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ランジュルデ城の人々
新生活
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朝もやに覆われた庭園の中から、ブンッと幾度も風切り音が上がる、何かの素振りをしていると思しき音が響いている。
ココは、ランジュルデ城中庭――そして、コレは現世の時刻で表すなら、ようやく朝日が顔を覗かせ始めた、初夏の午前4時半と言った具合の風景である。
そんな早朝から中庭へと出て、丹精にも木剣を振るって剣の稽古に勤しんでいるのは、アイリスその人であった。
丁度、時刻の話から始まったのを良い機会として、前話からの時の動きについて触れておくと――今は、コータたちがこの島へと着いてから、三か月ほどが過ぎた日の朝である。
ココからはしばらく、彼ら、彼女らが、この新天地でどんな新生活を経て、この三か月後に至っていたかに触れて行こう。
「――ふぅ」
まず、その先達に挙がったアイリスは、今の一振りに何かを感じたのか、はたまた単に息を切らしたのかは定かではないが、とにかく一息を吐いて、満足気に構えを解き、胸元からハンカチ状の布を取り出して、額に滲んだ汗を軽く拭った。
「――今日も朝から、精が出ますな、アイリス殿」
――と、そこに彼女の背後から、若い男の声が響いた。
「ふっ……それは、貴公もお互い様であろう?、カミュ殿よ」
アイリスは、振り向く事も無く、声のした方向に向けてそう言うと、構わずと言った体で汗を拭い続ける。
「ふふ、もはや騎士の、剣士の――言わば、戦士の性ゆえの日課ですからなぁ、朝稽古は」
そう応えて中庭に入って来て、カミュと呼ばれた、若い男の声の主とは――尖った耳に金髪という、見るからにエルフィ族の者だと解る風貌で、その金髪をふわりと長く背へと垂らした、声を発していなければ、女性と見紛うのが必至な美形のエルフィ青年である。
彼はカミュ・エルフィ・ロトバスマ――エルフィ国から、コータの下へと派遣された近衛兵の一人だ。
コータと共に着いたドワネ、ホビルからやって来た者たちから遅れて半月後、エルフィからも、彼と同伴したクレア以外の派遣臣下たち、31名がこのランジュルデ島へとやって来た。
魔神蹂躙に因る人口の激減や、半ばゼロから始まる恰好である、復興事業における人手不足の事を鑑みれば、本来なら今のエルフィ国に、コータの下へ人材を送り出す余裕は無かったはずなのだが、ソコは、エルフィ族らしいプライドの高さが先に立ち、30名弱という少数――しかも、殆どが今の国の状態では暮らし難いが故の移民、難民に近い立場の者ではあったが、このランジュルデ島へとやって来る事になった。
その中でも、このカミュは数少ないエルフィ政府筋からの出向者の一人で、同時に彼は、貴族の家柄という出自も持っていた。
――とはいえ、彼はミレーヌとは幼い頃からの友人で、彼女と近い先進的な価値観の持ち主というコトもあり、彼女の肝煎りでコータの下へと送られたという経緯が有った。
国や種族は違えど、片やヒュマド王子が送り込んだ女性近衛――片や、エルフィの姫と入魂の仲にある男性近衛と、そんな似た境遇のためか、彼はアイリスと妙に馬が合っていると言えよう。
ちなみに、彼の年齢は二十歳で、先にも言ったが、かなりの美形でもあり、彼が島に降り立った時には、島民の女性の中から悲鳴の様な歓声が沸いたり、失神者が出たりする程のレベルで……
「ミレーヌたん……さては、依り代が女性だった場合を見越して、こんな超絶イケメンを用意して……はっ⁉、まさか、コータとの男の娘展開やBL展開を期待して⁈」
――とは、シンジがカミュを初見した時の独り言である。
「アイリス殿、一手……如何かな?」
――と、カミュは提げて来た細身の木剣をスッと前へと示して、アイリスに手合わせを申し入れる。
彼の剣術スタイルは、アイリスの様な両刃の片手持ち西洋風長剣ではなく、フェンシングに用いられる様な細身の剣――現世風に言えばレイピア、フルーレと呼ばれる類の剣である。
エルフィ兵の中では、このスタイルが一般的で、魔力に長ける種族ゆえ、剣術はあくまでも魔法をメインに戦う上での補助戦法と言った位置付けであるためか、武器としての攻撃よりも、敵への牽制に因る捌きに重きを置いている節がある。
「――よろしいのですかな?、確かに私の方は、丁度、身体が温まって来た頃合いですが」
アイリスは唐突に聞こえたカミュからの申し入れに、少し戸惑って見せた。
「心配はご無用――何せ、ココに来るまでに城の周辺を一っ走りして来たトコロ故、身体の方はもう、すっかり温まっておりますよ♪」
カミュはニヤリと笑って、挑発気味に刃を上下させる。
「ふふ……♪、早起きが癖の方の近衛としては、こうなるのも必然――ですなっ!」
その挑発に応える様にアイリスは、カミュの居る方へと一気に駆け出し、大振りの胴払いを、試合開始の合図が如く振り放った!
――カッ!、カッ!、カカッ!
「――おっ?、やってるねぇ……」
中庭から響く、木剣がまみえる音を聞き、相も変わらずこの時刻でも、既に目を開けているコータは、朝の小鳥の囀りに耳を傾ける様な気分で、そんな独り言を溢した。
「コータ様……独り言が聞こえておりますよ?、起床の時刻まで、もう少しお眠りを」
――と、コータの独り言に、直ぐ側から応えたのは……なんと!、クレア本人である。
ここで強く、強くっ!、描写の説明を補足させて貰うが――これはコータが、いよいよついに、クレアを寝床へと連れ込ん、…彼女と只ならぬカンケイになり、ココからは18禁展開に移行……という、シンジが望みそうな流れになったワケではなく、これはクレアが主治医として、例の早起き癖が気になり、自ら見張りを買って出たからであった。
「――現世でのご事情は理解しますが、そのお身体で、早朝の内から果敢に活動されるのは、医療魔法士としてはあまり看過出来ませんと、ワールアークに居た頃からあれほど……」
「いやぁ、別にする事も無いから、疲れたりもしないしねぇ……島に来てからは特に。
だから、余計に早く、目が覚めちゃうんだよぉ」
困った様子で、コータの悪癖というよりは、身体を気遣っているとは言えない生活態度を嘆き、頭を抱えた体のクレアに、コータもその様子をそのまま返すが如く、苦笑いを見せて彼女が座る方へと寝返りを打つ。
(そこで『お前を抱けば、流石に疲れてしまうかもな……』――と、言いながら、銀髪医女の肩を抱き寄せ、寝床へと引き摺り込むのだった……)
(――って、精神世界で、勝手な官能風ナレーション付けてんじゃねぇよ!、エロ魔神様ぁっ!)
――という、依り代と魔神のやり取りはさておき、確かに、別にする事が無いという、コータのセリフにも一理あった。
ハッキリ言って、暇人を自認していた現世での生活以上に、コータは暇を持て余していた。
洗顔や入浴――そして、3度の食事や、朝晩のクレアの診療を日課から除けば、決まって行っている事と言えば、せいぜい見回りと称して、アイリスとカミュを主な伴に連れ、ヤネスが居るホビル族の工房や、ニーナが働いているドワネの鍛冶職人たちが建設中の高炉など、変わり始めている島中を視察に出かけている程度。
領主としての責務が待っていると思っていたコータは、正直拍子抜けを喰らっていた。
(――なぁ~んか、移って来た人たちにも、島の人々にも、避けられてるって言うか、腫物扱いされてる気がするんだよね)
――とは、ある日、コータ自身が心中で溢した愚痴である…
もちろん、彼女らがいるホビルやドワネの者たちには、視察の度に歓迎されているし、それは自分と同じく、ココを新天地として定めたエルフィの人たちからも同じ、
そして、島の人々に代表されるヒュマドの人たちにも、同様と言って良い歓迎は受けるが……
『――ご心配に及びません故、お任せください』
『――サラギナーニア様の、お手を煩わせる様な事では……』
『いやいやっ!、その様な事は、畏れ多い事にございます』
――と、仔細を尋ねたり、何か手伝いを申し出たり、困った事は無いかと聞いたりすると、決まって、この3つのセリフのどれかをテンプレの如く聞かされているのだった。
こうなっている理由は、コータ自身にも少なからず、問題がある事は彼も自戒していた。
自分は、世界規模の余所者であるワケだし、イロイロな面で勝手も大違いなのだろうから、何かを手伝うにも役立たず甚だしい事は理解している――それに、到着早々彼は、自分の現世での生い立ちや、身体の障害の事を、これからこの島で生きて行く自分の事を知って貰うために、包み隠さず島民に告げる事にしたのだった。
公表した意図とは、もちろん、得体の知れない異界人であり、世界を滅ぼしかけた魔神をその身に宿している、自分に対する偏見や疑念を和らげるため――特に、先の海賊騒動の発端だった、例の好色疑惑という言われ無きデマを払拭したいからだった。
だが、これは彼にとって、狙ったのとは少し違う方向へと反響した。
彼の生い立ちや障害の事を知った皆は、彼に親近感をより一層に覚え、そんな彼の下に集い、彼を支えて行く事への使命感もより一層に強くなった。
一言で言えば――彼の生い立ちへの『同情』と、障害への『哀れみ』、そして、それらに加えて、自分たちの世界を救うためにその境を躊躇い無く超え、その身を魔神に奉げてくれた、彼の勇気と犠牲心への『感謝』の思いが沸騰したのだった。
(――俺は、身体動かせる様になるかもってのに飛び付いた、打算バリバリの狡いヤツだって、言ってんのになぁ……)
――と、コータもこれまでの経緯を脳裏に浮かべながら、側で不満気に頬を膨らませ、同時に心配そうに自分の寝顔を見張っているクレアの顔を見やり、もう一度目を閉じた。
――それに、ココからは彼も知り得ない事柄ではあるが、コータが政務や何やらに干渉する事を良しとはしたくない、トラメス一派の思惑も絡んでいると思って良い。
「――色仕掛け漬けにするという計画はぁ、当人がそんな事情では頓挫しても仕方ないが……その様な事情を抱える領主にぃ、激務が待つ政治を委ねるなど、そんな非人道的な行いはぁ、人として出来ませんよぉっ……私はぁ♪、うふぅ♪、うふふふ……」
――とは、日が昇り始めた今も、変わらぬ権力をこの島で振るい続けている夢の中で眠っている、トラメスの寝言である。
――どうやら、コータの領主生活のおける『障害』を乗り越えるには、前途多難の道のりが待っている様だ。
ココは、ランジュルデ城中庭――そして、コレは現世の時刻で表すなら、ようやく朝日が顔を覗かせ始めた、初夏の午前4時半と言った具合の風景である。
そんな早朝から中庭へと出て、丹精にも木剣を振るって剣の稽古に勤しんでいるのは、アイリスその人であった。
丁度、時刻の話から始まったのを良い機会として、前話からの時の動きについて触れておくと――今は、コータたちがこの島へと着いてから、三か月ほどが過ぎた日の朝である。
ココからはしばらく、彼ら、彼女らが、この新天地でどんな新生活を経て、この三か月後に至っていたかに触れて行こう。
「――ふぅ」
まず、その先達に挙がったアイリスは、今の一振りに何かを感じたのか、はたまた単に息を切らしたのかは定かではないが、とにかく一息を吐いて、満足気に構えを解き、胸元からハンカチ状の布を取り出して、額に滲んだ汗を軽く拭った。
「――今日も朝から、精が出ますな、アイリス殿」
――と、そこに彼女の背後から、若い男の声が響いた。
「ふっ……それは、貴公もお互い様であろう?、カミュ殿よ」
アイリスは、振り向く事も無く、声のした方向に向けてそう言うと、構わずと言った体で汗を拭い続ける。
「ふふ、もはや騎士の、剣士の――言わば、戦士の性ゆえの日課ですからなぁ、朝稽古は」
そう応えて中庭に入って来て、カミュと呼ばれた、若い男の声の主とは――尖った耳に金髪という、見るからにエルフィ族の者だと解る風貌で、その金髪をふわりと長く背へと垂らした、声を発していなければ、女性と見紛うのが必至な美形のエルフィ青年である。
彼はカミュ・エルフィ・ロトバスマ――エルフィ国から、コータの下へと派遣された近衛兵の一人だ。
コータと共に着いたドワネ、ホビルからやって来た者たちから遅れて半月後、エルフィからも、彼と同伴したクレア以外の派遣臣下たち、31名がこのランジュルデ島へとやって来た。
魔神蹂躙に因る人口の激減や、半ばゼロから始まる恰好である、復興事業における人手不足の事を鑑みれば、本来なら今のエルフィ国に、コータの下へ人材を送り出す余裕は無かったはずなのだが、ソコは、エルフィ族らしいプライドの高さが先に立ち、30名弱という少数――しかも、殆どが今の国の状態では暮らし難いが故の移民、難民に近い立場の者ではあったが、このランジュルデ島へとやって来る事になった。
その中でも、このカミュは数少ないエルフィ政府筋からの出向者の一人で、同時に彼は、貴族の家柄という出自も持っていた。
――とはいえ、彼はミレーヌとは幼い頃からの友人で、彼女と近い先進的な価値観の持ち主というコトもあり、彼女の肝煎りでコータの下へと送られたという経緯が有った。
国や種族は違えど、片やヒュマド王子が送り込んだ女性近衛――片や、エルフィの姫と入魂の仲にある男性近衛と、そんな似た境遇のためか、彼はアイリスと妙に馬が合っていると言えよう。
ちなみに、彼の年齢は二十歳で、先にも言ったが、かなりの美形でもあり、彼が島に降り立った時には、島民の女性の中から悲鳴の様な歓声が沸いたり、失神者が出たりする程のレベルで……
「ミレーヌたん……さては、依り代が女性だった場合を見越して、こんな超絶イケメンを用意して……はっ⁉、まさか、コータとの男の娘展開やBL展開を期待して⁈」
――とは、シンジがカミュを初見した時の独り言である。
「アイリス殿、一手……如何かな?」
――と、カミュは提げて来た細身の木剣をスッと前へと示して、アイリスに手合わせを申し入れる。
彼の剣術スタイルは、アイリスの様な両刃の片手持ち西洋風長剣ではなく、フェンシングに用いられる様な細身の剣――現世風に言えばレイピア、フルーレと呼ばれる類の剣である。
エルフィ兵の中では、このスタイルが一般的で、魔力に長ける種族ゆえ、剣術はあくまでも魔法をメインに戦う上での補助戦法と言った位置付けであるためか、武器としての攻撃よりも、敵への牽制に因る捌きに重きを置いている節がある。
「――よろしいのですかな?、確かに私の方は、丁度、身体が温まって来た頃合いですが」
アイリスは唐突に聞こえたカミュからの申し入れに、少し戸惑って見せた。
「心配はご無用――何せ、ココに来るまでに城の周辺を一っ走りして来たトコロ故、身体の方はもう、すっかり温まっておりますよ♪」
カミュはニヤリと笑って、挑発気味に刃を上下させる。
「ふふ……♪、早起きが癖の方の近衛としては、こうなるのも必然――ですなっ!」
その挑発に応える様にアイリスは、カミュの居る方へと一気に駆け出し、大振りの胴払いを、試合開始の合図が如く振り放った!
――カッ!、カッ!、カカッ!
「――おっ?、やってるねぇ……」
中庭から響く、木剣がまみえる音を聞き、相も変わらずこの時刻でも、既に目を開けているコータは、朝の小鳥の囀りに耳を傾ける様な気分で、そんな独り言を溢した。
「コータ様……独り言が聞こえておりますよ?、起床の時刻まで、もう少しお眠りを」
――と、コータの独り言に、直ぐ側から応えたのは……なんと!、クレア本人である。
ここで強く、強くっ!、描写の説明を補足させて貰うが――これはコータが、いよいよついに、クレアを寝床へと連れ込ん、…彼女と只ならぬカンケイになり、ココからは18禁展開に移行……という、シンジが望みそうな流れになったワケではなく、これはクレアが主治医として、例の早起き癖が気になり、自ら見張りを買って出たからであった。
「――現世でのご事情は理解しますが、そのお身体で、早朝の内から果敢に活動されるのは、医療魔法士としてはあまり看過出来ませんと、ワールアークに居た頃からあれほど……」
「いやぁ、別にする事も無いから、疲れたりもしないしねぇ……島に来てからは特に。
だから、余計に早く、目が覚めちゃうんだよぉ」
困った様子で、コータの悪癖というよりは、身体を気遣っているとは言えない生活態度を嘆き、頭を抱えた体のクレアに、コータもその様子をそのまま返すが如く、苦笑いを見せて彼女が座る方へと寝返りを打つ。
(そこで『お前を抱けば、流石に疲れてしまうかもな……』――と、言いながら、銀髪医女の肩を抱き寄せ、寝床へと引き摺り込むのだった……)
(――って、精神世界で、勝手な官能風ナレーション付けてんじゃねぇよ!、エロ魔神様ぁっ!)
――という、依り代と魔神のやり取りはさておき、確かに、別にする事が無いという、コータのセリフにも一理あった。
ハッキリ言って、暇人を自認していた現世での生活以上に、コータは暇を持て余していた。
洗顔や入浴――そして、3度の食事や、朝晩のクレアの診療を日課から除けば、決まって行っている事と言えば、せいぜい見回りと称して、アイリスとカミュを主な伴に連れ、ヤネスが居るホビル族の工房や、ニーナが働いているドワネの鍛冶職人たちが建設中の高炉など、変わり始めている島中を視察に出かけている程度。
領主としての責務が待っていると思っていたコータは、正直拍子抜けを喰らっていた。
(――なぁ~んか、移って来た人たちにも、島の人々にも、避けられてるって言うか、腫物扱いされてる気がするんだよね)
――とは、ある日、コータ自身が心中で溢した愚痴である…
もちろん、彼女らがいるホビルやドワネの者たちには、視察の度に歓迎されているし、それは自分と同じく、ココを新天地として定めたエルフィの人たちからも同じ、
そして、島の人々に代表されるヒュマドの人たちにも、同様と言って良い歓迎は受けるが……
『――ご心配に及びません故、お任せください』
『――サラギナーニア様の、お手を煩わせる様な事では……』
『いやいやっ!、その様な事は、畏れ多い事にございます』
――と、仔細を尋ねたり、何か手伝いを申し出たり、困った事は無いかと聞いたりすると、決まって、この3つのセリフのどれかをテンプレの如く聞かされているのだった。
こうなっている理由は、コータ自身にも少なからず、問題がある事は彼も自戒していた。
自分は、世界規模の余所者であるワケだし、イロイロな面で勝手も大違いなのだろうから、何かを手伝うにも役立たず甚だしい事は理解している――それに、到着早々彼は、自分の現世での生い立ちや、身体の障害の事を、これからこの島で生きて行く自分の事を知って貰うために、包み隠さず島民に告げる事にしたのだった。
公表した意図とは、もちろん、得体の知れない異界人であり、世界を滅ぼしかけた魔神をその身に宿している、自分に対する偏見や疑念を和らげるため――特に、先の海賊騒動の発端だった、例の好色疑惑という言われ無きデマを払拭したいからだった。
だが、これは彼にとって、狙ったのとは少し違う方向へと反響した。
彼の生い立ちや障害の事を知った皆は、彼に親近感をより一層に覚え、そんな彼の下に集い、彼を支えて行く事への使命感もより一層に強くなった。
一言で言えば――彼の生い立ちへの『同情』と、障害への『哀れみ』、そして、それらに加えて、自分たちの世界を救うためにその境を躊躇い無く超え、その身を魔神に奉げてくれた、彼の勇気と犠牲心への『感謝』の思いが沸騰したのだった。
(――俺は、身体動かせる様になるかもってのに飛び付いた、打算バリバリの狡いヤツだって、言ってんのになぁ……)
――と、コータもこれまでの経緯を脳裏に浮かべながら、側で不満気に頬を膨らませ、同時に心配そうに自分の寝顔を見張っているクレアの顔を見やり、もう一度目を閉じた。
――それに、ココからは彼も知り得ない事柄ではあるが、コータが政務や何やらに干渉する事を良しとはしたくない、トラメス一派の思惑も絡んでいると思って良い。
「――色仕掛け漬けにするという計画はぁ、当人がそんな事情では頓挫しても仕方ないが……その様な事情を抱える領主にぃ、激務が待つ政治を委ねるなど、そんな非人道的な行いはぁ、人として出来ませんよぉっ……私はぁ♪、うふぅ♪、うふふふ……」
――とは、日が昇り始めた今も、変わらぬ権力をこの島で振るい続けている夢の中で眠っている、トラメスの寝言である。
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