世界(ところ)、異(かわ)れば片魔神

緋野 真人

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異世界のリアル

異世界のリアル

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「おっ、おかげで助かりました、サラギナーニア様」

 海賊の襲撃は一段落を迎え、胸を撫で下ろしたドワネ族の船員たちは、コータの前へと集まり、一様に礼とを述べると共にその場へ平伏する。

「いやいや、丁度、上空うえを通りかかってたし、放ってはおけない状況だったしね」

 コータは謙遜も込め、照れ臭そうにポリポリとこめかみを掻く。

「助けてみたら、これから世話になる皆が乗ってる船となっちゃあ、返って助けに来れて良かったと思ってるよ」


 ――おぉぉぉぉ……


 コータが笑みも交え、ホッとした様でそう言うと、船底から出て来た臣下として派遣された皆から、どよめく様な歓声が上がった…

「――へへっ!、ほら言ったとおりだろ?、コータの旦那は、気持ち自体がでっけぇ御方だってよ!」

「うんっ!、魔神様をお身体に宿しているからって、怖い御人なんかじゃなく、とってもお優しいんだからっ!」

 その場に居た、ニーナとヤネスは立ち上がり、皆を煽る『サクラ』よろしくな声を上げた。


 ――臣下の全員が、ニーナたちの様に目通りが済んである者ばかりではない。

 恐ろしい魔神を身の内に宿す異界人――特に、これから主として尊ぶべきその人が、未知な印象が強く、終いには好色だとかの尾ひれが沢山付いている『異界人』という点は、不安を膨らます要因に充分であった。

 そんな存在であるコータが、自分たちの危機に際して有無も無く真っ先に駆け付けて一線に立って戦い、事が終わった後の第一声が自分たちを守れた事への安堵だった事は、驚きの方が先立っても当然かもしれない。


「――でも、コータ様ぁ、私は、ちょっと怒ってますよぉ~っ?

 ニーナにだけ、先に剣を一振り造っておく事を頼んでるなんてぇ……私にだって、何か依頼を下されば良かったのにぃ」

 ――と、ヤネスは唇を尖らせながら悔しそうに呟き、ワナワナと指を動かしてみせる。

「へへんっ!、アレはお目通りの時に用意した献上品を改良したモノ!、何も用意してなかったていう、お前が依頼を貰えるワケ無いだろぉ~?」

 今度はニーナが得意気に、胸を突き出してヤネスに詰め寄って行く。

「むむむ……お目通りの時は、しょっ!、処女を、ご献上しなきゃと思ってたから、それどころじゃ……」

 当時を思い出したヤネスはそこまでを呟くと、恥ずかしそうに俯いてコータから顔を背ける。

「!!!、ちょっと待ってっ!、ソコで区切るのと、その態度は大いに誤解を招くからっ!」

 コータは慌てて二人の間を制し、困った様子で自分の後ろへと退かせる。


「ぐふふふ……♪、主人公の気を惹こうと手柄を争う、ロリ系ヒロインと姉御系ヒロイン――これぞ正に、チーレム展開の王道だよねぇ」

 ――と、次に下卑た笑い声と共に現れたのは、言わずもがなシンジと……

「船底で震えてたのが一変したね……戦闘が終わった途端に」

 ――その様子を顔を引き攣りながら、彼の変貌に呆れているのはチュンファだった。

「それに観たトコロでは、従順系と癒し系も加わってる様じゃないかぁ♪、コータは順調に『チーレム道』を邁進している様だね♪、関心、関心♪」

 シンジは周辺で任に勤しんでいる、アイリスやクレアの姿にも目を細め、腕を組んで幾度か頷いた。

「フォローが大変なのは、誰のせいだと思ってんだよ!

 現世人が好色ってウワサの元凶は、お前がハーレムの構築が大事だとかの妄言を、4族の王たちに吹き込んだせいじゃねぇかぁ!」

 コータは頭を抱え、無責任甚だしいシンジに愚痴を溢す。

「またまたぁ♪、傍から見たら、チーレム生活を満喫してるように見えるけど?

 そうやってヒロインたちを拒んで『見せてる』トコとか、ピンチに遅れて助けに来る辺りも、理想的な主人公に収まっている証拠じゃないかぁ?」

「ぐぐぐ……イマイチ、反論出来ない状況にしちゃってるのが、実に悔しい……」

 シンジが告げる的を得た感想に、認めざる負えないコータは悔し気に歯軋りをする。

「――でも、コータさんの言うとおりだよ。

 今回の襲撃だって、そのハーレム化構想に端を発してるみたいなんだし」

 ――と、チュンファはそう言うと、捕縛されて甲板上に座らされている、例の女海賊とその子分たちへと目線を向ける。

「コータさんのために派遣された優秀な人材や、コータさんにその気はないらしいけど、その……エッチな事もOKな人として集められたって噂の皆を、捕まえて奴隷商人に売り渡すのが、この海賊たちの目的だったんだからね」

 チュンファは嫌悪をした表情を海賊たち向け、口にしてしまった事自体を恥じる様に、大きく唾を呑み込んだ。

「話には聞いてたけど、こうして立ち会う事になると実感しちまうな……今居る世界が、奴隷や人身売買が当たり前な世界だって事を」

 コータも唇を噛み締め、目の前にぶら下がったこの異世界のリアルに触れ、彼は背筋に戦慄を覚えていた。


 以前にも触れたがこの世界――特にヒュマドの国では、奴隷制度を認め……いや、むしろ率先して推奨されていて、ある意味では一つの文化として根付いているのが実態である。


『富める者は、持たざる者を養うを徳とし、持たざる者は、その富める者に尽くす事を徳とすべし』

 ――という思想的価値観が、このクートフィリアには古くからあり、それが古代の頃は富める者=魔力の扱いに長けたエルフィ族、持たざる者=魔力に乏しい他の3種族という関係性の礎となっていた。

 時が進むに因り、その価値観は瓦解して行くのだが、エルフィやヒュマドではその動きが鈍く、世襲制の王政や貴族を頂に置く身分制度が残っているのはその名残りで、エルフィでは比較的早く、奴隷制度自体は廃される事とはなったが、貴族の一部では伝統的に、その価値観を継承する意図で、孤児や恵まれない身の上の者を臣下として迎え入れ、互いに家族同然に養い、尽くし合うという風習がある。

 コータの下に派遣された者たちを、同じくそう呼称する事は、この施策の主導が、エルフィの貴族であるミレーヌの発案であるからと言えよう。

 コータも半月程の迎賓館での暮らしで、幾人もの奴隷に当たる身分の人と接する事があったが、現世で学んだ様な悲惨なイメージを連想する事も『ほぼ』無かった。

『ほぼ』の部分は――まあ、アイリスとアルムの件ぐらいであろう。


「――この辺りの海は、一応ヒュマドの影響下にあるから、こーいう事も絡んで来る覚悟をしとかないと困りますよ?、新しい領主様なんだから」

「この世界で育って、今じゃ旅して周ってもいるチュンファちゃんは、もう現世人の感覚じゃあねぇんだな……」

 この世界の現実に、改めて戸惑っているコータに向け、チュンファが平然と送った言葉は、彼にそれを突き付けるに充分な重さがあったのだった。


「――で、海賊このものたちの処遇、如何なさいますか?、コータ様」

 ――と、そこに、海賊たちに睨みを光らせているリンダの背から、アイリスが飛び降りながらそう言って来た。

「どうするって……果たして、どうしたモンかねぇ?」

 コータが腕を組み、そうして困った様子で居ると……

「――全部、船長のアタシが企んで命じたモンだ、他のモンに罪は無ぇ。

 アタシを煮るなり焼くなり殺すなり、なんなら、てめぇの色奴隷にでもするなり、勝手にしておくれよ」

「いやっ!、コレは俺たちが仕組んだ事だっ!、船長の剣の腕を借りれば一儲け出来るって!」

 当の海賊たちから、そんな反する二つの言い分が飛び交った。

「どっちにしても、皆を奴隷に売り飛ばそうとしてた事は認めるワケか……」

 コータは何やら残念そうに、海賊たちの顔を見話してそう呟く。

「――いやっ!、売り飛ばすのは男の職人マイト農夫ファバンだけだ!

 サラギナーニアの色奴隷にされちまいそうな若い女は、故郷に近い港まで……」

 その時、一人の若い海賊が、コータの呟きに反射する様に、本当の目的を匂わせた供述をし始める。

「ちっ……余計な事を言うんじゃないよぉ!!」

「――船長は、船長はっ!、クートフィリア中の女を、助平な異界人の生贄みてぇに捧げようとしてる、本土内地のお偉いさんたちに、一泡吹かせてやろうって憤ってる、俺たちを船に乗せてくれて……」

 女海賊が遮ろうとする事も構わず、若い海賊は次々と動機や経緯についてまで吐露する。

「はぁ~……心に二、三本、釘を打ち付けられた気分……見事なまでの悪役扱いじゃねぇか。

 ミレーヌちゃんは、英雄扱いされるって言ってたのによぉ……」

 若い海賊の供述を聞いたコータは深く溜息を吐き、恨めしそうに夕空の雲を見上げた。


 ――ブィンッ!、ザシッ!


 その時、コータは密かに風の魔法を放ち、一斉に海賊たちを捕縛している縄を全て切った!

「……⁉」

「――そーいうコトなら、これから暮らして行く上で悪いイメージを重ねたくはねぇからね。

 無罪放免だ、俺の領主就任の恩赦も兼ねて」

 コータは、シッシとハエでも追い払う様な手ぶりを海賊たちの船に向け、渋い顔を女海賊に向けた。

「よっ、よろしいのですか?」

「まだ『助平な異界人』ってトコが、ぐっさり心に刺さってるから、理由は後にしてくれる?」

 まさかの判断に驚いているアイリスに、コータは萎んだ表情でそう言うと、同じく驚いて唖然としている、女海賊の方へと向かい……

(――魔神様、ちいと勝手な頼みをするよ?)

 ――と、何事かをサラキオスに告げ、彼女の前に立つ…

 ――ガクっ!

 その時、コータの右半身が崩れる様に脱力し、その場に膝を落とした。

「なっ……⁉」

「コータ様⁉」

 女海賊以下は更に唖然とし、アイリス以下の皆もその事態を一様に驚くが、コータは左手を挙げ、心配は要らないというジェスチャーを見せた。

「――このとおり、実は片抜けの障害持ちでね…魔神様に、何かと手伝って貰ってる立場なワケよ。

 だから、”アッチ”の方も、情けねぇがロクに勃ゃあしねぇ身体だから、アンタらが心配する様なこたぁ、まずは無ぇから安心してくれ」

 ――と、コータは苦笑も交えて、海賊たちの瞳を見据えながらそう言った。

「アッ、アンタ……魔法を解いちまって、その隙にアタシが反撃するとは思わなかったのかい?」

「ああ、経緯を聞いたら、侠気がある船長みたいだったからね。

 現世俺がいた世界じゃ、そーいう船長は英雄ヒーローだからな、手足が伸びたりして♪」

 そう言うと、コータは身体を元に戻して、女海賊に向けて快活に笑った。

「ふっ、ふん……見逃してくれた礼は言わないよ?、だけど、ランジュルデ沖では、仕事がし難くなっちまったね……」

 女海賊はそう渋い表情で言うと、甲板に置いてあったつばの広い帽子を被り直し……

「アタシはエリナ、エリナ・ヒュマド・女海賊マカフーナラ

 新しい領主様も、この辺りの海で何か困った事があったら、この船を探してみると良いさ」

 ――そう名乗り、彼女は自分たちの船へと乗り移り、帆を拡げて船団から離れて行く。


(――むむ?!、これはツンデレ系ヒロイン参戦のフラグが立ったって事じゃね?

 あの船長、ちょっと頬を赤らめてたし……)

 ――と、その別れ際の様に、そんな事を思ってシンジは眺めていた。
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