寒空の下、君を買う ~君が死ぬことは俺が許さない~

白浜 海

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鈍感

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 今日から短縮授業だったこともあり俺は学校が終わると直接バイト先であるコンビニに向かった。みゆも今日は本屋でのバイトがあるそうだが、1度家に帰ってお昼ご飯を食べてから行くらしい。実に計画的なバイトであると言えるだろう。それに比べて俺は、バイトをする前に菓子パンを2つほど購入してそれを食べて直ぐに働き始めていた。

 今日の俺のバイトシフトでは、13時から19時まであった。みゆは14時から19時半までのバイトらしいので必然的に俺の方が早く家に帰るので今日の晩御飯は何にしようかなどと考えながらもバイトに勤しみ帰宅する。俺が帰宅して30分程するとみゆも帰ってきた。

「ただいま」

「おかえり。今日の晩御飯は親子丼にしてみた」

「うん、美味しそうな匂いがする」

「すぐに用意するから待っててくれ」

「分かった」

 それから俺は白米の上に親子丼の具(親子の部分)を乗っけてテーブルに運んでいく。テーブルの上には既にみゆがお箸を用意してくれていたので、そのまま俺も座って親子丼を食べ始める。

「「いただきます」」

 うん。我ながら今日の親子丼の味付けは最高である。卵も固くなりすぎずフワフワとしていていい感じであった。みゆを見ても満足そうに食べてくれているので今日の親子丼は文句無しの100点満であるが、そんなことはどうでもいい。俺はこうしてみゆと話すタイミングをずっと待っていたのだから。

「なぁ、みゆ」

「ん? なに?」

「今日の朝、女子達に何を聞かれてたんだ?」

「.......いきなりどうしたの?」

 実は今日1日を通してずっと気になっていたのだ。朝のホームルームの後、みゆは恥ずかしそうに頬を赤らめるは女子達はキャーキャー騒ぐわでその事には十中八九、俺が関与しているのだから気にならないわけがないのだ。さっきは晩御飯のことを考えながらバイトに勤しんだなんて言ったが思考の9割はこのことを考えていたと言っても過言では無いくらいに気になっていたのだ。

「いや、あんだけ騒いでいたら気になるのも仕方ないだろ?」

「.......内緒」

「まさかとは思うが一緒に暮らしていることは言ってないよな.......?」

「大丈夫。それは言ってない」

 それを言っていないなら、俺に関することで俺に隠すようなことなんてあるのだろうか? そもそも、俺の事なんて関係ない話をしていたのか? いやけど.......朝のあのタイミングでだし俺に関する事は疑いようもない気もするんだよな.......分からん.......。

「一応聞いておきたいんだけど、おれに関することを話していたというのは間違いないよな? もしかして、全く俺に関係の無いことだったりするか?」

「ちゃんと和哉くんのことだから大丈夫だよ」

 ひとまず良かった.......これで俺に全く関係の無いことだったりしたらただの恥ずかしい自意識過剰野郎になるところだった.......。だとしたら、俺に関することで俺に言えないようなことってなんなんだろうか? 余計に気になるのだが.......。

「俺に関することで俺に言えないことって怖すぎるから教えて欲しいんだけど.......」

「今日の和哉くん何だかいつもよりグイグイくるね.......」

 それは仕方ないことだろう。基本的には教室で慎也以外の人とは話したりしないぼっちみたいな俺だが、周りからの俺の評価であったり、俺に関する話ならそれは気になるに決まっているのだから。俺に関係の無いことであるなら、全くもって興味が無いことの方が多いのだが.......。

「ヒントだけでも教えてくれよ」

「ヒントって.......謎解きじゃないんだから.......。けどまぁ、和哉くんは鈍感だしヒントの1つや2つで分かるわけも無いしいいよ」

「それは聞き捨てならないな。この前もさりげなく鈍感って言われた気がするが、俺は多分鋭い方だと思うぞ?」

「和哉くん.......さすがにそれは私怒るよ?」

「なんで!? むしろ、鈍感呼ばわりされてる俺が怒りたいまであるのだが」

 理不尽過ぎやしないだろうか? なんで俺が怒られるの? 別に鈍感という言葉が悪口では無いような気もしなくもないが、いつもみゆに呆れられたり馬鹿呼ばわりされたついでに鈍感と言われるせいか不思議なことに悪口にしか聞こえないのだ。なので、ここで俺は鈍感ではないことを分からせておく必要がある。

「じゃあ、ヒントね。私は聞かれたことに対して落ち着くって答えたの」

「落ち着く?」

 一体どんな質問がくれば落ち着くなんていう答えに辿り着くのだろうか? それも、俺に関することで.......。俺の家が落ち着くとかか? いや、一緒に暮らしいることはちゃんと言わなかったらしいので家の事では無いだろう。俺に関すること質問で答えが落ち着くとなると.......もしかして、俺と一緒にいることが落ち着くとか? 前にみゆにそんなことを言われたような気もするし、それを正直に答えたならみゆが恥ずかしがって頬を赤らめていたことにも納得出来るけど.......これが違ったらただの自惚れ野郎になってしまうのだが.......。

 そもそもとして、どんな質問がきたら俺といることが落ち着くなんていう答えになるのだろうか? 一緒に暮らしていることをいってあるなら、2人暮らしってどんな感じ? みたいな質問でいいのだろうがそれは言ってないらしいので違うだろう。うーん.......ありえないことだけど、俺のどこが好きなの? とか聞かれたらその答えでもいけるのだろうか? うん、これが自惚れなのは分かってるんだけどこれ以外にも思いつかないのも事実だし.......

「けど、言えるわけないよな.......もしかして俺の事好きなの? とか.......」

「思いっきり言っちゃってるけど?」

「だよなって.......まじで? .......声に出てた?」

「うん」

「.......ごめんなさい。完全に自惚れであり調子に乗った発言であったことを理解しているので、ここは何も聞かなかったことにして何も言わないでください.......」

「.............分かった」

「.......ありがとう」

 表面上はできるだけ冷静に見えるように取り繕ってはみたが、内心はありえないほどの羞恥で悶えまくっていた。いやもうだってありえないだろ。本人を前にして俺の事好きなの? って自惚れにも程がありすぎるだろう。どんだけナルシストなんだよそいつ。もうマジでダメだ.......さっきまであんなに美味しかった親子丼も味が分からなくなってしまったし.......。

「.......なんで分かったなんて言っちゃたんだろ。これじゃあ、私も和哉くんのことヘタレだなんて言えないじゃない.......普段は鈍感なくせになんで今に限って.......そういった不意打ちはダメなんだから......」

 みゆもボソボソと独り言を言ってるし.......俺にはみゆが何を言っているのかはボソボソしすぎて何も聞き取れないが、俺に聞こえないようにしてくれてるみゆの配慮に涙が溢れそうだ.......まぁ、みゆが何も言わなくても羞恥とかその他諸々な理由で涙が溢れそうなのだが.......。

 それからはお互いが何となく気まずいので何も話さずに普段よりも1時間以上も早く布団に入り就寝しようとするのだった。

「はぁ.......今日という日が全部夢だったらいいのに.......」

といった現実逃避故の早めの就寝でもあった。
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