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ランジュルデ城の人々
進展
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「――はい、結構です」
クレアは場に敷いた魔力の波動を解き、コータに朝の診療が終わった事を告げた。
「はぁ、ありがとう、ございましたぁ……」
――と、コータは彼女に向けて軽く頭を下げ、側においた衣を着直し始める。
結局、あの後から1時間半ほどが経つまで、コータは起き上がる事をクレアに許しては貰えず――二人は何とも言い難い時間を共に過ごし、二人は朝の内から疲れてしまった様な表情で、互いに苦めの笑みを交わす。
「クレアさん――まさか、本気で寝ずの番を決め込むだなんて、思ってもみなかったよ」
「……っ!、ロ、近衛のアイリスやカミュ殿、側付きメイドの皆さんからも、医療魔法士の所へ、気付けの薬茶を処方して欲しいという声がやたらと届くので、仔細を伺ったら――コータ様は、毎朝4時には起きられるので、ご支度が遅れない様に備えるためだと聞いたら、コータ様の御身を預かる立場としては、黙っては居られませんよぉ……」
コータが更に苦笑を強め、恥ずかしそうにクレアへそう言うと、彼女は幾分狼狽気味な口調でそう告げると、困った表情を彼に向ける。
クレアの心配事とは、現世でも比較的有名な『朝6時より前に起きる生活は、脳出血のリスクを上げる』――という説が発端で、これは異世界であるクートフィリアの医学界でも挙げられている、世界を超えた共通見解でもあった。
コータの担当看護師兼主治医――”的な立場”となって、クレアがまず取り組んだのは、この世界では『片抜け』と称されている、脳血管障害についてイチから学び直す事であった。
彼女は、コータと出会ったあの日から、ワールアークを旅立つ約半月の間――暇さえあれば、ヒュマドの王立図書館(※ミレーヌ経由、アルムのコネクションを使って顔パス状態)に通い詰め、片っ端から『片抜け』について触れた医学書を読み漁り、ランジュルデ島に着いてからも、この地で手に入る限りの医学書を側に常備している熱の入り様。
彼女が、如何にこの役目に真剣に取り組んでいるのかが、よく解る事柄である。
「俺も現世に居た頃から、早起きのリスクの事は解ってんだけどぉ……」
「――実態が早起きでは、解かっているとは言えませんよぉ……
ですから、私が如何に心配しているかを、伝えるために今回の様な……」
――と、言い訳を口にするコータに、クレアは更にジト目を強め、泳いでいる彼の瞳を見詰める。
「解かった、解ったから、もう許してぇ……これからは気を付けますからぁ――で、クレアさんは言わば、”夜勤明け”なワケだから、部屋に戻ってゆっくり寝てちょうだい――じゃねっ♪」
コータは宥める様に彼女にそう告げて、彼女を寝室に残してその場を後にした。
「――もうっ!、まったくぅ……」
――その後、自分以外は誰も居なくなったコータの寝室を見渡すと、彼女は唐突に赤面し、身震いをしてその場――先程まで、コータが寝ていたベッドの上に倒れ込む。
(ひっ……一晩中、寝ずに男性の寝顔を見続けているだなんて、私はなんて破廉恥な行いをぉ……)
クレアは――火の様に熱く火照った自分の頬に触れ、恥ずかしそうに身悶えをしながらジタバタと脚を動かし、ピンと張っていたはずの敷かれていたシーツを乱した。
その彼女の脳裏に――医学書の端に見かけた『片抜けに因る男性機能への影響』やら『発症後の性的意欲についての何某……』などの、部分が過り……
(――うぅぅぅ~っ!、私は一体、ナニを考えているのよぉ~っ⁉
コータ様の……異性の、はっ!、裸をぉ……毎朝毎晩診ているからって、欲情……しているとでもいうの?!、これでは医療魔法士失格どころか――まるで、発情した雌猫ではありませんかっ⁉)
――と、顔をシーツの波に埋め、唇をへの字に結び、ワナワナと震える手の爪を噛んだ。
そう――クレアは、コータに惹かれ始めている自覚があった。
まんまとミレーヌが……妹が、企んでいたとおりに。
特に、今の様にさりげなく最後に、相手の事を気遣う言葉で会話を〆るトコロなどは、不遇な理由で虐げられる境遇に居た彼女にとって、クリティカルヒットな働きをしているらしい……
どうやら彼女は、それなりの年齢ではあっても、コレが初恋の類らしく――理屈上では、この感情がそういうモノだと気付いても、どう対処するべきかは解からず、ただその思いを秘めたまま、あくまでも医療魔法士として接する事を、徹底しようと心掛けていた。
――とはいえ、あのような理由で一晩、付きっきりで見張るという方針に達する辺りは、もしかしたら"ワンチャン"……と言っては、彼女に失礼にはなるが、微かではあっても仲の進展を期待していた節はあったはずだろう。
――で、あの別れ際の会話……そして、彼の部屋で一人っきりになった事で、その緊張の糸はプッツリと切れてしまった様だ。
(――あっ、コレはぁ……コレが、コータ様のニオイぃ……)
――と、その時鼻腔をくすぐった、頭の隣にある枕からのニオイに誘われ、クレアはその枕を抱き寄せ、寝不足が限界に達し、深い眠りに落ちてしまった。
その後――寝入ってしまったクレアは、ベッドメーキングに来たメイドたちに発見され、この朝の事は城中、島中でちょっとしたスキャンダルへと発展するが、それはまた、別のハナシとしておこう。
クレアは場に敷いた魔力の波動を解き、コータに朝の診療が終わった事を告げた。
「はぁ、ありがとう、ございましたぁ……」
――と、コータは彼女に向けて軽く頭を下げ、側においた衣を着直し始める。
結局、あの後から1時間半ほどが経つまで、コータは起き上がる事をクレアに許しては貰えず――二人は何とも言い難い時間を共に過ごし、二人は朝の内から疲れてしまった様な表情で、互いに苦めの笑みを交わす。
「クレアさん――まさか、本気で寝ずの番を決め込むだなんて、思ってもみなかったよ」
「……っ!、ロ、近衛のアイリスやカミュ殿、側付きメイドの皆さんからも、医療魔法士の所へ、気付けの薬茶を処方して欲しいという声がやたらと届くので、仔細を伺ったら――コータ様は、毎朝4時には起きられるので、ご支度が遅れない様に備えるためだと聞いたら、コータ様の御身を預かる立場としては、黙っては居られませんよぉ……」
コータが更に苦笑を強め、恥ずかしそうにクレアへそう言うと、彼女は幾分狼狽気味な口調でそう告げると、困った表情を彼に向ける。
クレアの心配事とは、現世でも比較的有名な『朝6時より前に起きる生活は、脳出血のリスクを上げる』――という説が発端で、これは異世界であるクートフィリアの医学界でも挙げられている、世界を超えた共通見解でもあった。
コータの担当看護師兼主治医――”的な立場”となって、クレアがまず取り組んだのは、この世界では『片抜け』と称されている、脳血管障害についてイチから学び直す事であった。
彼女は、コータと出会ったあの日から、ワールアークを旅立つ約半月の間――暇さえあれば、ヒュマドの王立図書館(※ミレーヌ経由、アルムのコネクションを使って顔パス状態)に通い詰め、片っ端から『片抜け』について触れた医学書を読み漁り、ランジュルデ島に着いてからも、この地で手に入る限りの医学書を側に常備している熱の入り様。
彼女が、如何にこの役目に真剣に取り組んでいるのかが、よく解る事柄である。
「俺も現世に居た頃から、早起きのリスクの事は解ってんだけどぉ……」
「――実態が早起きでは、解かっているとは言えませんよぉ……
ですから、私が如何に心配しているかを、伝えるために今回の様な……」
――と、言い訳を口にするコータに、クレアは更にジト目を強め、泳いでいる彼の瞳を見詰める。
「解かった、解ったから、もう許してぇ……これからは気を付けますからぁ――で、クレアさんは言わば、”夜勤明け”なワケだから、部屋に戻ってゆっくり寝てちょうだい――じゃねっ♪」
コータは宥める様に彼女にそう告げて、彼女を寝室に残してその場を後にした。
「――もうっ!、まったくぅ……」
――その後、自分以外は誰も居なくなったコータの寝室を見渡すと、彼女は唐突に赤面し、身震いをしてその場――先程まで、コータが寝ていたベッドの上に倒れ込む。
(ひっ……一晩中、寝ずに男性の寝顔を見続けているだなんて、私はなんて破廉恥な行いをぉ……)
クレアは――火の様に熱く火照った自分の頬に触れ、恥ずかしそうに身悶えをしながらジタバタと脚を動かし、ピンと張っていたはずの敷かれていたシーツを乱した。
その彼女の脳裏に――医学書の端に見かけた『片抜けに因る男性機能への影響』やら『発症後の性的意欲についての何某……』などの、部分が過り……
(――うぅぅぅ~っ!、私は一体、ナニを考えているのよぉ~っ⁉
コータ様の……異性の、はっ!、裸をぉ……毎朝毎晩診ているからって、欲情……しているとでもいうの?!、これでは医療魔法士失格どころか――まるで、発情した雌猫ではありませんかっ⁉)
――と、顔をシーツの波に埋め、唇をへの字に結び、ワナワナと震える手の爪を噛んだ。
そう――クレアは、コータに惹かれ始めている自覚があった。
まんまとミレーヌが……妹が、企んでいたとおりに。
特に、今の様にさりげなく最後に、相手の事を気遣う言葉で会話を〆るトコロなどは、不遇な理由で虐げられる境遇に居た彼女にとって、クリティカルヒットな働きをしているらしい……
どうやら彼女は、それなりの年齢ではあっても、コレが初恋の類らしく――理屈上では、この感情がそういうモノだと気付いても、どう対処するべきかは解からず、ただその思いを秘めたまま、あくまでも医療魔法士として接する事を、徹底しようと心掛けていた。
――とはいえ、あのような理由で一晩、付きっきりで見張るという方針に達する辺りは、もしかしたら"ワンチャン"……と言っては、彼女に失礼にはなるが、微かではあっても仲の進展を期待していた節はあったはずだろう。
――で、あの別れ際の会話……そして、彼の部屋で一人っきりになった事で、その緊張の糸はプッツリと切れてしまった様だ。
(――あっ、コレはぁ……コレが、コータ様のニオイぃ……)
――と、その時鼻腔をくすぐった、頭の隣にある枕からのニオイに誘われ、クレアはその枕を抱き寄せ、寝不足が限界に達し、深い眠りに落ちてしまった。
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