。 お前らがそう来るなら、こっちにも考えがある。

 その夜。

 月明かりだけが頼りの東屋に、俺たち三人は集まっていた。
 昼間の出来事、そしてこれからの織田家について、俺は空と海に自分の考えを打ち明けた。

「親父の葬儀で、一世一代の大芝居を打つ」

 俺の言葉に、空が息を呑んだ。

「……大芝居って、何するつもりなの?」

「派手にやらかすのさ。誰もが『信長は終わった』と思うくらい、とんでもない奇行にな」

 俺はニヤリと笑ってみせた。

「親父の位牌に、抹香でもぶちまけてやろうかと思ってる」

「なっ……!?」

 空は絶句し、血相を変えて俺に詰め寄った。

「冗談でしょ!?  いくらなんでも、そんなこと……!
 お父様のお葬式なんだよ!? 不謹慎すぎる! 
そんなことしたら、本当にみんなから見放されちゃうよ!」

 涙目で訴える空。
 彼女の言うことは、現代日本の常識で考えれば、至極真っ当だ。
 俺だって、緑野大地としてなら絶対に同じことを言うだろう。

「これは、賭けなんだよ。常識や伝統ってやつに凝り固まって、表面しか見ようとしない奴ら。
 そして、俺の奇行の裏に何か意味があるんじゃないかと、本質を見抜こうとする意志のある奴ら。
 この葬儀で、家臣たちをふるいにかけるんだ」

 俺がそう言うと、今まで黙って話を聞いていた海が、静かに口を開いた。

「……面白い策です」

 その声は、いつも通り冷静だった。

「確かに、これは賭けですね。林秀貞のような旧臣たちは、貴方の行動を格好の口実として、ますます勘十郎様を担ぎ上げるでしょう。
 ですが、同時に彼らの浅慮も浮き彫りになる。
 一方で、貴方の真意を測りかね、どちらにつくべきか迷う者も出てくるはず」

 海は一度言葉を切り、俺の目を真っ直ぐに見据えた。

「リスクは計り知れません。
 失敗すれば、貴方の立場は完全に失われます。
 やるからには、中途半端な覚悟では許されません……殿、貴方に、その覚悟はおありですか?」

 海の言葉は、俺の心の一番深いところを抉えぐってきた。そうだ、これは遊びじゃない。
 俺の未来、いや、俺たち三人の未来がかかった大博打なのだ。

 議論は白熱し、三人の間には重い沈黙が流れた。

 親父の死、家臣たちの反目、そして、これから犯そうとしている大罪。
 その重圧に俺の精神はすり減り、疲労がどっと体を襲う。
 その時、沈黙を破ったのは空だった。

「もーっ!  難しい話ばっかりしてると頭疲れちゃう! 
とにかく、甘いものでも食べて元気出して!」

 そう言うと、彼女は懐から、布に包んだ小さな塊を取り出した。台所の侍女に頼んで、こっそり作ってきたらしい、少し不格好なきな粉餅だった。

「はい、大ちゃん、あーん!」

「いや、自分で食えるわ!」

 無理やり口に押し込まれたきな粉餅は不格好だけど、その味は妙に優しかった。

 呆れたようにそのやり取りを見ていた海が、ふっと息をつき、静かに茶器を取り出した。

「……頭をお使いになりすぎましたね。
少し、心を落ち着かせるお茶をどうぞ」

 彼女が点ててくれた茶は、心地よい香りを放ち、ささくれ立った俺の神経を穏やかに鎮めていく。

 激しく真っ直ぐな優しさで元気をくれる、太陽のような空。

 静かに深く寄り添い心を癒してくれる、月のような海。

 正反対の、だけれども、どちらも俺にとってかけがえのない優しさ。

 その二つの温かさに包まれ、俺の心に巣食っていた迷いが、すうっと消えていくのを感じた。

「……サンキュ、二人とも」

俺は、ぽつりと礼を言った。

「俺、やるよ。俺のやり方で、この織田家をまとめてみせる」

 俺の瞳に宿った決意を見て、空は不安そうな顔をしながらも、こくりと頷いた。
海は静かに微笑んで茶器を片付け始める。

 葬儀の日は、数日後に迫っている。

 俺は、歴史上「うつけ者」として最大の汚名を着ることになるだろう。
 だが、構わない。

 この二人さえ信じてくれるなら、俺はどんな汚名だって背負ってやる。

 俺は、東屋から見える那古野城の天守を静かに見据えた。

 嵐の前の静けさが、尾張の夜を支配していた。
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