寒空の下、君を買う ~君が死ぬことは俺が許さない~

白浜 海

文字の大きさ
8 / 71

戻れぬ場所

しおりを挟む
「あ、あの! ここの家に住んでいたものです! まだ中に入っても大丈夫でしょうか?」

「あぁ、大丈夫だよ。けど、危なかっなねぇ。もうすぐ、取り壊しを始めてしまうところだったよ」

「すいません、ありがとうございます」

 あ、危なかった.......。俺とみゆが到着した頃には既に何人かのヘルメットを付けたおじさん達が家の前に集まっていた。けど.......みゆのことを疑っていた訳では無いけど本当に取り壊されるんだな.......。住んでいた訳でもない俺でさえ寂しいものがあるのだから、住んでいたみゆはどんな気持ちなのか俺には想像もつかなかった。

「はぁはぁ.......和哉くん走るの速すぎ.......」

「あっ、悪いな。けど、ギリギリ間に合ったみたいだぞ?」

 みゆが家の前にもう人がいると言った瞬間に俺はみゆをガン無視して置き去りにしてしまったのだ。

「そう.......それなら、早く済ませてしまいましょう」

 みゆは、最後に足を踏み入れることになるであろう自分の家にもかかわらず普段と変わらぬ足取りで家の中に入っていく。そのまま、真っ直ぐにみゆの部屋である場所まで歩いていくのだが.......

「本当に何も残ってないな.......」

 みゆの言っていた通り、家具などは物の見事にこの家から無くなっているのが分かる。学校から帰ってきて家がこんな状態になっていたら、俺なら人としてダメになってしまっていたかもしれないな.......。みゆがそうならなかったのはやっぱり、本人が前に言っていた通り、親に捨てられる覚悟をしていたからなんだろうな。

「どうしたの和哉くん? 顔が怖いよ」

「ん? あぁ、考え事だ」

 考えていたことが顔に出てしまっていたようだ。思っていることがそのまま、表情に現れてしまうのは俺の悪い癖なんだよな.......。

「それって私に関すること?」

「まぁ、そうだな」

 特に否定する理由もなかったので、正直に答えたのだが.......

「やっぱり、和哉くんってお人好しだね。けど、私は大丈夫だから」

「そうか.......」

「だから、しばらくここで待ってて」

「ん? どうしてだ?」

 みゆは、いったん部屋の扉を開けて中を確認したあと、扉を閉めてしまった。というか、前後の会話が噛み合ってなくないか? 大丈夫だからここで待ってろ? どういう意味だ?

「ここが私の部屋なの」

「だから?」

 そういうとみゆは俺の事をジトーっとした目で睨んでくる。なんでだ.......俺としては荷物持ちとして来たのだから中に入るのも自然だと思うのだが?

「普通、乙女の部屋にそう易々と入れないから」

「けど、荷物持ちとして俺は来たつもりなんだが? それとも、俺に見せられないくらい部屋の中が散らかってるのか?」

「はぁ.......和哉くんデリカシー無さすぎ。私はちゃんと自分の部屋は片付けてるから散らかってなんかない」

 ますます意味が分からない。別に部屋の中が散らかってる訳でもないなら別に入れてくれてもいいと思うのだが。

「はぁ.......和哉くん。私たちはここに何を取りに来たの?」

「それは、学校で必要なものだとか着替えとかだろ?」

「そこまで分かっててなんで分からないの? 馬鹿なの?」

 どうしてこんなに俺は罵倒されているんだ? 本気で意味がわからないのだが.......。

「着替えってことは下着もあるに決まってるでしょ。ここまではっきり言わせないでよ」 

「あっ、なるほど.......デリカシーなくてすいませんでした.......」

 これは俺が悪いわ.......そりゃ、着替えとか取りに来たんならそうなるよな.......。

「はぁ.......分かったならちょっと待ってて.......」

「.......はい」

 そう言って、部屋の中に入っていったみゆが出てきたのは15分ほどたった後であった。

「お待たせ」

「ん。それで荷物は?」

「これなんだけど.......」

「お、多いな.......」

「これでも、厳選はした」

 みゆが指さした方には、キャリーバッグが1つとダンボールが2つ置いてあった。数だけで言えば少ないのだが.......ダンボールがでかいのだ.......それも2つとも.......。

「学校の教科書とか、お気に入りの本とか入れてたらこうなったんだけど.......」

「待て、このダンボールの中身は全て教科書を含めて本なのか?」

「そうだけど?」

「お前.......どんだけ本読むんだよ.......」

「これでも本当に厳選した」

 まぁ、それは確かにそうなんであろう。みゆの部屋にある本棚は見たところ5つあり、本棚の中には本がまだまだ入っていたのだから。

「はぁ.......仕方ねぇな.......」

「え? 和哉くん、ダンボールを2つとも持って家まで戻る気なの?」

「それ以外に方法が無いんだから仕方ないだろ」

 そう言って俺は、ダンボーの上にダンボールを乗せて2つまとめて持ち上げたのだが.......

「これ.......やばい.......」

「そんなの、最初から分かってたでしょ? やっぱり、馬鹿なの?」

「うるせぇ。早く行くぞ」

「え? 本気で言ってるの? 教科書以外の本はもう置いていってもいいよ。本はまた買えばいいんだし」

「うるせぇ。このダンボールの中にある本はお前の思い出の詰まった本じゃねぇのか?」

 パッと見ではあるが、本棚の中にある本の冊数はまだ500冊はあるように見える。それだけの本の中から選んだということはここにあるのは何かしらの思い入れのある本ばかりなのであることは間違いないだろう。

「それは.......そうだけど.......」

「だったら、早く行くぞ。まじで早くしないと死ぬ.......」

「.......ありがとう」

 こうして俺とみゆは、みゆの家を出たあと、数度の休憩を挟みながら何とか家まで戻ってきたのだ。家を出た時に、みゆが寂しそうな顔をしていたのを俺は見逃さなかった。けど、今の俺にはどうしてやることも出来ない。だから、今の俺の家がみゆにとっても少しでも安心出来る場所にしてやりたいと心から思ったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…

senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。 地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。 クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。 彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。 しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。 悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。 ――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。 謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。 ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。 この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。 陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!

処理中です...