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7 真実
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笹野さんがお茶とお菓子を運んで来た。
「お待たせしました」
「申し訳ありません。突然……」
「いいんですよ。ちょうど暇だったんですから。でも勇樹君のお姉さんとお話しできるなんてうれしいわ。さ、どうそ。これね、近くのケーキ屋さんに売ってるクッキーなんだけど、すごく美味しいの。アーモンドがたくさん入ってて。どうぞ食べてみて」
奈瑠はお茶を一口いただいてから尋ねた。
「ここは一人でやってらっしゃるんですか?」
「いえいえ。主人と二人で。主人は今日は結婚式の撮影に行ってるんです。最近は小さい頃から知ってる子たちが結婚する年頃になってきたもんだから、そういった依頼がけっこう多くて」
「笹野さんも、撮影を?」
「わたし? わたしはしません。カメラマンは主人だけ。わたしは助手をやったり、今日みたいに店番をやったり、あとはお金のこととかね」
笹野さんはカメラマンではない。そして人妻……。勇樹とは不倫の恋だったのだろうか。でもそれにしてはあまりに悪びれず、にこやかに奈瑠を招き入れるではないか。
「お姉さんがいるっていうのは、前に一度聞いたことがあったんです。勇樹君、うちによく遊びに来ていましたから。ご家族の話になったときに、うちは複雑だからもう何年も会ってないけど、姉が一人いるって教えてくれて。もちろん家庭の詳しい事情までは知りませんけどね。だからこの前お邪魔したときにお姉さんがいらして、ああまた会えたんだなって思って、わたしうれしかったんですよ」
笹野さんに姉だと紹介したのはそういうことだったのかと思った。ただ単に説明が面倒くさいからか、もしかしたら“いらぬ疑念”を抱かれないようにそう言ったのかと思っていたが、勇樹は知世にだけでなく笹野さんにも、自分には姉がいると話していたようだ。改めて、一緒に過ごした二年間のことをずっと忘れずにいてくれたんだなと、ちょっと感動する。
「勇樹君とはどれぐらい会っていなかったんですか?」
「十五年ぶりでした。再会したのも実はつい二、三ヶ月前なんです。それまでは全く連絡も取ってなくて、お互いどんな生活をしていたのかも知らなかったんです」
奈瑠からそれ以上は説明しなかった。本当は血の繋がりなどないことは、必要ならばいつか勇樹が話すだろう。それより、ここに遊びに来てカメラマンであるご主人と出会ったことが、勇樹が写真の世界に飛び込むきっかけだったのだろうか。そしてまさか、勇樹とご主人と笹野さんとは、不倫の三角関係……? でも笹野さんの表情や語り口からは、とても過去にそんなことがあったとは思えない。点と点は、まだ繋がらない。
「あの、どうして勇樹は、こちらによく遊びに来ていたんですか?」
「息子と友達だったんです。大学生の頃、アルバイト先のカフェで仲良くなって。大学は違うんですけど、しょっちゅう一緒に遊んでいました」
なんだそういうことか、と納得する。笹野さんは友達のお母さんだったようだ。どうりで穏やかでいられるわけだ。だが、ただの友達のお母さんなら、どうして勇樹は花を贈ったりしたのだろう。そもそもそれが、歳の差恋愛の相手かも、と思ってしまった理由の一つだ。とにかくあの日の勇樹の表情からすると、笹野さん本人か、あるいは家族の誰かとの間に何かあったことは間違いないだろう。それが何なのか、聞いていいものかわからないけれど、この際正直に話してみることにした。
「この前笹野さんがうちにいらしたあと、勇樹、なんだかいつもと様子が違っていたんです。でも何にも話してくれないし、わたし、ずっと気になっていて……。実は、笹野さんが『勇樹君は勇樹君の人生を生きてほしい』って言っていたの、聞こえちゃって……」
笹野さんは「そうでしたか……」と言って、手に持っていた湯呑みをテーブルに戻した。
「十五年ぶりに再会したばかりですものね。何も知らなくて当然よね。でも勇樹君、お姉さんにも話したがらないのね……」
そして「ちょっと待っててくださいね」と言うと席を立ち、店の奥に入って行った。
勇樹にいったい何があったというのだろう。
少しすると、笹野さんは写真立てを持って戻って来た。
「勇樹君とうちの息子はすごく仲が良かったって言ったでしょう? これ、大学生の頃のあの子たち。息子は隆治って言います」
差し出されたその写真には見覚えがあった。勇樹の部屋に貼ってあったスナップ写真と同じものだ。一人だけ冷静な顔の勇樹と、楽しそうに笑う男女。その女の子が知世であることはわかっていたけれど、もう一人の男の子が誰なのかは、今の今まで知らなかった。
「大学三年生の時の写真です。隆治が亡くなる、一年前」
思わず顔を上げて笹野さんを見た。
「亡くなったんです。バイク事故で。大学四年の、ちょうどこの季節でした」
なんと言葉を返したらいいかわからず、写真に視線を戻した。
「勇樹君、隆治が死んだのは自分のせいだって言って、すごく自分を責めていたんです。ごめんなさい、ごめんなさいってわたしたちの前で泣き崩れて」
「……どういう……ことなんですか?」
「お待たせしました」
「申し訳ありません。突然……」
「いいんですよ。ちょうど暇だったんですから。でも勇樹君のお姉さんとお話しできるなんてうれしいわ。さ、どうそ。これね、近くのケーキ屋さんに売ってるクッキーなんだけど、すごく美味しいの。アーモンドがたくさん入ってて。どうぞ食べてみて」
奈瑠はお茶を一口いただいてから尋ねた。
「ここは一人でやってらっしゃるんですか?」
「いえいえ。主人と二人で。主人は今日は結婚式の撮影に行ってるんです。最近は小さい頃から知ってる子たちが結婚する年頃になってきたもんだから、そういった依頼がけっこう多くて」
「笹野さんも、撮影を?」
「わたし? わたしはしません。カメラマンは主人だけ。わたしは助手をやったり、今日みたいに店番をやったり、あとはお金のこととかね」
笹野さんはカメラマンではない。そして人妻……。勇樹とは不倫の恋だったのだろうか。でもそれにしてはあまりに悪びれず、にこやかに奈瑠を招き入れるではないか。
「お姉さんがいるっていうのは、前に一度聞いたことがあったんです。勇樹君、うちによく遊びに来ていましたから。ご家族の話になったときに、うちは複雑だからもう何年も会ってないけど、姉が一人いるって教えてくれて。もちろん家庭の詳しい事情までは知りませんけどね。だからこの前お邪魔したときにお姉さんがいらして、ああまた会えたんだなって思って、わたしうれしかったんですよ」
笹野さんに姉だと紹介したのはそういうことだったのかと思った。ただ単に説明が面倒くさいからか、もしかしたら“いらぬ疑念”を抱かれないようにそう言ったのかと思っていたが、勇樹は知世にだけでなく笹野さんにも、自分には姉がいると話していたようだ。改めて、一緒に過ごした二年間のことをずっと忘れずにいてくれたんだなと、ちょっと感動する。
「勇樹君とはどれぐらい会っていなかったんですか?」
「十五年ぶりでした。再会したのも実はつい二、三ヶ月前なんです。それまでは全く連絡も取ってなくて、お互いどんな生活をしていたのかも知らなかったんです」
奈瑠からそれ以上は説明しなかった。本当は血の繋がりなどないことは、必要ならばいつか勇樹が話すだろう。それより、ここに遊びに来てカメラマンであるご主人と出会ったことが、勇樹が写真の世界に飛び込むきっかけだったのだろうか。そしてまさか、勇樹とご主人と笹野さんとは、不倫の三角関係……? でも笹野さんの表情や語り口からは、とても過去にそんなことがあったとは思えない。点と点は、まだ繋がらない。
「あの、どうして勇樹は、こちらによく遊びに来ていたんですか?」
「息子と友達だったんです。大学生の頃、アルバイト先のカフェで仲良くなって。大学は違うんですけど、しょっちゅう一緒に遊んでいました」
なんだそういうことか、と納得する。笹野さんは友達のお母さんだったようだ。どうりで穏やかでいられるわけだ。だが、ただの友達のお母さんなら、どうして勇樹は花を贈ったりしたのだろう。そもそもそれが、歳の差恋愛の相手かも、と思ってしまった理由の一つだ。とにかくあの日の勇樹の表情からすると、笹野さん本人か、あるいは家族の誰かとの間に何かあったことは間違いないだろう。それが何なのか、聞いていいものかわからないけれど、この際正直に話してみることにした。
「この前笹野さんがうちにいらしたあと、勇樹、なんだかいつもと様子が違っていたんです。でも何にも話してくれないし、わたし、ずっと気になっていて……。実は、笹野さんが『勇樹君は勇樹君の人生を生きてほしい』って言っていたの、聞こえちゃって……」
笹野さんは「そうでしたか……」と言って、手に持っていた湯呑みをテーブルに戻した。
「十五年ぶりに再会したばかりですものね。何も知らなくて当然よね。でも勇樹君、お姉さんにも話したがらないのね……」
そして「ちょっと待っててくださいね」と言うと席を立ち、店の奥に入って行った。
勇樹にいったい何があったというのだろう。
少しすると、笹野さんは写真立てを持って戻って来た。
「勇樹君とうちの息子はすごく仲が良かったって言ったでしょう? これ、大学生の頃のあの子たち。息子は隆治って言います」
差し出されたその写真には見覚えがあった。勇樹の部屋に貼ってあったスナップ写真と同じものだ。一人だけ冷静な顔の勇樹と、楽しそうに笑う男女。その女の子が知世であることはわかっていたけれど、もう一人の男の子が誰なのかは、今の今まで知らなかった。
「大学三年生の時の写真です。隆治が亡くなる、一年前」
思わず顔を上げて笹野さんを見た。
「亡くなったんです。バイク事故で。大学四年の、ちょうどこの季節でした」
なんと言葉を返したらいいかわからず、写真に視線を戻した。
「勇樹君、隆治が死んだのは自分のせいだって言って、すごく自分を責めていたんです。ごめんなさい、ごめんなさいってわたしたちの前で泣き崩れて」
「……どういう……ことなんですか?」
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