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もったいない人
しおりを挟む昨日は実家から大慌てで帰ったあと、俺とみゆはすぐにバイトに向かった。バイトが終わって家に帰ると、そこにはまるで何事も無かったかのような今まで通りのみゆといつもの日常があった。
変化があったとするならば、みゆが俺の事を今まで以上により甘やかすといったものだろうか? 寝る時とかも出会った頃は布団をお互いに部屋の端に敷いて寝ていたのが、付き合うようになってからは布団をくっつけて寝るようになり昨日の夜には俺の腕に抱きつくようにして寝るようになってしまった。いやまぁ、嫌だってわけでないんだけど.......今までにも何回かはこういった感じのことはあった気もするけども慣れることなんてある訳もなく俺は中々寝付けずに結局寝れたのは外が少し明るくなってからであった。
それも、たまたまみゆが目を覚ましたのでとっさに寝たフリをしたら、みゆが俺の頭を撫でてくれたからそれに安心して寝れただなんて口が裂けても言えない。これはもう誰に言うでもなく墓まで持っていくべき案件である。
そして朝目が覚めるとそこには今まで通りの朝がそこにはあった。俺より先に起きていたみゆが朝ご飯の支度をしてくれていて、俺は寝ぼけた頭でみゆに言われるがままに学校の支度をする。そう、昨日もそうだったが今日も普通に平日なのだ。つまり、学校がある.......あってしまうのだ.......。
「みゆちゃん! もう大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ」
「そっかぁ。それなら良かったよ!」
そう言って武宮さんは俺の方を見る。き、気まずい.......。昨日は半ばというか、完全に俺の八つ当たりをしてしまったまま俺は学校を出たので非常に気まずいのだ.......。
「黒嶋くんもおはよう」
「お、おはようございます.......」
「私に何か言うことは?」
「昨日は本当にすいませんでした.......」
「よし! 許してあげる!」
「.......いいのか? 自分で言うのもなんだが中々最低なことをしたと思うんだが」
「最低なことをしたっていう自覚があるってことはそれだけ反省したということでしょ? それに、みゆちゃんと仲直りしてくれたんだったら私はもう何も言うことはないよ」
武宮さんはそう言って俺に笑いかけてくれる。こういった人の事を人間ができているというのだろう。本当に武宮さんは新聞部としての武宮さんでなければ本当にいい人だと改めて思う。新聞部としての武宮さんでなければだ。
「あっ、ちゃんと加賀くんとも話してあげてね?」
「なんで慎也なんだ?」
「昨日、黒嶋くんとお昼を食べようと思ったみたいで教室に来たからその時にみゆちゃんと黒嶋くんが少し喧嘩みたいになってるっぽいって言ったら.......」
『あのバカップルが喧嘩だと.......? 明日は地球が終わるんじゃないか.......?』
「って言って顔を真っ青にして心配していたから」
「それは俺達の心配なのか? それとも、地球の心配なのか?」
「両方じゃない?」
「スケールがでかすぎるだろ.......」
何で俺とみゆが喧嘩したら地球が終わっちゃうんだよ。それに俺はみゆと喧嘩なんてしたつもりは無い。あれは何というか.......喧嘩っぽいけど喧嘩じゃないみたいな? ただお互いの意見がすれ違ったというのが1番近い表現な気がする。
「けどまぁ、心配してたのは本当だから加賀くんとも話してあげてね」
「.......分かった」
「よろしい! というか、今更なんだけど2人はなんで喧嘩してたの?」
「それは昼休みでもいいか?」
「いいけど、どうして?」
「俺も正直なんて話したらいいのか分からないし、どうせ慎也にも同じ話をしないといけないだろうからまとめてしちゃいたい」
俺も整理出来ていないというのも本当だが本音はもちろん後者の方である。それに今回のことはそんなに話していて俺自身気持ちのいいものでは無いので、できるならあまり話したくないのだ。
「分かった。それじゃあ、今日の昼休みにね?」
「約束する」
「うん。それじゃあ、これ」
そう言って武宮さんは数冊のノートを手渡してくる。
「これは?」
「みゆちゃんも黒嶋くんも昨日休んでたんだからノートとか誰かに見せてもらわないと困るでしょ?」
「.......神がいる」
「伊織ちゃんありがとうね」
「うむ! 苦しゅうない!」
俺は数冊のノートをみゆに手渡して手元に残ったノートのページを何となくめくって見るとそこにはきれいな字で書かれた新聞のネタがあった。それも俺とみゆに関するネタだったみたいなのだが.......
「武宮さん?」
「ん? そんな怖い顔してどうしちゃったの?」
「これ」
そう言って俺は開いたノートのページを武宮さんに見せると武宮さんはノートを俺の手からひったくると、
「これはあくまでネタであって記事にするつもりなんかは無いので許してください!」
ノートには俺とみゆに関するネタがたくさん書かれていたがそのどれもが身に覚えのないものばかりであった。なんなら、ノートの端にこうあって欲しいとか書いてあったし。はぁ.......新聞部としての武宮さんでなければ本当にいい人なのにな.......もったいないな.......。そう思わずにはいられない俺であったのだった。
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