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ランジュルデ城の人々
『家族』と共に朝食を
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「――ふぅ、皆さん、今朝はコータ様のご所望で、異界の作法でという事になったのです。
ココは、元来の常識に囚われずに参りましょう」
――と、従者を束ねる立場となっているセバンは、緊張しているシャルムやリズたちに、そう声を掛けた。
「でっ、ですがセバン様――主従が同じ卓で食事を共にするは、有るまじき行いのはず……
主から臣下への施しの象徴である食べ物を、醜くも喰らう姿を直に主の目に触れさせるは、非礼な行為なのでは?」
シャルムは深く俯き、自分が知る限りの主従間の作法を、セバンに対して挙げる。
「それに……それがリズたち奴隷の者だったなら、このヒュマドの国においては、死罪となった例もあるという重罪。
コータ様が、そうなさる様な御方ではないのはもちろん承知ですが、その事は知る者としてはどうにも……」
――と、シャルムはセバンとコータへ順に目配せしながら、不安気に俯いて見せた。
「よくご存じ――流石です、シャルム嬢。
此度のご指示には、確かに私も驚きましたが、この場でその異界の作法を知るのはコータ様、ただ御一人――ココは、後学の一環と思って、従うのが肝要だと思いますよ?」
「シャルム――キミが、皆を代表して述べた理由に付け加えた一文は、キミが如何に主君の人となりを良く理解し、同時に信頼を寄せている証拠、キミの姿勢は、臣下の鑑と言っても良い」
シャルムの視線に、セバンは『臣下業』の先輩として諭す意見を言い、それを補足する体でカミュは、シャルムの臣下として姿勢を誉めて見せた。
「わっ、解りました……異界人で在られるコータ様の下だからこそ、他の方の下では出来ない経験が出来るのだと思う様に致します」
シャルムは納得する様でそう言うと、側のリズたちに向けて頷き、彼ら彼女らもそれに呼応して頷いてみせた。
「シャルムちゃん、みんな……何か、ゴメンね。
俺は、そんな事も知らずに、異界料理を皆に食べさせたいって、燥いじまって……」
「コッ!、コータ様!?、そっ!!、そんな畏れ多い事にございますっ!!」
浅はかだった自分の発想を悔い、リズたちに向けて頭を垂れて詫びて見せるコータに、言い出した立場のシャルムが慌ててそう言うと、右側の6人は椅子を投げ出して一斉に平伏する。
「ふぅ……やっぱ、俺ってコワいのかな?
得体の知れない異界人――で、オマケに世界を滅ぼしかけた魔神まで、身体に宿してるとなったらしゃあないのかねぇ?」
――と、コータは短い溜息と共に、床の上で震えているシャルムたちの姿を寂しそうに見つめ、そう自戒的に呟いた。
「――というよりは、この世界においての主従関係とは『こういうモノ』であると申した方が良いでしょうね」
これにもセバンがコータの声に応え、彼ら彼女らの様子をそう解説した。
「じゃあ……まずは平伏は止めて、席に戻ってくれるかな?、コレ、命令ってコトで」
「はっ、はいっ!!」
――と、セバンの解説が実践される様に、右側の6人は一斉に席へと戻った。
「うわっ!、まあ、それこそ『そういうモン』って事か。
うっ!、ううんっ――えっと、俺が頼んだ事って、別に『異界の作法』なんて仰々しいモンじゃなくてだね……ただ、みんなで一緒に食事をしたいってだけなんだ、同じ城で、一緒に暮らしてる――『家族』と一緒にね」
コータは、凄い勢いで命令に応じるシャルムたちの姿に驚くと、続けて一つ咳払いをして、自分の『頼み』の意図を話し始めた。
「――っ!?」
「えっ……!」
主であるコータの口から出た『家族』という単語に――皆が一様に驚き、特に奴隷という立場の5人は、互いに顔を見合わせた。
「してる家は少なくなっているとは聞いてたけど、家族みんなで顔を突き合わせて飯を食うのが現世では当たり前なんだ。
でも俺は、なにせ孤児みてぇなモンだったから、施設での食事はちょっと違う気がしてたし、大人になってからも、ずっと一人暮らしで家族も居なかったから、ちょっとした憧れでもあったんだ……和食の朝飯を、みんなで喰うのってさ」
――と、コータは恥ずかし気に、ポリポリとこめかみを掻きながら照れ笑いをする。
「まあ、皆を娘や息子みたいに思って――は、ちいとムリがあるけどさ、少なくとも俺は、皆を召使いの類には思ってないし、思いたくもない……」
コータが苦虫を咬んでいる様な表情で、そう呟いた時――全員分の膳を乗せた台車を押し、ミアとフレドが食堂へと入って来た。
「――うん、じゃあ食べよう!
家族全員で、イロイロと話しながら喰うのも、作法の一つだからね♪」
コータは良い機会として、これまでの話題からは離れ、笑みを浮かべて配膳の様子を見渡す――その時、顔を洗って強引に眠気を削ぎ落したと思しき、クレアも卓には着いている事に彼は気付いた。
「――って、クレアさん、寝てなくて大丈夫?」
「えっ、ええ……コータ様肝煎りのご所望ですし、私も異界料理には興味がありますので」
コータは心配そうに彼女の体調を気遣うが、クレアはそう主張すると俯く体で、何やら恥ずかしそうに彼の視線から逃れようとする。
配膳を手伝おうと立ち上がり、その様子を横目で見ていたシャルムとリズも――何やら、頬を赤らめている理由は想像に難くないであろう。
「――んじゃ、セバンさん、教えたとおりによろしく!」
「はっ――では皆さん、両手の平を胸の前で合わせ……」
コータの指示に応え、セバンがそう言うと、皆が前もって教わっていた『合掌』をして……
「え~っ……イッ、イタ?、イタダ、キマッス!」
――という、セバンのぎこちない『いただきます』で、コータの念願は始まったのだった。
ココは、元来の常識に囚われずに参りましょう」
――と、従者を束ねる立場となっているセバンは、緊張しているシャルムやリズたちに、そう声を掛けた。
「でっ、ですがセバン様――主従が同じ卓で食事を共にするは、有るまじき行いのはず……
主から臣下への施しの象徴である食べ物を、醜くも喰らう姿を直に主の目に触れさせるは、非礼な行為なのでは?」
シャルムは深く俯き、自分が知る限りの主従間の作法を、セバンに対して挙げる。
「それに……それがリズたち奴隷の者だったなら、このヒュマドの国においては、死罪となった例もあるという重罪。
コータ様が、そうなさる様な御方ではないのはもちろん承知ですが、その事は知る者としてはどうにも……」
――と、シャルムはセバンとコータへ順に目配せしながら、不安気に俯いて見せた。
「よくご存じ――流石です、シャルム嬢。
此度のご指示には、確かに私も驚きましたが、この場でその異界の作法を知るのはコータ様、ただ御一人――ココは、後学の一環と思って、従うのが肝要だと思いますよ?」
「シャルム――キミが、皆を代表して述べた理由に付け加えた一文は、キミが如何に主君の人となりを良く理解し、同時に信頼を寄せている証拠、キミの姿勢は、臣下の鑑と言っても良い」
シャルムの視線に、セバンは『臣下業』の先輩として諭す意見を言い、それを補足する体でカミュは、シャルムの臣下として姿勢を誉めて見せた。
「わっ、解りました……異界人で在られるコータ様の下だからこそ、他の方の下では出来ない経験が出来るのだと思う様に致します」
シャルムは納得する様でそう言うと、側のリズたちに向けて頷き、彼ら彼女らもそれに呼応して頷いてみせた。
「シャルムちゃん、みんな……何か、ゴメンね。
俺は、そんな事も知らずに、異界料理を皆に食べさせたいって、燥いじまって……」
「コッ!、コータ様!?、そっ!!、そんな畏れ多い事にございますっ!!」
浅はかだった自分の発想を悔い、リズたちに向けて頭を垂れて詫びて見せるコータに、言い出した立場のシャルムが慌ててそう言うと、右側の6人は椅子を投げ出して一斉に平伏する。
「ふぅ……やっぱ、俺ってコワいのかな?
得体の知れない異界人――で、オマケに世界を滅ぼしかけた魔神まで、身体に宿してるとなったらしゃあないのかねぇ?」
――と、コータは短い溜息と共に、床の上で震えているシャルムたちの姿を寂しそうに見つめ、そう自戒的に呟いた。
「――というよりは、この世界においての主従関係とは『こういうモノ』であると申した方が良いでしょうね」
これにもセバンがコータの声に応え、彼ら彼女らの様子をそう解説した。
「じゃあ……まずは平伏は止めて、席に戻ってくれるかな?、コレ、命令ってコトで」
「はっ、はいっ!!」
――と、セバンの解説が実践される様に、右側の6人は一斉に席へと戻った。
「うわっ!、まあ、それこそ『そういうモン』って事か。
うっ!、ううんっ――えっと、俺が頼んだ事って、別に『異界の作法』なんて仰々しいモンじゃなくてだね……ただ、みんなで一緒に食事をしたいってだけなんだ、同じ城で、一緒に暮らしてる――『家族』と一緒にね」
コータは、凄い勢いで命令に応じるシャルムたちの姿に驚くと、続けて一つ咳払いをして、自分の『頼み』の意図を話し始めた。
「――っ!?」
「えっ……!」
主であるコータの口から出た『家族』という単語に――皆が一様に驚き、特に奴隷という立場の5人は、互いに顔を見合わせた。
「してる家は少なくなっているとは聞いてたけど、家族みんなで顔を突き合わせて飯を食うのが現世では当たり前なんだ。
でも俺は、なにせ孤児みてぇなモンだったから、施設での食事はちょっと違う気がしてたし、大人になってからも、ずっと一人暮らしで家族も居なかったから、ちょっとした憧れでもあったんだ……和食の朝飯を、みんなで喰うのってさ」
――と、コータは恥ずかし気に、ポリポリとこめかみを掻きながら照れ笑いをする。
「まあ、皆を娘や息子みたいに思って――は、ちいとムリがあるけどさ、少なくとも俺は、皆を召使いの類には思ってないし、思いたくもない……」
コータが苦虫を咬んでいる様な表情で、そう呟いた時――全員分の膳を乗せた台車を押し、ミアとフレドが食堂へと入って来た。
「――うん、じゃあ食べよう!
家族全員で、イロイロと話しながら喰うのも、作法の一つだからね♪」
コータは良い機会として、これまでの話題からは離れ、笑みを浮かべて配膳の様子を見渡す――その時、顔を洗って強引に眠気を削ぎ落したと思しき、クレアも卓には着いている事に彼は気付いた。
「――って、クレアさん、寝てなくて大丈夫?」
「えっ、ええ……コータ様肝煎りのご所望ですし、私も異界料理には興味がありますので」
コータは心配そうに彼女の体調を気遣うが、クレアはそう主張すると俯く体で、何やら恥ずかしそうに彼の視線から逃れようとする。
配膳を手伝おうと立ち上がり、その様子を横目で見ていたシャルムとリズも――何やら、頬を赤らめている理由は想像に難くないであろう。
「――んじゃ、セバンさん、教えたとおりによろしく!」
「はっ――では皆さん、両手の平を胸の前で合わせ……」
コータの指示に応え、セバンがそう言うと、皆が前もって教わっていた『合掌』をして……
「え~っ……イッ、イタ?、イタダ、キマッス!」
――という、セバンのぎこちない『いただきます』で、コータの念願は始まったのだった。
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