寒空の下、君を買う ~君が死ぬことは俺が許さない~

白浜 海

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お守り

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「やっと起きてきたのかい」

「おはよう」

「何がおはようだいまったく.......早く座りな」

「うん」

 それからしばらくするとばあちゃんが作ってくれていたお昼ご飯をテーブルまで運んできてくれる。時間的にはお昼ご飯というよりはおやつといった時間帯だが今日のお昼ご飯はガッツリ焼肉定食のようなものであった。

「彼女さんも食べるだろう?」

「いただきます」

「あれ? そう言えばじいちゃんは?」

「あぁ、彼女さんが昨日の夜に家の前をウロウロしているのを見つけたのはじいさんでねぇ。それから彼女さんの話を聞くなり和哉のとこ行って話をしてくるだとか言うもんだから、もう夜だから明日の朝にしんさいって言ったら今日の朝、和哉のところに行ってくるだとか言って出ていってからそれっきりだねぇ」

「.......俺会ってないぞ? じいちゃんはどこに行ったんだ?」

「ばあちゃんが知るわけないだろう。まっ、あのじいさんの事だしそのうち帰ってくるんじゃないかい?」

 まさか迷子とかになってないよな.......。さすがにそれは無いとは思いたいが.......じいちゃんも70歳を超えているしさすがにその歳で迷子とかないよな?

「さすがに迷子とかじゃないよな?」

「じいさんだからねぇ。まだボケちゃいないけどじいさんだからねぇ」

 なんで、ばあちゃんはじいさんだからねぇをリピートしたんだ? それって要するにじいちゃんなら迷子になりかねないって言いたいのか? 

「俺、今から帰って探してきた方がいいか?」

「いんや、その必要は無いだろうよ。ばあちゃんの予想じゃそろそろ帰ってくるだろうしねぇ」

「いや、予想って」

「ばあさん、今帰ったぞぉ」

 そんな声が玄関の方から聞こえてくる。ばあちゃんは未来予知でもできるのだろうか? こんな言ったそばから帰ってくるなんて.......。

「ただいまってなんで和哉がおるんじゃ?」

「おかえりって、みゆのことについて相談しようと思って帰ってきてたんだよ」

「あぁ、そうじゃ! そのことについて話が.......」

 そう言ってじいちゃんは俺を見たあとに俺の横に座るみゆに視線を移して最後に俺の前に座っていたばあちゃんの方を見ると、

「なんじゃい。もう解決したのか?」

「まぁ、解決したかな」

「それなら、もういいわい」

「じいちゃんは朝、家を出て俺の家に向かってたんだろ? こんな時間まで何してたんだ?」

「歩いておった」

「...................」

 歩いておったって要するに迷子ってことか? 朝からっていったいどれだけ歩いたって言うんだよ.......。

「いやぁ、あの電車っちゅうもんはどうにも分からんでなぁ。それならもう歩いていこうと思ったのじゃが、ワシもいい歳じゃからのぉ。さすがにしんどくなって帰ってきてもうたわい」

「電車で片道1時間かかるのを歩いて行こうとしたのか.......」

「はぁ.......どうせそんなこったろうと思ったよう。じいさんも自分の歳を考えてもう少し行動しんさいな」

「じゃな」

 なんというか.......本当に元気なじいちゃんだな.......。ん? そう言えばみゆって荷物とかって全部家に置いてたよな? ここまでどうやって.......

「なぁ、みゆ」

「なに?」

「ここまでどうやって来たんだ?」

「歩いてだけど?」

「.......まじですか」

 まぁ、そうだよな.......。荷物を全部家に置いてあるってことは財布も家ってことだもんな.......。

「よく迷わなかったな」

「線路に沿って歩いていけば迷うわけないでしょ?」

「それもそうだけども.......って、ばあちゃんさっき10万円の入った封筒持ってたよな?」

「彼女さんから渡されたからねぇ」

「何で10万円あるのに電車で行かなかったんだ? というか、何でそれは持ってたんだ?」

 本当にどうして持っていたのだろうか? 家を飛び出す時にとっさに持っていくような素振りなんてなかったから最初から持っていたっていうことだよな? 

「.......お守りだから」

「お守り?」

「この10万円は私にとってお守りなの。この10万円で和哉くんは私を買ってくれた。この10万円がなかったら今の私はどうなっていたか分からなかっからね」

「いや、別にその10万円があってもなくても俺のことだし無茶苦茶なこと言ってどうにかしようとしてたと思うぞ?」

「うん、分かってる。和哉くんは優しいからね。けど、結果だけ見るとこの10万円は私を助けてくれた。和哉くんと一緒に住むきっかけとなってくれたから。だから、ずっとお守りとしてできるだけ肌身離さず持つようにしてたの」

「みゆ.......」

 そんなに大切しているものを差し出してまで俺に修学旅行に行って欲しかったっていうのか.......。どうしてそんなに.......。

「和哉。あんた何かとんでもない勘違いをしていないかい?」

「?」

「あんたの事だからどうせ、どうして俺にそこまでま修学旅行に行って欲しいと思っているのかとか思ってるんじゃないかい?」

「.......そうだけど」

「.......和哉くんの馬鹿」

 えっ? 今回の話ってそういう話だったんじゃないの? というか、ばあちゃん。すごいナチュラルに人の思考を読むのはやめて欲しい。何が恐ろしいかってそれがあってることなんだよな.......。

「私は和哉くんに修学旅行に行って欲しいんじゃないの。私が和哉くんと一緒に修学旅行に行きたいの。和哉くんとの思い出を作りたいの。ここで私が何もしなければ私は絶対に後悔すると思ったから私は動いたんだよ?」

「!?」

「この10万円の入った封筒は私にとってはお守りだけどお金だから。10万円を稼ごうと思えば1ヶ月あれば稼げるけど、和哉くんとの思い出はそうはいかないから。だから、私は10万円より和哉くんとの思い出を優先したの」

「まったく.......みゆはすごいな.......」

 口には出せないが本当に俺はみゆに愛されているらしい。もちろん俺もみゆを愛している。けど、みゆが俺に対する愛よりかは悲しいことに小さいのかもしれない。だから、俺はそれに追いつく.......いや、追い越してしまうくらいみゆのことを愛そう。

「ばあちゃん」

「分かってるよ」

 そう言ってばあちゃんは服のポケットから10万円の入った封筒を取り出してみゆに差し出す。

「これは彼女さんが持ってなさい。修学旅行代くらいならばあちゃん達が出しておく。あんなでもばあちゃんの孫だし息子なんだから。息子のためにお金を使うということは親の義務だからね」

「.......はい。ありがとうございます」

「そういう事だから和哉。あんたは困ったことがあったらすぐにばあちゃんに言うんだよ? 今回のことでよく分かっただろうけどもう2度と彼女さんを悲しませるんじゃないよ」

「分かってる」

「ならいい。あんた達は明日からも学校があるんだろう? 今日はもう帰りな」

「「あっ」」

 そうだった。今日って普通に平日でした.......。というか、

「やっべ! 今日18時からバイトだ」

「私もだ」

 それから俺とみゆは大慌てで俺の実家を後にするのだった。

「まったく.......騒がしい子達だねぇ.......」

「まったくじゃな.......」

 ばあちゃん達はそんな大慌てで駅の方へと走り去っていく俺とみゆの背中が見えなくなるまでずっと微笑ましく見守っていたのであった。
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