俺が信長で、幼馴染が吉乃と濃姫!? ~転生幼馴染トリオ、本能寺フラグ回避して戦国スローライフ目指します

月影 流詩亜

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第四章: 内なる敵、外からの脅威

第18話 抹香事件、真意は誰が知る

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 父、信秀の葬儀が執り行われる万松寺ばんしょうじの境内は、しんと静まり返っていた。

 集まった織田家の家臣たちは皆、一様に硬い表情で祭壇を見つめている。 悲しみの色よりも、これから家がどうなるのかという、不安と探るような空気が場を支配していた。

 喪主代理として、弟の信行が祭壇の前に座っている。
信行は、いかにも悲嘆に暮れた殊勝な若君といった風情で時折、袖で目元を拭う仕草を見せた。
 その姿は家臣たちの同情を誘い、「やはり、御屋形様の跡を継ぐべきは勘十郎様だ ! 」という空気を、より一層強固なものにしていた。

 式が粛々と進み焼香の儀に移った、その時だった。
 寺の入り口がにわかに騒がしくなり、参列者の視線が一斉にそちらへ向かう。
そこに立っているのは俺、織田上総介信長だ。
 着ているのは、麻でできた袖の短い帷子かたびら。
 腰には縄で無造作に腰刀を吊るし、紫色の派手な組紐くみひもで袴をたくし上げている。
 場違いという言葉では生ぬるい、あまりにも常軌を逸したその姿に、誰もが言葉を失った。

「……上総介様」

 誰かが呆然と呟く。

 俺は、そんな周囲の視線など意にも介さず、大股でずかずかと祭壇へと進み出た。
 そして、香炉の前に置かれた抹香まっこうを無造作に鷲掴みにすると、こともあろうに父である信秀の位牌に向かって、叩きつけるように投げ放った。

 ザラァッ、という乾いた音と共に抹香が位牌に当たり無残に散らばる。

 一瞬の静寂。

 次の瞬間、万松寺は怒号と悲鳴に包まれた。

「な、何たる無礼をーーーっ!!」

 林秀貞が、顔を真っ赤にして立ち上がる。

「御屋形様への あまりの不孝! 
 これでは、父君の霊も浮かばれぬわ! 
 もう我慢なりませぬ! 
 かようなうつけ、我らが主君と仰ぐこと断じてできぬ!!」

 柴田勝家も怒りに肩を震わせ、今にも俺に掴みかからんばかりの形相だ。
 そして、病身を押して参列していた平手政秀は俺の暴挙を目の当たりにし、「お、おぉ……殿……」と呻いたかと思うと、そのまま力なく崩れ落ちた。

 信行派の者たちは怒りの表情を作りながらも、その目の奥に「これで決まった」という歓喜の色を浮かべている。

 俺は、そんな大混乱に陥った式場を冷ややかに一瞥すると、一言も発することなく背を向けて寺を後にした。
 その頃、参列者の女性たちが集まる一角で、一人の姫がわっと泣き崩れていた……空(吉乃)だった。

「あぁ……殿……。お父上が亡くなられた悲しみのあまり、とうとうお心が……。なんとおいたわしい……」

 彼女は本気で悲しんでいるようにしか見えない涙声で、周りの侍女たちにそう囁いた。
 その言葉は、「信長の奇行は、深い悲しみの裏返しである」という、新たな解釈の種として女たちの間に静かに、しかし確実に蒔かれていった。

 一方、正室の席に座る海(帰蝶)は、完璧な能面のような表情で、微動だにせずに祭壇を見つめていた。
 だが、その涼やかな瞳は家臣たちの反応を一人一人、値踏みするように観察していた。

 怒りに我を忘れる者、狼狽ろうばいする者、そして……少数ではあるが、俺の真意を測りかねるように眉根を寄せて思考する者。

 丹羽長秀、そして若手の前田利家……。

 海(帰蝶)は、その顔ぶれを記憶に深く刻みつけていた。

 その夜。
 城の自室で俺は一人、天井を眺めていた。

 昼間の興奮が冷め、ずしりとした疲労と自分が犯した行いの重さが肩にのしかかる。
家臣たちの怒号、政秀の絶望した顔。

(……これで、本当に良かったのか?)

 一瞬、心が揺らぐ。
 その時、そっと障子が開いた。

「……大ちゃん」

 入ってきたのは、空だった。
 空は俺を責めるでもなく、ただ黙って俺の隣に座った。

「……大変だったね」

 その一言と、隣にいてくれる温かさだけで俺のささくれ立った心が少しだけ救われる気がした。

 しばらくして、今度は海が静かに入室してきた。
海は俺たちの前に座ると、落ち着いた声で報告を始めた。

「計画通り林秀貞らは勝利を確信し、すっかり油断しております。 これで、今後の切り崩しがやりやすくなるでしょう。ですが……」

 海は、そこで言葉を切ると俺の目をじっと見つめた。

「平手様が、倒れられました。……殿の真意を理解できぬまま、心を痛められたご様子。
 殿の策は、時に味方さえも深く傷つけます。 そのことを、お忘れなきよう」

海の言葉は、俺の浮かれかけていた心に冷たい釘を打ち込んだ。

空の優しさが俺の心を温め、海の冷静さが俺の頭を冷やす。
ああ、そうだ。俺は一人じゃない。

「……分かってる。全部、俺が背負う」

 俺は、二人に向かって力強く頷いた。

 うつけの仮面の下で、俺たちの反撃の準備は静かに、そして着々と進み始めていた。

 林秀貞たちが勝利の酒に酔いしれている頃、俺たちの本当の戦いは、まだ始まったばかりなのだ。


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