寒空の下、君を買う ~君が死ぬことは俺が許さない~

白浜 海

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始まり

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 あぁ、ダメだ.......死ぬかと思った.......。誰だよジェットコースターなんて考えたやつ.......俺は絶対に許さんからな。恐らくジェットコースターを考えた人は、既に亡くなられてしまっているのだろうが俺はそれでも絶対に許さないと決めた。決めたったら決めたのだ!

「和哉くん.......ぎゃああって、ぎゃああって言ってた.......」

「.......笑いすぎだろ」

 みゆはジェットコースターを降りたらどころか、ジェットコースターに乗ってい時から今に至るまでずっと笑っていた。.......おのれジェットコースターめ。ジェットコースターを終えてなお俺をコケにするのか.......。絶対にお前になんか一生乗ってやらないからな!

「もしかして、拗ねてるの?」

「.......拗ねてない」

「思いっきり拗ねてるよね? もう笑わないし絶叫系に乗ろうなんて言わないから機嫌直して?」

 そう言ってみゆは少し背伸びをしながら俺の頭を撫でてくる。.......なんか、めっちゃ子供扱いをされている気がする。最近みゆは俺の事を子供っぽいとからかってくることが増えたがこれもその延長線なのだろうか? けどなんかこれ落ち着くって.......落ち着いちゃダメだろ。なんで俺は同級生に母性を感じてるんだ。下手したら犯罪だぞ?

「そろそろ撫でるのやめてもらっていいか? 普通に恥ずい」

「むぅ.......和哉くんがそう言うなら」

「それで、次は何に乗る?」

「私はなんでもいいよ?」

 そういうことなら何か仕返しの出来そうなアトラクションは無いものだろうか? このままみゆに馬鹿にされっぱなしというのも気に食わないし.......。そう思いながら園内マップを見て何があるかを確認する。

「なんか、和哉くん子供みたいなこと考えてない?」

「ん? 気のせいだろ」

「.......そう?」

「あぁ」

 さてさて、どうしたものかと.......お化け屋敷か。みゆってホラー系とか大丈夫なのだろうか? 女子って大抵怖くなかったとしてもこういったところに行くとキャーキャー喚くイメージがあるから分かんないんだよなぁ.......まぁ、みゆに普通の女子というものを当てはめていいものかも分からないし.......絶対にみゆって怖くてもキャーキャー喚いたりしたいだろうから。

「和哉くん。私の方をじっと見て今度はなにか失礼なこと考えてない?」

「いや、考えてないと思うぞ?」

「.......なんで疑問形なの。まぁ、いいや。それで、決まったの?」

「お化け屋敷とかどうだ?」

「残念だけど私、お化けとかは平気だよ?」

 完全に見透かされていた。それにやっぱり平気だったかぁ.......まぁ、そんな感じするしなぁ.......。けどまぁ、ここでやめたらそれこそ子供っぽいし俺が行きたかったということにして行くとしようか。どうせ、乗りたいアトラクションも特に無いしな。

「普通に俺が行ってみたいだけだ」

「また、ぎゃああってなっても知らないよ?」

「.......うるせぇ。俺はホラー系の映画とかも普通に見れるから大丈夫だよ」

「ふーん」

 それから俺とみゆはお化け屋敷へと向かう。ここのお化け屋敷は実際にあった病院を改装してお化け屋敷としているためすごく怖いと話だけは聞いたことがあったが、実際目の前にすると本当に少しだが怖そうだな.......。

「それじゃあ、行くか.......」

「和哉くん。本当にさっきみたいにぎゃああってなっても知らないよ?」

「さっきからしつこいぞってまさか、怖いのか?」

「.......そんなわけない」

「おやおやおや。どうしてそこで目を逸らすのですか?」

「.......うるさい。早く行く」

 そう言ってみゆは俺の手を取って、ずんずんとお化け屋敷の中に入っていく。このお化け屋敷は何人かのグループ事に屋敷内の順路に従って進んでいく形式らしく、そのための受付を屋敷に入ってすぐの受付で済ませる。そうするとカードが渡されそのカードにはメスと書いてあった。つまり、俺達はメスグループだそうだ。グループ名がアナウンスされたら所定の場所に集まるように言われた。

「メスって何?」

「性別の事じゃないか?」

『麻酔グループの皆さんは、オペ室に集合してください。繰り返します麻酔グループの皆さんは、オペ室に集合してください』

「メスって医療器具のメスなんだね.......」

「変なところで凝ってるな.......」

 オペ室というのは、先程言っていた所定の場所のことで受付のすぐ隣くらいにある扉の向こうがそうらしい。それから、30分ほどするとメスグループの集合がかけられた。オペ室に入るとそこには、俺とみゆを含め10人ほどのグループとなっていた。

「メスグループの皆さんですね? カードと引替えにそれぞれ、サージカルヘッドライトをお渡ししますので取りに来てください」

 サージカルヘッドライトというのは、よく医療系のドラマで手術するお医者様がおでこに付けているものであった。スタッフの人にメスと書かれたカードとサージカルヘッドライトを交換してもらい装着する。光量は足元を照らすとギリギリ見えるくらいに調節されていた。

「皆さんライトの装着は完了しましたか? 完了したということで説明させてもらいます.......」

 みたいな感じでスタッフからの説明があったが、要するに順路に従って進めだの、前の人を押すなということや走るなといったことだった。これだけ聞いていると、防災訓練を連想してしまう。

「最後にですが、この先で何があったとしてもそれは自己責任となりますのでここから先に進む方はそちらに同意したということになります。もし、今からでもやめたいと言う方がいらっしゃるのならそちらの出口から退場してください」

 何それ.......このお化け屋敷ってどんだけ怖いの? 何があったとしてもって何があるんだよ.......。

「誰も退場しないということでよろしいですか? .......よろしいみたいなのでそちらの扉から順路に従って進んでください」

 そう言って一礼したスタッフさんが扉を開けてくれるので進んでいく。俺とみゆは最後尾として前の人達について行くことにした。.......別にびびった訳ではないからな!

「ねぇ、和哉くん.......」

「.......なんだ?」

「手繋いで欲しい.......」

「やっぱり、怖かったのか?」

「.......和哉くんの意地悪」

 そうは言いつつも俺はみゆの手を握ってやる。別に俺が怖くてみゆの手を繋いだけではない。みゆがどうしてもと言うから繋いでやっただけだ。それ以上でもそれ以下でもないとだけ言っておく。.......本当だよ?

 それから、俺とみゆは最後尾を2人並んで前の人について行く。前の人が先に驚いてくれるので先に何かがあることは心構え出来たので俺としては正直そこまで怖くはなかったが、みゆはそういうわけにもいかないらしく手を繋ぐどころかガッツリ俺の腕にしがみついていた。そのまま、少しの間歩いていると

「なんだろ? って、きゃぁぁあああ!!!」

 みゆが下を向いたと思ったら急に叫び始めたのでなんだと思って下を見るとそこには生首が落ちていた.......。

「ぎゃぁぁぁぁああ!!!!」

 いや、これはダメだろ.......いくら模型といっても下を向いたら生首って.......恐らくみゆは何かが足に当たったと思って下を向いたらところそれは生首であったのだろう。そりゃ、叫んじゃうよ。俺も叫んじゃったし.......。

「なんだ、なんだって、うわぁぁぁあ!!」

「く、くびぃぃぃぃ!」

「もうやだぁぁぁ!!!」

 などと叫んで同じメスグループの人達はみんな逃げるように先に進んでいく。俺もそれに続こうとしたのだが、

「和哉くん.......どうしよう.......腰抜けちゃった.......」

「.......まじですか」

 まぁ、仕方ないとは思うけど何でよりによってこのタイミングなんだよ.......。完全に俺とみゆはメスグループの人達に置いていかれてしまったらしくこの場には俺とみゆしかいない。

「立てそうにないのか?」

「.......うん」

「はぁ.......仕方ねぇな」

 そう言って俺はみゆの前に背を向けてしゃがみこむ。下を見るとそこには生首が落ちていたが少しビクついたくらいで2度目になるとさすがに悲鳴をあげたりはしなかった。

「.......和哉くん何してるの?」

「何っておんぶだよ。このままずっとここにいる訳にもいかないだろ」

「.......ごめん。ありがとう」

 そう言って、みゆはおずおずといった感じではあるが俺の背中に身を預けてくれる。そのまま、俺は立ち上がるもそのあまりの軽さに驚く。それに何とは言わないが、女の子独特の柔らかさが背中に.......。

 それから俺はみゆを背中に抱えたまま、一刻も早くこのお化け屋敷から立ち去るべく歩き始めるのだが.......ことある事に悲鳴をあげてしまう俺。その度にビクビクと背中で反応してしまうみゆ。うん、みゆには申し訳ないとは思うけど顔を俺の背中に埋めて何も見ようとしないのはずるいのではないでしょうか? そんなこんなで何とか俺は出口まで辿り着くことが出来たのでそこでみゆを背中から下ろしてやる。

「もう立てそうか?」

「うん、大丈夫。ごめんね?」

「いや、いいよ。俺がお化け屋敷に行きたいって言い出したんだし.......」

 みゆを怖がらせるという当初の目的は達成したが、それ以上に俺が怖がってしまっていた.......。まじでホラー映画なんかとは比べものにならないくらい怖かった.......。

「とりあえず、どこかで休むか?」

「うん」

 お化け屋敷を出ると外はもう夕方であった。俺とみゆは少し歩いたところにあったベンチに並んで座る。.......なんか、アトラクションの後の度にベンチに座ってるな。まぁ、2つだけなんだけど.......。

「あと、乗れて1つくらいだけど何にする?」

「最後は観覧車に乗ってみたい」

「観覧車か.......それはいいな.......あれは、平穏そうだ」

「和哉くん、またぎゃああってなってたもんね」

「うるせぇ。腰を抜かしてたやつにだけは言われたくねぇ」

 俺とみゆは5分ほどベンチで休んだあと、観覧車の方へと向かった。もう夕方ということで、家族連れの人達が帰って人が減ったからか観覧車には10分ほど並ぶだけで乗ることができた。

「観覧車って思ったよりゆっくり上がって行くんだね」

「だなぁ。けど、これくらい平和な方がいいよ」

「こらなら、ぎゃああってならなさそうだもんね」

「.......まだ言うか」

「ふふ。和哉くんをからかうのは楽しいから」

 それから俺とみゆは観覧車が頂上付近に来るまでお互いに無言で観覧車の窓から見える外の景色を眺めていた。夕焼け空の街並みといった感じですごく綺麗に見えていた。

「もうすぐ頂上だね」

「だな」

「ねぇ、和哉くん」

「なんだ?」

「ありがとね」

 なんで、俺はお礼を言われているのだろうか? まださっきのお化け屋敷でのことを気にしているのか?

「なんのことだ?」

「全部だよ。さっきのお化け屋敷の時のことも含めて、私を家に連れ帰ってくれたり私のために倒れるまで働いてくれたことも全部についてのありがとうだよ」

「.......いきなりどうしたんだ?」

「和哉くんがいなかったら私、今頃死んじゃってたかもしれないから。けど、今私はこうして遊園地に来られている。全部、和哉くんのおかげだから」

 確かに初めて話しかけた日のみゆは今にも消えてしまいそうに見えたし、あのまま放っておくとみゆは死んでいてもおかしくないほど肉体的というより精神的に弱っていた。

「あれは、俺が勝手にしたことだから気にするな」

「それは無理だよ。私は和哉くんに救われちゃったんだから」

「.......そうか」

「だから、私が和哉くんのことを好きになっちゃうのも仕方ないんだよ」

「え?」

 今、みゆはなんて言ったんだ? 俺のことが好き? 本当にそう言ったのか? いやいやいや、落ち着け俺.......いや、落ち着けないだろ。

「ねぇ、和哉くん。和哉くんは私の事嫌い?」

「い、いや。そんなわけないだろ」

「うん、ありがとう。私も和哉くんのことは大好きだよ」

 大好きっか.......面と向かって、言われるとすごく恥ずかしいな.......。けど、俺はどうなのだろうか? そんなもの、考える必要はなかった。みゆに好きだと言われた瞬間、恥ずかしくもあったけど何よりもとても嬉しかったのだ。つまり、俺の中ではもう答えが出ていたのだろう.......まさか、みゆから告白されてから自分の気持ちに気付くことになるなんてな.......。はぁ、俺は自分で思っていた以上にみゆの言う通り子供だったのかもしれないな.......。

「.......俺もだよ」

「え?」

「俺もみゆのことは好きだって言ったんだよ」

「それじゃあ、」

「あぁ。良かったら俺と付き合ってくれないか?」

 これだけはみゆの口からは言わせてはいけないと思った。今更どの口が言ってんだ感は否めないが、それでもこれは男の俺が言うべきだと思ったのだ。

「はい。.......まさか、こんなに幸せに思える日が来るなんて.......私、和哉くんに出会えて本当に良かった」

 そう言って微笑むみゆは、俺がみゆのことを好きだということを自覚したからか観覧車の窓から見える夕焼け空や街並みなど比べものにならないほど美しかった。


 こうして、俺とみゆの恋人関係が始まったのだった。
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