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第三章:うつけの仮面の下で
第12話 姫様(側室)だって戦力です!
しおりを挟む【視点は空(吉乃)です。】
わたし、生駒吉乃こと元・藍井空が、この那古野城とかいうお城に来てから、しばらく経った。
側室っていう立場には、正直まだ全然納得いってないけど、大ちゃん(今は織田信長様、か)と海(帰蝶様、ね)と再会できて、三人で生き残るって目標ができたんだから、メソメソしてても始まらない!
というわけで、わたしはわたしの持ち場でできることを頑張ることにした。
それが、この「奥」と呼ばれる、女の人たちがたくさんいる場所での情報収集!
幸い、わたしの持ち前の明るさと人懐っこさ(自分で言うのもなんだけど!)は、この時代でもそこそこ通用するみたいだった。
侍女のお花ちゃんやお松ちゃんたちに、現代のお菓子……は作れないから、果物とか干菓子とかをこっそり分けたり、彼女たちの故郷の話や、ちょっとした悩み事を聞いたりしているうちに、少しずつだけど打ち解けてきた気がする。
「吉乃様は、本当に優しいお方ですね」
「それに、時々おっしゃることが面白いというか……」
うんうん、良い傾向!
この調子で、侍女さんたちの信頼をゲットして、情報ネットワークを築き上げるのだ!
おかげで、最近はいろんな噂話がわたしの耳にも入ってくるようになった。
「〇〇様(家臣の名前)は、最近羽振りがいいらしいですよ」とか、
「△△様(別の側室)は、殿のご寵愛が薄れたと嘆いておいででした」とか……中には、大ちゃんの情報も。
「殿が、また畑で作物のことで妙なことをおっしゃって、丹羽様を困らせていたとか」
「でも、若手の前田様は、殿のそういう型破りなところを慕っているみたいですよ?」
なるほどねー。大ちゃん、相変わらず「うつけ」やりつつ、色々試しては失敗してるみたい。
でも、ちゃんと見てくれてる人もいるんだ。
そういう情報は、ちゃんと大ちゃんに伝えてあげないとね!
週に一度、わたしたち三人は深夜にあの東屋で密会しているんだけど、それ以外でも、時々は偶然を装って大地と顔を合わせる機会を作っていた。
「やっほー、大ちゃん! …じゃなくて、殿! また何か変なもの作って家臣の人たち困らせてるんだって?」
庭で一人、考え事をしている(ように見える)大ちゃんを見つけて、わたしはわざと明るく声をかけた。
「う、うるさいな! あれは試作品だと言ってるだろう!」
大ちゃんは周りを気にして小声で反論してくるけど、その顔はちょっと疲れてるみたい。
やっぱり、一人で色々抱え込んでるんだ。
「まあまあ、失敗は成功のもとって言うじゃん? めげずに次、行ってみよー!」
わたしが現代のノリで励ますと、大地は一瞬きょとんとした後、ふっと表情を和らげた。
「……お前は、本当に変わらないな」
「当たり前でしょ! それより、何か困ってることないの ? わたしにできることなら、協力するよ ?」
「……ありがとう、空。お前と話してると、少しだけ気が楽になる」
よしよし。ちゃんと精神的支柱にもなれてるみたい! 大ちゃん、一人で頑張りすぎちゃうところがあるから、わたしと海でしっかり支えてあげないとね。
そんな感じで情報収集と大地へのメンタルケア(?)に励む毎日だけど、時々、無性に現代のものが恋しくなる。
特に食べ物! あの甘くて美味しいお菓子が食べたい!
「……そうだ! 作ってみればいいんだ!」
幸い、侍女さんたちとは仲良くなってきたし、台所もちょっとくらいなら借りられるかもしれない。
材料は……この時代にあるもので、なんとかなるかな ?
わたしは早速、お花ちゃんたちに相談して、台所を使わせてもらう許可をもらった。そして、米粉とか、きな粉とか、お砂糖(貴重品らしい!)、卵なんかを集めて、記憶を頼りにクッキー……は無理そうだから、蒸しパンみたいなものに挑戦してみることにした !
結果は……まあ、お察しの通り。
火加減が難しすぎて焦げたり、分量が適当すぎて妙に硬くなったり、形がいびつになったり……。
「うーん、なかなか難しい……」
粉まみれになって奮闘するわたしを見て、手伝ってくれていたお花ちゃんもお松ちゃんも苦笑い。
「姫様は、本当に面白いことをなさいますね」
「でも、なんだか楽しそうでございます」
出来上がった「何か」は、お世辞にも美味しいとは言えなかったけど、侍女さんたちは「初めてにしては上出来ですよ!」とか言って、喜んで(?)食べてくれた。
うん、これもコミュニケーションの一環だよね! 味はともかく、わたしの行動が、奥でのわたしの立場を少しずつユニークなものにしてくれている気がする。
よし、この調子 !
情報収集、大ちゃんへのサポート、そして時にはお菓子作り(?)。わたしなりに、この戦国時代でできることを見つけて、ちゃんと三人の役に立ってみせる! 海とも、もっと連携していかないとね!
不安がないわけじゃないけど、わたしは前を向く。姫様(側室)だって、立派な戦力なんだから!
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